SGLT2阻害剤対糖質制限?タイトルに騙されるな

今回はまず論文のタイトルと結果を先に見てもらいましょう。

「SGLT2 inhibitor versus carbohydrate-restricted isocaloric diet: reprogramming substrate oxidation in type 2 diabetes」

「SGLT2阻害剤対炭水化物制限等カロリー食:2型糖尿病における基質酸化の再プログラミング」(原文はここ

炭水化物制限を糖質制限と読み替えると、SGLT2阻害剤対糖質制限ということになります。研究はまだ未治療のHbA1c10以上で1 日平均食前血糖値が200以上の23人を対象としました。インスリン治療+普通の食事(エネルギー量は28kcal/kgなのでエネルギー制限食かな)のコントロール群と、インスリン+普通食+SGLT2阻害剤のカナグル100mg投与群と、インスリン+炭水化物制限食群です。12週間でどうなったか?

では結果です。(図は原文より、表は原文より改変)

上の図は0週、1週、12週の総インスリン投与量です。なぜ0週のインスリンがあるのかわかりませんが、1週と12週でカナグル100mg投与群と炭水化物制限食群で有意差がありました。炭水化物制限食の方がインスリン投与量が多かったのです。

上の図はベースラインと12週での食後血糖値の推移です。どの群もベースラインは違いはありません。12週ではコントロール群が少し高めに推移しているように見えます。

前 (0w)後 (12w)
コントロールSGLT2炭水化物制限コントロールコントロールSGLT2 SGLT2炭水化物制限 炭水化物制限
HbA1c (%)12.9±1.811.8±1.312.8±1.85.6±0.6− 55.5 ± 8.76.1±0.6− 48.4 ± 7.76.1±0.7− 51.9 ± 7.0
T-CHO (mg/dl)196.4±36.2192.1±43.7239.9 ± 29.8**  ***164.5±32.8− 15.5±13.7199.9±60.5− 2.0 ± 14.0*205.0 ± 28.9**− 14.1 ± 10.8
HDL-C (mg/dl)44.6±9.149.9±13.050.9±10.847.5±8.17.5±10.759.4±17.218.1±12.759.6 ± 10.1**18.5±15.9
LDL-C (mg/dl)119.4±28.6119.3±38.3163.6 ± 29.2**  ***102.4±30.9− 14.9 ± 19.2125.4±52.2− 3.1±14.6132.7 ± 32.6**− 18.9 ± 13.8***
中性脂肪 (mg/dl)146.3±56.3166.9±94.8170.9±119.792.4±44.4− 35.5 ± 25.0107.0±44.6− 25.0 ± 25.285.6±17.4− 37.8 ± 22.4
レプチン (ng/ml)19.4±11.712.3±6.713.3±6.421.3±19.511.9±57.013.5±8.117.6±36.922.1±19.055.2±87.7
高分子アディポネクチン (μg/ml)1.76±0.801.81±1.551.86±0.662.47±1.0453.7±62.53.18±2.3471.5±44.42.85±1.6650.8±59.3
総ケトン (µmol/l)557.6±753.1329.2±314.4751.7±1172.0256.8±245.4− 5.7 ± 87.3349.0±496.4− 25.8 ± 71.3173.0±121.5− 24.8 ± 91.7
アセト酢酸 (μmol/l)124.1±116.496.8±76.8205.1±298.777.8±66.84.1±100.675.4±76.4− 28.0 ± 58.552.1±40.6− 29.8 ± 89.3
βヒドロキシ酪酸 (μmol/l)433.4±638.4232.3±238.5546.6±873.5179.0±179.6− 8.3 ± 84.1273.6±425.7− 24.6 ± 78.0120.9±82.6− 22.2 ± 93.2

*p < 0.05%△Control vs %△SGLT2  **p < 0.05コントロール vs 炭水化物制限 ***p < 0.05 SGLT2i対炭水化物制限

上の表は様々なパラメータの変化です。インスリンが投与されているので、当然HbA1cはすべての群で大きく低下しています。カナグル100mg投与群は総コレステロール、LDLコレステロールの低下が少なくなりました。また、ベースラインですべての群で非常に高いケトン体値を示しています。最も低いカナグル100mg投与群でも330くらい、炭水化物制限群では750くらいです。インスリンの作用がかなり不足している状態なのでしょう。そして12週後にはどの群もケトン体値が大きく低下しています。

空腹時および食後のエネルギー消費量 (EE)です。空腹時は同じですが、食後30分と150分で、カナグル100mg投与群と炭水化物制限群でのエネルギー消費量がコントロール群よりも高くなっています。

上の図は呼吸商(RQ)です。低い方が脂質をエネルギーにしていると考えられます。空腹時RQは、コントロールと比較してカナグル100mg投与群でわずかに低くなっていました。RQの変化(食後RQ/空腹時RQ)は、コントロールと比較して、カナグル100mg投与群のΔRQ90(RQ0分とRQ90分の差)での炭水化物基質利用の増加により上昇しました。炭水化物制限ではΔRQ30 (RQ0分とRQ30分の差)とΔRQ90 が コントロールと比較して有意に増加しました。

この研究の結論では、炭水化物制限食は、SGLT2阻害剤と比較して同様の空腹時および食後のエネルギー消費量および基質酸化をもたらしましたが、炭水化物制限食でのインスリン必要量の増加は、SGLT2阻害剤およびコントロールと比較して、脂質およびタンパク質の消費量が比較的多いことがインスリン必要量に影響を与える可能性があることを示している、としています。

この研究は日本の東邦大学によるものです。この論文の結果が独り歩きをするとしたら、炭水化物を制限すると、つまり糖質制限をすると、SGLT2阻害剤を内服するよりもインスリンの必要量が多くなる可能性がある、となってしまいます。

では、今回の研究の炭水化物制限はどんなものでしょう。コントロールの普通食は炭水化物から1日総エネルギー必要量の60%、脂質から25%、タンパク質から15% ですが、炭水化物制限等カロリー食は、炭水化物からエネルギーの54%、脂質からのエネルギーの29%、タンパク質から17%です。炭水化物から60%と54%で何が違うの?これはSGLT2阻害剤によって尿中に捨てられるブドウ糖が1日に約50gだということからきているのですが、糖質制限をしていない場合、実際の食生活では50gの糖質量の差は誤差範囲でしょう。そして、いくら栄養士からカウンセリングや教育を受けてもちゃんとこのような炭水化物量が守られているかどうかも怪しいです。

タイトルと結論からでは、2型糖尿病では炭水化物制限とSGLT2阻害剤は同様の効果があるが、炭水化物制限をするとインスリン必要量が増加する、となってしまいますが、これは炭水化物制限と言えるようなものではありません。騙されないでください。

本当の糖質制限をすれば、糖尿病があまり進行していない場合ではインスリンは全く必要なくなることも多いでしょう。

でも、研究のためとはいえ、いきなりインスリン注射とSGLT2阻害剤って、さすがですね。食事は二の次、三の次なんでしょう。インスリン必要量を見ても、1週目と12週で全く量が変わっていないか、むしろわずかですが少し増えています。糖質過剰摂取をさせてインスリンと内服薬で血糖値を安定させても、糖尿病は治りません。徐々に悪化するでしょう。

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