SGLT-2阻害薬に伴う急性膵炎と死亡リスク

糖尿病薬のSGLT-2阻害薬はいくつもの利点が強調されています。しかし完全に安全な薬は存在しません。アメリカのFDA とカナダ保健省は、SGLT-2阻害薬によって引き起こされる急性膵炎の危険信号の可能性を相次いで(2016年と2018年)発表しています。急性膵炎の症例報告もいくつもあります。

今回の研究は、FDAの有害事象報告システムによるファーマコビジランスの研究です。

2013年の第1四半期から2021年の第4四半期までに合計76,872件の急性膵炎関連の有害事象が記録され、そのうち757件がSGLT-2阻害薬に関連しており、その内訳はカナグリフロジンで317件、ダパグリフロジンで150件、エンパグリフロジンで287件、エルツグリフロジン(日本未発売)で 3 件でした。 70.0%が入院治療または長期入院、4.2%の患者が死亡しました。報告オッズ比(ROR)はおよそ5でした。

SGLT-2阻害薬による急性膵炎の発症までの期間の中央値は54日で、報告された症例の約83%は薬剤投与開始後最初の6か月以内に発生しました。

併用薬剤の影響の解析では、DPP-4阻害薬、GLP-1薬、メトホルミン、インスリン、ACE阻害薬、PPI(プロトンポンプ阻害薬)などは、SGLT-2阻害薬単独療法よりも高くなっていました。

多変量解析では、スタチンと様々なSGLT-2阻害薬の組み合わせにより急性膵炎死亡の可能性が3.81倍高くなり、独立した危険因子であることが明らかになりました。

SGLT-2阻害薬が急性膵炎の発生リスクを高める可能性があります。せっかく(?)経口摂取した糖をおしっことしてすぐに捨ててしまう薬です。それなのに、急性膵炎とも関係がありそうです。SGLT-2阻害薬を8週間、前糖尿病患者に投与しても、すい臓脂肪含量およびインスリン分泌に対して影響がないという研究もあります。(ここ参照)

以前の記事「糖尿病薬?やせ薬?GLP-1受容体作動薬の副作用 その3 急性膵炎」で書いたように、GLP-1受容体作動薬でも多くの症例報告があります。

SGLT-2阻害薬は決して夢のような薬ではありません。日本未承認のエルツグリフロジンはアメリカで第4のSGLT-2阻害薬ですが、プラセボと比較して主要有害心血管イベントの発生を抑制できませんでした。(この論文参照)下肢の切断手術は、プラセボ投与を受けた患者45人(1.6%)と比較して、エルツグリフロジン5mg投与を受けた患者54人(2.0%)と15mg投与を受けた患者 57 人(2.1%)で実施されました。何となくスタチンと同じ匂いがしています。

糖質は体に一旦入れて、捨てるのではなく、最初から摂らないのが一番です。

 

「Analysis of acute pancreatitis associated with SGLT-2 inhibitors and predictive factors of the death risk: Based on food and drug administration adverse event report system database」

「SGLT-2阻害薬に伴う急性膵炎と死亡リスクの予測因子の解析:食品医薬品局有害事象報告システムデータベースに基づく」(原文はここ

7 thoughts on “SGLT-2阻害薬に伴う急性膵炎と死亡リスク

  1. 一旦入れて出すとなると、摂食障害で
    食べて吐く事を繰り返すのと
    変わらないかもしれませんね。

  2.  最近の糖尿病薬の副作用関連の記事を興味深く拝見しました。
    何か全体を束ねる筋がありそうということで、こんな感じで整理してみました。参考までに紹介します:

    ・GLP-1受容体動作薬は、過食(あるいは高タンパク食)した時に起こるインクレチン高濃度を誘導
    →小腸からの情報伝達に対し各臓器は過食(あるいは高タンパク食)したと判断して稼働する
    →小腸自身:過食で摩耗する腸管壁を肥厚させる(その1)、
     神経系:過食で副交感神経優位になり過ぎ気分が下がり気味に(その2)、
     消化器系:過食に応じて消化液を増やし疲弊気味に(その3-4)、
     (代謝系:タンパク質を捨てずに吸収するため体内アミノ酸プールの利用を増やし低タンパク気味に(その5))
    →薬の服用を続ける限りこれらが常態化するため、いずれトラブルが起き易くなるのだろう

    ・SGLT-2阻害薬は、低血糖などのためか食欲増進させる
    →過食に陥り易くなる →膵臓は過食に応じて稼働し疲弊気味に →膵炎

    (参考)
    高タンパク食で食欲抑制ホルモンの分泌が亢進するが、反応の仕方は性別により異なる -2022年01月29日
    ***https://sndj-web.jp/news/001660.php
    >一方、食後のGLP-1濃度は、高タンパク食条件では4.21 ± 5.19pMであるのに対して、対象条件では2.59 ± 4.18pMであり、高タンパク食条件のほうが有意に高値だった(p<0.001)。

    1. vinceroさん、コメントありがとうございます。

      んーどうなんでしょう?過食というのが定義が難しいですね。
      私自身1度に500~600gの肉(プラス魚と大豆製品)を食べることもあります。
      過食でしょうか?
      高タンパク食(過食)でGLP-1受容体動作薬と同様のことが起きるのであれば、
      糖質制限は有害ということになってしまいますね。
      糖質制限をしているのかどうかで代謝はかなり違うと思います。

      1. 「意識高い」方々は
        糖質摂取に対しては緩いのに
        「高蛋白食」
        (プロテインなどサプリ的摂取は確かに
        不自然ですが)に対して
        過剰に反応される印象があります。

  3. 「意識高い」方々は
    糖質摂取に対しては緩いのに
    「高蛋白食」
    (プロテインなどサプリ的摂取は確かに
    不自然ですが)に対して
    過剰に反応される印象があります。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      人類はそもそも高タンパク食で進化してきました。
      その高タンパク食で起きる代謝を薬で模倣しようとしても、それはごく一部の代謝にすぎません。

  4. 言葉足らずで申し訳ないです。

    補足しますと、糖質制限食は、リアル高タンパク食の故、
    問題が生じるとは思っていません。

    問題は、高タンパク食を仮想したり、リアル過食がないのに過食を仮想する点に
    問題があると考えています。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です