自殺のリスクは精神疾患だけでなく、薬でも高くなる可能性があります。日本では欧米ほど簡単には薬が手に入らないので、あまり問題にならないかもしれませんが、やはり注意が必要です。
今回の研究では、自殺リスクのマーカーとして一般的な鎮痛薬(麻薬と非麻薬性鎮痛薬(非ステロイド性抗炎症薬NSAIDsを含む)と鎮痛補助薬(ここでは神経障害性疼痛に使用されるプレガバリン(リリカ)、ガバペンチン、カルバマゼピン)について、2001年から2019年の間に自殺で死亡した15歳以上の患者14,515を対象として、対照と比較して、これらの薬を処方されなかった人と比較して自殺のリスクを分析しています。
性別と年齢の調整後のオッズ比 (95% CI) | 完全に調整(精神医学的診断について調整)後のオッズ比 (95% CI) | |
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鎮痛剤カテゴリー | ||
オピオイド | 2.01 (1.88–2.15) | 1.21 (1.13 ~ 1.30) |
非オピオイド | 1.48 (1.39 ~ 1.58) | 1.06 (0.99–1.13) |
鎮痛補助薬 | 4.07 (3.62–4.57) | 2.10 (1.86–2.37) |
前年度に処方された鎮痛薬カテゴリーの数 | ||
0カテゴリー | 1 | 1 |
1カテゴリー | 1.53 (1.43–1.64) | 1.08 (1.00–1.15) |
2つのカテゴリー | 2.18 (1.99–2.38) | 1.24 (1.14 ~ 1.36) |
3つのカテゴリー | 4.74 (3.91–5.75) | 2.02 (1.66–2.47) |
よく処方される鎮痛剤 | ||
オキシコドン | 6.70 (4.79–9.37) | 2.98 (2.09–4.24) |
プレガバリン | 6.50 (5.41–7.81) | 3.12 (2.57–3.78) |
モルヒネ | 4.54 (3.73–5.52) | 2.35 (1.92–2.89) |
ガバペンチン | 3.12 (2.59–3.75) | 1.64 (1.36–1.99) |
ジヒドロコデイン | 3.03 (2.50–3.67) | 1.59 (1.30–1.93) |
トラマドール | 2.47 (2.18 ~ 2.80) | 1.35 (1.19 ~ 1.54) |
パラセタモール | 1.87 (1.70–2.05) | 1.25 (1.14 ~ 1.37) |
コデイン | 1.79 (1.57–2.04) | 1.17 (1.02–1.34) |
コジドラモール | 1.65 (1.41–1.93) | 1.10 (0.94 ~ 1.30) |
ココダモール | 1.60 (1.45 ~ 1.76) | 1.03 (0.93–1.14) |
イブプロフェン | 1.43 (1.28 ~ 1.60) | 1.07 (0.95 ~ 1.20) |
ジクロフェナク | 1.22 (1.09 ~ 1.37) | 0.98 (0.88–1.11) |
ナプロキセン | 1.03 (0.89–1.19) | 0.79 (0.68–0.92) |
一般的に処方される個別鎮痛薬の中で、年齢と性別を調整した自殺の可能性が最も高いのは、オキシコドンで6.70倍でした。さらにプレガバリン(リリカ)でも6.50倍でした。精神疾患に対するさらなる調整によりリスクは軽減されましたが、それらの薬を処方された患者では依然としてリスクが大幅に上昇しました。オキシコドンの完全調整後では2.98倍、プレガバリンは 3.12倍でした。
カテゴリー別では麻薬よりもプレガバリンなどの方が自殺リスクが高くなっています。
上の図は、鎮痛剤の処方箋の受け取り頻度別の自殺の可能性を示しています。すべての鎮痛剤カテゴリーにわたって、処方数が多いほどリスクは高くなりました。自殺リスクは、次の 3 つの鎮痛薬カテゴリーすべてにおいて、年に13回以上処方された患者(月に 1 回以上に相当)で最も高く、麻薬で4.11倍、非麻薬鎮痛薬で2.7倍、鎮痛補助薬で6.20倍でした。
年齢別 | 調整後のオッズ比 (95% CI) | 完全に調整されたオッズ比 (95% CI) |
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麻薬 | ||
15~35歳未満 | 2.07 (1.67–2.57) | 1.12 (0.90 ~ 1.40) |
35~55歳未満 | 2.50 (2.25 ~ 2.80) | 1.35 (1.20–1.52) |
55歳以上 | 1.68 (1.51–1.87) | 1.17 (1.05 ~ 1.31) |
非麻薬 | ||
15~35歳未満 | 1.51 (1.26–1.82) | 0.99 (0.82–1.21) |
35~55歳未満 | 1.66 (1.49–1.84) | 1.10 (0.98 ~ 1.23) |
55歳以上 | 1.29 (1.17–1.43) | 1.04 (0.94–1.16) |
鎮痛補助薬 | ||
15~35歳未満 | 4.99 (3.16–7.89) | 2.12 (1.23–3.66) |
35~55歳未満 | 5.17 (4.30–6.22) | 2.47 (2.01–3.04) |
55歳以上 | 3.26 (2.68–3.96) | 1.96 (1.59–2.41) |
上の表のように、年齢は鎮痛薬の3つのカテゴリーすべてにわたって自殺リスクに影響があるようです。
麻薬を処方されなかった人と比較した場合、性別および精神疾患を調整した後、麻薬は35~55歳未満の患者で1.35倍、55歳以上の患者では1.17倍でした。さらに鎮痛補助薬を処方された患者ではすべての年齢層で上昇し、35~55歳未満の患者で2.47倍、15~35歳未満の患者で2.12倍でした。高齢者よりも比較的若い人の方が影響が大きいようです。
現在、プレガバリン(リリカ)の処方は世界的に激増しています。日本では乱用は少ないでしょうが、やはり脳に働く薬は十分な注意が必要です。(「リリカで自殺行動リスクが上昇」参照)
実は私には非常に苦い経験があります。その経験の前に私はリリカを処方した患者で痛い目に会い、それ以来リリカの処方には非常に慎重になっていました。しかし、ある患者で、私が処方しなくても、他の病院受診でリリカが処方されました。もともと非常に明るい方でしたが、リリカを処方された後からどんどん精神的におかしくなっていきました。私はリリカを内服するようになってからおかしな症状になっているから、すぐにリリカを止めるように強く勧めましたが、その方は止めませんでした。そしてある精神科の病院へ入院することになってしまい、その後は会っていません。
現在、非常に安易にリリカは処方されています。本当に効果があればまだ良いのですが、大した効果も得られないのに、ずっと処方されているケースもあります。そして、これは離脱症状が出る場合があり、急にやめることもできません。
もちろん、痛みが強いことは大きなストレスとなり、それが自殺リスクを上げる可能性もあります。
どんな薬もできる限り最小量で、最短で使用するようにするべきでしょう。
「Evaluation of common prescription analgesics and adjuvant analgesics as markers of suicide risk: a longitudinal population-based study in England」
「自殺リスクのマーカーとしての一般的な処方鎮痛薬と鎮痛補助薬の評価:英国における集団ベースの縦断研究」(原文はここ)
鎮痛薬始め、風邪薬、花粉の時期にはそれ用の薬、ちょっとした不快感を紛らわす
胃薬、目薬、痒み止め、栄養ドリンク、、それらを使うことが「健康管理」
と呼ばれている変な世の中です。