スタチンによる冠動脈石灰化促進 その3

心臓の専門家はかつて冠動脈の石灰化はリスクが高くなると言っていました。そして、スタチンがその石灰化を増加させるとわかると、今度は石灰化がプラークを安定化させるから良いことなのだというようになりました。

そして、スタチンは石灰化は促進するけど、カルシウムの密度が高くなるということを言い始めました。そしてプラークのカルシウム密度が高い方が心血管疾患リスクが低下すると言っています。

例えば、この論文。(ここ参照、下の図はこの論文より)

上の図は冠動脈疾患および心血管疾患のプラークの体積および密度スコアで4つのグループに分けたときのリスクを示しています。カルシウムの密度はハウンズフィールド単位 (Hu) という単位で、400Hu以上のプラークを最大の密度のグループに入れているので、非常に低いHuでしか考えていません。冠動脈疾患および心血管疾患のリスクの有意差は最大の密度スコアのグループのみで、およそ0.5倍です。しかも、1000人年あたりの発生率では、密度スコアが1~3まではスコアが上がると増加していて、スコアが4になると急に低下するという非線形性ですので、密度で本当にリスクが上がるか微妙です。

体積の方は下の図のように、体積スコアが増加するにつれ、冠動脈疾患および心血管疾患の1000人年あたりの発生率は増加しています。

しかし、興味深いことに、スタチン使用者の割合は体積スコアが増加する方が多くなっています。しかもコレステロールの平均値はどのグループも同じです。さらに、体積スコアが高いグループほど糖尿病の割合が高くなっています。本当は何が影響しているのか?

他の論文を見てみましょう。(ここ参照、下の図はこの論文より)

上の図のDEFはスタチン使用による冠動脈のカルシウムの密度別のプラークの体積の変化を示しています。Dは低密度カルシウム (351-700 HU)、Eは高密度カルシウム (701-1000 HU)、Fは非常に高密度 (>1000 HU) の1Kプラークです。そうすると、スタチンは高密度カルシウムと1Kプラークを増加させるようです。

上の図のように、スタチンは低密度カルシウムを減らして、高密度カルシウムの量を増やすようです。

別の論文を見てみましょう。(ここ参照、下の図はこの論文より)

上の図は急性冠症候群 (ACS) 患者と対照患者の組成別の全心臓プラーク量です。急性冠症候群では1Kプラークが少なく、線維性脂肪プラークが多くなっていました。しかし、絶対量として1Kプラークはわずかです。これくらいの体積で急性冠症候群を起こすかどうかが本当に決まるのでしょうか?

もう一つ見てみましょう(ここ参照、下の図はこの論文より、表はその論文より改変)

上の図は冠動脈CT血管造影の所見による、主要な心臓有害事象(MACE:心臓死、新たな急性心筋梗塞、冠動脈血行再建術 (PCI および CABG))を起こさずすんだ割合です。Aのようにプラークがいくつもの血管にあるほどMACEの発症は多くなり、Bに示すようにカルシウムスコアが高いほどMACEが多くなりますが、Cに示すように石灰化が起きている方がMACEは少なく、非石灰化プラークでは多くなり、一番多いのが混合型プラークのようです。

下の表は全てのMACEとハードMACE(心臓死と新たな急性心筋梗塞)のリスクを示しています。

危険因子すべての MACE ハザード比 (95% CI)ハード MACE ハザード比 (95% CI)
年齢1.04  (1.03 ~ 1.06)1.01  (1.00–1.04)
男性2.06  (1.62–2.62)2.00  (1.23–2.34)
糖尿病1.56  (1.20–2.03)1.21  (1.07 ~ 1.92)
高血圧1.60  (1.221–2.09)1.42  (1.12~2.00)
脂質異常症1.01  (0.82–1.22)1.01  (0.73–1.12)
喫煙1.62  (1.21–2.12)1.22  (1.14 ~ 2.02)
肥満1.10  (0.79 ~ 1.35)1.02  (0.71–1.22)
家族歴1.27  (1.01–1.61)1.21  (1.00–1.44)
CACS = 01.001.00
CACS 1 ~ 1007.18  (5.16–10.00)6.90  (3.97 ~ 12.00)
CACS 101–4009.21  (6.50–13.05)8.33  (4.62~15.00)
CACS >40022.22  (16.08–30.71)20.97(12.22~37.31)
冠動脈病変なし1.001.00
一枝疾患28.99  (20.86–40.38)17.83  (10.43–30.46)
二枝病変40.86  (28.69–58.19)20.59  (11.32~37.45)
三枝病変75.20  (53.53–105.64)56.81  (33.95–95.06)
石灰化プラーク1.001.00
非石灰化プラーク5.30  (3.67–7.65)3.01  (1.34–4.24)
混合プラーク9.54  (7.21–12.64)4.23  (1.58–7.57)

まず上の表で興味深いのは、脂質異常症がリスク増加が全くないことです。つまり高コレステロール血症は危険因子ではないのです。同様に肥満も危険因子になっていません。さて、カルシウムスコアは当然高いほど危険で、400を超えると20倍以上のリスクです。しかし、石灰化プラークは最もリスクが低く、石灰化プラークと比較して非石灰化では5.3倍、混合プラークでは9.54倍です。

そこでもう一つ論文を見てみましょう。

この論文は冠動脈血管造影CTを受けた、連続27,125人から、既知の冠動脈疾患(以前の心筋梗塞および/または冠血行再建術によって定義)やスタチンの使用が不明または血液データで脂質プロファイルが不明な人を除外した、合計6673人(スタチン治療を受けている2413人、スタチン治療を受けていない4260人)を対象とした、スタチンの使用と冠動脈プラークの組成についての分析です。

分析の結果、スタチンの使用は混合プラークの存在増加の可能性が高く1.46倍で、石灰化プラークの存在増加も1.54倍でした。非石灰化プラークとは関連していませんでした。

さらに、冠動脈は部位(セグメント)に番号が付いていて、1~14(または15)のセグメントに分かれます。スタチンの使用は混合プラークを有する冠動脈セグメントの数の増加の可能性が1.52倍で、石灰化プラークの増加の可能性は1.52倍ですが、非石灰化を有する冠状動脈セグメントの数は増加していませんでした。

ひとつ前の論文の結果を思い出してみましょう。混合プラークは9.54倍もMACEのリスクが高くなっていました。スタチンが混合プラークを増加させるのであれば、スタチンはMACEのリスクを上げる可能性もあります。

さらに、この論文ではスタチン治療で脂質コントロールの成功(LDLコレステロール < 130、総コレステロール < 200、HDLコレステロール ≥ 40 mg/dl によって定義)を得た人を分析しています。(表は原文より改変)

プラークタイプのあるセグメントの数のOR (95% CI)
非石灰化プラーク
LDL -C< 130 mg/dl1.06 (0.89–1.27)
総コレステロール < 200 mg/dl1.15 (0.96–1.39)
HDL-C ≧ 40 mg/dl1.14 (0.97–1.34)
混合プラーク
LDL-C < 130 mg/dl1.60 (1.37 ~ 1.88)
総コレステロール < 200 mg/dl1.70 (1.44–2.01)
HDL-C ≧ 40 mg/dl1.47 (1.27–1.71)
石灰化プラーク
LDL-C < 130 mg/dl1.61 (1.41–1.85)
総コレステロール < 200 mg/dl1.58 (1.37–1.82)
HDL-C ≧ 40 mg/dl1.56 (1.37–1.76)

その結果、スタチン使用でコントロールが脂質のデータが「成功」した場合、混合プラークと石灰化プラークの冠動脈セグメントの数の増加の可能性は増加し、混合プラークはLDLコレステロール低下で1.60倍、総コレステロール低下で1.70倍、HDLコレステロール増加で1.47倍でした。石灰化プラークもほぼ同様でした。

スタチンは石灰化を増やしてカルシウムの密度を増加させるかもしれません。しかし、混合型のプラークも増加させるかもしれません。そして混合プラークは冠動脈疾患のリスクを増加させるようです。そしてやはり石灰化の程度が高いのはリスクが高いことを考えると、たとえスタチンがプラークを安定化したとしても、安心はできないでしょう。

あとはどう考えるかはそれぞれです。

「Statins use and coronary artery plaque composition: results from the International Multicenter CONFIRM Registry」

「スタチンの使用と冠動脈プラークの組成: 国際多施設CONFIRMレジストリの結果」(原文はここ

One thought on “スタチンによる冠動脈石灰化促進 その3

  1. 三大疾病癌、脳卒中、心筋梗塞始め
    糖尿病や認知症なども
    糖質過剰摂取が大きな要因、
    ということは
    糖質制限で改善が望めますね。

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