糖尿病のある人は、スタチンによってLDLコレステロール値を下げているにもかかわらず、心血管疾患のリスクが高くなります…という文章をよく見かけます。大前提で心血管疾患の原因がLDLコレステロールの増加であると決めつけているのがよくわかります。前提が違えば矛盾も出てきます。単純に考えて心血管疾患の原因はLDLコレステロールではないのです。LDLコレステロールをマーカーだと考えるのであれば、まだ理解はできます。
今回の研究では、レムナントコレステロールについてです。以前の記事「レムナントコレステロールと心血管疾患のリスク LDLコレステロールはどうしちゃった?」と同じ、アルバータ州トゥモロー プロジェクト (ATP) という研究のデータを使用したものです。今回は糖尿病の有無での違いを見ています。
対象は13,631 人で平均年齢は61.6歳、69.8%が女性、6.5%が糖尿病です。心血管疾患の発症のリスクと非絶食時のレムナントコレステロールやLDLコレステロールなどとの関連を分析しました。(図は原文より、表は原文より改変)
糖尿病なし | 糖尿病あり | |
---|---|---|
調整済み HR | 調整済み HR | |
レムナントコレステロール | 1.22 (1.03–1.43) | 1.31 (0.84–2.05) |
LDL-C | 0.82 (0.75–0.88) | 0.71 (0.54–0.92) |
HDL-C | 0.71 (0.60–0.83) | 0.46 (0.26–0.81) |
中性脂肪 | 1.09 (1.01–1.17) | 1.20 (0.98–1.47) |
上の表のように、糖尿病がない場合レムナントコレステロールの増加は心血管疾患の発症リスク1.22倍に増加させました。糖尿病がある場合は1.31倍ですが有意ではありませんでした。
しかし、興味深いことにLDLコレステロールの増加は糖尿病の有無にかかわらず心血管疾患の発症リスクを低下させました。HDLコレステロールの増加も同様に糖尿病の有無にかかわらずリスクを低下させました。中性脂肪の増加は糖尿病なしで1.09倍とわずかな増加です。
上の図は心血管疾患の発症率です。左側が糖尿病有り、右側が糖尿病なしです。上からレムナントコレステロール、LDLコレステロール、HDLコレステロール、中性脂肪です。それぞれ数値により4つのグループに分けています。青いグラフはこの研究プロジェクト (ATP) で非空腹時脂質評価および心血管疾患発症前にスタチン使用を開始した割合です。オレンジは ATPで非空腹時脂質評価後で心血管疾患発症前にスタチン使用を開始した割合です。
全体的に見れば、糖尿病がある方が心血管疾患発症率は高くなっています。糖尿病のない群ではレムナントコレステロール増加で、しかもスタチンを使用している割合も増加しているのに、心血管疾患発症率が増加しています。
LDLコレステロールはもっと顕著で、糖尿病がある群ではLDLコレステロールが低いほどスタチンの使用率は高いのに心血管疾患発症率は高くなっています。糖尿病のない群でも同様の傾向があります。
HDLコレステロールもLDLコレステロールと同じです。糖尿病があっても無くても、HDLコレステロールが低いほどスタチンの使用率は高いのに心血管疾患発症率は高くなっています。
中性脂肪は増加するほどスタチン使用も多く、リスクは増加しています。
それでは、スタチンを使用しているかどうかで比べてみましょう。
スタチン非使用者 | ||
糖尿病なし | 糖尿病あり | |
HR | HR | |
レムナントコレステロール | 1.20 (1.00-1.45) | 1.32 (0.70-2.49) |
LDL-C | 0.79 (0.72-0.87) | 0.40 (0.27-0.61) |
HDL-C | 0.71 (0.59-0.85) | 0.49 (0.21-1.15) |
中性脂肪 | 1.08 (1.00-1.18) | 1.31 (0.97-1.76) |
ATP評価前からスタチン使用 | ||
糖尿病なし | 糖尿病あり | |
HR | HR | |
レムナントコレステロール | 0.75 (0.41-1.38) | n/a |
LDL-C | 0.91 (0.71-1.18) | n/a |
HDL-C | 0.84 (0.46-1.53) | n/a |
中性脂肪 | 0.88 (0.67-1.16) | n/a |
評価後にスタチン使用 | ||
糖尿病なし | 糖尿病あり | |
HR | HR | |
レムナントコレステロール | 1.55 (1.02-2.36) | 0.73 (0.30-1.79) |
LDL-C | 0.83 (0.69-1.00) | 1.03 (0.67-1.58) |
HDL-C | 0.65 (0.39-1.10) | 0.48 (0.18-1.32) |
中性脂肪 | 1.21 (1.00-1.47) | 0.86 (0.57-1.30) |
上の表のように、スタチンを使用していない人ではLDLコレステロールが高いほど心血管疾患リスクが低下してます。特に糖尿病のある人ではリスクが0.4倍です。しかし、スタチンを始めてしまったら、LDLコレステロール上昇の利益が消えてしまっています。
さらに、下の表も見てください。それぞれのパラメーターを4つのグループに分けたときの心血管疾患発症リスクです。
スタチン非使用者 | ||
糖尿病なし | 糖尿病あり | |
4分位(レムナントコレステロール) | HR | HR |
1 | 1 (reference) | 1 (reference) |
2 | 0.87 (0.69-1.08) | 2.17 (0.83-5.68) |
3 | 1.15 (0.93-1.41) | 2.51 (1.04-6.05) |
4 | 1.14 (0.93-1.40) | 1.87 (0.75-4.70) |
4分位(LDL-C) | HR | HR |
1 | 1 (reference) | 1 (reference) |
2 | 0.59 (0.48-0.73) | 0.25 (0.12-0.53) |
3 | 0.60 (0.49-0.73) | 0.19 (0.08-0.42) |
4 | 0.60 (0.49-0.73) | 0.11 (0.05-0.28) |
4分位 (HDL-C) | HR | HR |
1 | 1 (reference) | 1 (reference) |
2 | 0.84 (0.70-1.03) | 0.44 (0.18-1.06) |
3 | 0.82 (0.67-1.00) | 0.59 (0.27-0.29) |
4 | 0.63 (0.51-0.79) | 0.37 (0.16-0.85) |
4分位(中性脂肪) | HR | HR |
1 | 1 (reference) | 1 (reference) |
2 | 0.81 (0.65-1.01) | 1.65 (0.64-4.26) |
3 | 1.02 (0.83-1.26) | 2.83 (1.20-6.68) |
4 | 1.08 (0.88-1.33) | 2.18 (0.89-5.34) |
ATP評価前からスタチン使用 | ||
糖尿病なし | 糖尿病あり | |
4分位(レムナントコレステロール) | HR | HR |
1 | 1 (reference) | 1 (reference) |
2 | 1.09 (0.47-2.51) | 0.21 (0.04-1.10) |
3 | 1.16 (0.55-2.48) | 0.93 (0.30-2.89) |
4 | 0.66 (0.30-1.47) | 1.32 (0.47-3.65) |
4分位 (LDL-C) | HR | HR |
1 | 1 (reference) | 1 (reference) |
2 | 1.10 (0.61-1.99) | 0.79 (0.27-2.25) |
3 | 1.06 (0.53-2.13) | 1.14 (0.42-3.10) |
4 | 0.86 (0.44-1.69) | 1.23 (0.33-4.62) |
4分位 (HDL-C) | HR | HR |
1 | 1 (reference) | 1 (reference) |
2 | 1.31 (0.73-2.36) | 0.61 (0.21-1.81) |
3 | 1.16 (0.61-2.22) | 0.40 (0.13-1.21) |
4 | 0.68 (0.30-1.55) | 0.21 (0.05-0.84) |
4分位 (中性脂肪) | HR | HR |
1 | 1 (reference) | 1 (reference) |
2 | 0.93 (0.40-2.14) | 0.25 (0.05-1.35) |
3 | 1.12 (0.53-2.38) | 1.14 (0.35-3.71) |
4 | 0.62 (0.28-1.37) | 1.71 (0.59-4.96) |
評価後にスタチン使用 | ||
糖尿病なし | 糖尿病あり | |
4分位 (レムナントコレステロール) | HR | HR |
1 | 1 (reference) | 1 (reference) |
2 | 0.92 (0.47-1.82) | 1.20 (0.45-3.19) |
3 | 1.28 (0.70-2.35) | 0.96 (0.35-2.65) |
4 | 1.60 (0.90-2.86) | 0.62 (0.20-1.91) |
4分位 (LDL-C) | HR | HR |
1 | 1 (reference) | 1 (reference) |
2 | 1.03 (0.66-1.61) | 1.46 (0.62-3.42) |
3 | 0.77 (0.45-1.32) | 0.78 (0.28-2.14) |
4 | 0.67 (0.41-1.08) | 1.22 (0.42-3.57) |
4分位 (HDL-C) | HR | HR |
1 | 1 (reference) | 1 (reference) |
2 | 1.10 (0.73-1.66) | 1.05 (0.48-2.31) |
3 | 0.62 (0.35-1.07) | 0.44 (0.15-1.28) |
4 | 0.66 (0.35-1.24) | 0.37 (0.12-1.16) |
4分位 (中性脂肪) | HR | HR |
1 | 1 (reference) | 1 (reference) |
2 | 0.85 (0.43-1.68) | 1.14 (0.43-2.99) |
3 | 1.05 (0.57-1.93) | 1.01 (0.37-2.72) |
4 | 1.46 (0.82-2.59) | 0.62 (0.21-1.88) |
レムナントコレステロールは増加するほど、スタチンなしで糖尿病有りの人でリスクが高くなる傾向があるようです。それよりもLDLコレステロールを見てください。LDLコレステロールが最低のグループと比較するとLDLコレステロールが高い方がリスクが低下しています。糖尿病有りではLDL最高のグループはリスクは0.11倍にも低下しています。しかし、スタチンを使用するとLDLコレステロールが高い利益は無くなっています。
これをそのままで考えると、スタチンは心血管疾患のリスクを上げているように思えます。特に糖尿病有りの場合は被害は大きく見えます。
心血管疾患は糖質過剰症候群です。スタチンは糖尿病発症やインスリン抵抗性の増加を招くので、スタチンが悪さをすることは不思議ではありません。
レムナントコレステロールは糖質過剰摂取で増加します。糖尿病があれば当然レムナントは増加します。HDLコレステロールは低下し、中性脂肪は増加します。糖尿病でLDLはそれほど上がりません。コレステロールの代謝と島の代謝はつながっています。
もう心血管疾患の原因をLDLコレステロールと考えるのは止めましょう。
「Non-fasting lipids and cardiovascular disease in those with and without diabetes in Alberta’s Tomorrow Project: A prospective cohort study」
「アルバータ州のトゥモロープロジェクトにおける糖尿病の有無における非空腹時脂質と心血管疾患: 前向きコホート研究」(原文はここ)
スタチンにしてもベンゾジアゼピン
にしても、
藁をも掴む思いで飲んでいる薬が、
特に有効でないばかりか
他の重篤な病気の原因かも、
とは
皮肉な話(どころでは済まない)
ですね。
鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。
スタチンもPPIもポリファーマシー促進薬剤ですから