心臓の冠動脈の脆弱な非石灰化プラークは、有害な冠動脈イベントを引き起こす破裂のリスクが高くなります。そして内臓脂肪の量は、脆弱な冠動脈プラークの特徴と密接に関連していると考えられています。
糖尿病がある人とない人では、冠動脈の特徴はどうなっているでしょうか?
今回の研究では、心血管疾患の疑いがありコンピュータ断層撮影血管造影(CTA)を受けた456人の患者(男性57%、平均年齢64歳)が対象です。71人(16%)の患者は脆弱性プラークを有していました。糖尿病がある人は122人でした。糖尿病のあるグループとないグループに分け、それぞれの内臓脂肪の面積によって3つのグループ(T1~T3)に分けました。(図は原文より、表は原文より改変)
糖尿病なし | 糖尿病あり | |||||
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内臓脂肪T1 | 内臓脂肪T2 | 内臓脂肪T3 | 内臓脂肪T1 | 内臓脂肪T2 | 内臓脂肪T3 | |
年齢(歳) | 58±19 | 66±13* | 67±11* | 65±14 | 67±11 | 65±12 |
男性、n (%) | 45(41) | 60(54) | 77 (69)*† | 23(58) | 21(51) | 35 (85)*† |
BMI (kg/m 2 ) | 20±2 | 23±2* | 25±3*† | 22±3 | 25±4* | 27±4*† |
腹囲(cm) | 74±7 | 82±6* | 91±8*† | 80±8 | 88±9* | 96±10*† |
皮下脂肪組織 (cm 2 ) | 91±63 | 131±58* | 175±82*† | 112±72 | 151±79* | 177±90* |
内臓脂肪組織 (cm 2 ) | 35±15 | 82±13* | 147±39*† | 55±22 | 111±13* | 180±41*† |
高血圧、n (%) | 47 (42) | 59(53) | 70(63)* | 23(58) | 31(76) | 33(80)* |
脂質異常症、n (%) | 26(23) | 48(43)* | 56(50)* | 25(63) | 25(61) | 28(68) |
現在の喫煙、n (%) | 18(16) | 25(22) | 29(26) | 11(28) | 6(15) | 9(22) |
総コレステロール (mg/dl) | 184±39 | 192±37 | 189±38 | 185±40 | 187±34 | 189±34 |
中性脂肪 (mg/dl) | 92(51) | 149 (88)* | 169 (103)* | 106 (46) | 154 (78) | 200 (165)*† |
HDL-コレステロール (mg/dl) | 63±17 | 57±15* | 53±15* | 60±19 | 54±14 | 53±19* |
LDL-コレステロール (mg/dl) | 108±33 | 115±32 | 109±34 | 107±28 | 113±29 | 109±34 |
HbA1c (%) | 5.5±0.3 | 5.7±0.4* | 5.8 ± 0.5*† | 7.4±1.6 | 7.5±1.6 | 7.4±1.7 |
高感度 CRP (mg/dl) | 0.16 (0.14) | 0.15 (0.12) | 0.16 (0.13)* | 0.14 (0.11) | 0.16 (0.20) | 0.20 (0.22) |
薬 | ||||||
降圧剤、n (%) | 44(40) | 50(45) | 66 (59)*† | 21(53) | 27(66) | 31 (76)* |
脂質低下剤、n (%) | 15(14) | 32(29)* | 37 (33)* | 20(50) | 11 (27)* | 23 (56)† |
血糖降下剤、n (%) | 0 (0) | 0 (0) | 0 (0) | 22(55) | 29(71) | 30(73) |
上の表はそれぞれのグループの特徴です。糖尿病のない患者では、T3グループは T1 グループよりも男性の割合が高く、年齢が高く、高血圧の有病率が高く、降圧剤の使用が多く、脂質異常症の有病率が高く、脂質降下剤の使用が多く、HDLコレステロールが低く、中性脂肪、HbA1c、および hsCRP が低くなっていました。糖尿病ありでは、T3グループはT1グループに比べて男性の割合が高く、高血圧の有病率や降圧剤の使用率が高く、中性脂肪値が高くなっていました。
内臓脂肪領域は、糖尿病患者の場合、T1 ≤ 87 cm2、87 < T2 ≤ 130.0 cm2、T3 > 130.0 cm2、糖尿病のない患者の場合、T1 ≤ 60 cm2、60 < T2 ≤ 106 cm2、および T3 > 106 cm2でした。
下の図は糖尿病有無別で内臓脂肪領域により3つに分けたときの様々なプラークの特徴の有病率です。左が糖尿病なし、右が糖尿病ありです。CP:石灰化プラーク、NCP:非石灰化プラーク、PR:ポジティブ・リモデ リング(代償性拡大)、LDP:低密度プラーク、SC:斑点状の石灰化です。ポジティブ・リモデ リングというのは、病変部の冠動脈 が血管外側に向かって拡大する変化で、不安定狭心症や心筋梗塞群に多く認められるそうです。一方血管が内側に向かって収縮するような構造変化を生じるネガティブ・リモデリングは安定狭心症群に多く認められるそうです。ポジティブ・リモデリングは冠動脈狭窄の進行を妨げる代償的作用であるのに、プラークの不安定化に関連して急性冠症候群の発症に関与するという不思議な現象です。
そうすると、糖尿病がない人では、内臓脂肪の増加に伴い様々なタイプのプラークが増加しています。しかし、糖尿病のある人では内臓脂肪の量とは関連していませんが、既に内臓脂肪が最も少ない群でも糖尿病がない人の内臓脂肪が最も多い群に匹敵するレベルのプラークが認められています。そうすると、内臓脂肪よりも高血糖や高インスリン血症の方がプラークと関連しているように考えられます。糖尿病のない患者では内臓脂肪面積が大きいほど脆弱性プラークの可能性が3.17倍高いことと有意に関連していました。
上の図はBMIによって3つのグループに分けたときの様々なプラークの有病率です。不思議なことに糖尿病ありでは中間のBMIのT2の方が最もBMIの高いT3よりもいくつかのプラークが多いという現象が認められました。
上の図は腹囲によって3つのグループに分けたときの様々なプラークの有病率です。糖尿病なしで、これまたT2のグループが最も有病率が高いプラークがいくつかありました。
上の図は皮下脂肪量によって3つのグループに分けたときの様々なプラークの有病率です。ほとんどのプラークで有意差がありませんでした。
いずれも、内蔵脂肪のグラフのところで書いたように、糖尿病のある人では様々なパラメータが最も低い群でも、糖尿病がない人のそのパラメータ最も高い群に匹敵するレベルのプラークが認められています。
糖尿病なし | 糖尿病あり | |||||
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内臓脂肪T1 | 内臓脂肪T2 | 内臓脂肪T3 | 内臓脂肪T1 | 内臓脂肪T2 | 内臓脂肪T3 | |
石灰化プラーク | 1.7±2.3 | 2.1±2.7 | 3.0 ± 3.1 | 3.4±3.4 | 3.3±3.3 | 4.8±3.7 |
非石灰化プラーク | 0.7±1.3 | 1.3±1.6 | 1.6±2.0 | 2.1±2.2 | 2.0±2.2 | 2.4±2.1 |
混合プラーク | 0.5±0.9 | 0.9±1.2 | 1.2±1.7 | 1.3±1.6 | 1.3±1.9 | 1.7±1.8 |
脆弱なプラーク | 0.2±0.6 | 0.3±0.5 | 0.3±0.7 | 0.6±1.1 | 0.6±1.0 | 0.5±0.8 |
著しい狭窄 | 0.3±0.7 | 0.3±0.8 | 0.6 ± 1.3 | 0.6±1.1 | 0.6±1.2 | 0.8±1.2 |
冠動脈カルシウムスコア | 177 (156) | 207 (145) | 307 (270) | 461 (746) | 380 (241) | 495 (958) |
上の表は糖尿病の有無別で内臓脂肪量によって3つのグループに分けたときの、様々なプラークの数です。糖尿病がない場合、内臓脂肪量に応じて様々なプラークが増加していますが、糖尿病は内臓脂肪と関連していません。糖尿病ありのT1が糖尿病なしのT3と同等かそれを上回っています。
糖尿病発症前の状態では、内臓脂肪は重大な心臓代謝の危険因子である可能性がありますが、糖尿病はすでに内臓脂肪だけの話ではないのです。それほど糖尿病であること、糖尿病ではない人であれば内臓脂肪増加と関連するインスリン抵抗性、高血糖が大いに心臓のプラークと関連していると考えられます。
心血管疾患は糖質過剰症候群です。まずは糖質制限です。
「Differential association of visceral adipose tissue with coronary plaque characteristics in patients with and without diabetes mellitus」
「糖尿病の有無における内臓脂肪組織と冠状動脈プラークの特徴との異なる関連性」(原文はここ)