リンパ組織の扁桃は、一般に扁桃腺と呼ばれる口蓋扁桃や、アデノイド(咽頭扁桃)などがあります。子供の頃に取った人もいるかもしれません。
私が若い頃は扁桃摘出手術といえば子供が中心だった記憶があります。しかし、最近は大人の人でも扁桃摘出手術が多い気がします。摘出しなくても扁桃が非常に大きい大人が増えている感じがします。(データがないので私の印象です)
エビデンスはありませんが、この扁桃の肥大も恐らく糖質過剰摂取と関連しているのではないかと思っています。最近はコロナワクチンでIgA腎症になって扁桃摘出を受ける大人も増加したかもしれませんが。
さて、扁桃は別になくても良いと思っている人も多いかもしれません。いわゆる「盲腸」と言われる虫垂もいらない臓器だと考えている人も多いでしょうけど、体の中にいらないものはありません。(「虫垂炎と胃食道逆流症と糖尿病」参照)
扁桃も免疫に大きくかかわり、口腔内の細菌叢にも影響するかもしれません。
今回の研究では、デンマークの1,189,061人の子供を対象とした人口ベースのコホート研究で、10~30年追跡しています。17,460人がアデノイド切除術、11,830人が扁桃摘出術、31,377人がアデノイドと扁桃摘出術の両方を受けました。(図は原文より)
下の図は生後9年以内に手術を受けたかどうかに応じて、30歳までの28の疾患の相対リスク(RR)、絶対リスク差(ARD)、NNT(害を及ぼすのに必要な治療数)を推定したものです。左からアデノイド切除術、扁桃摘出術、アデノイドと扁桃摘出術です。
扁桃摘出術は、上気道疾患の相対リスクの2.72倍の増加と関連しており、絶対リスク(絶対リスク差18.61%)が大幅に増加しました。NNTは5であり、約5回の扁桃摘出術だけで1人が上気道疾患になる計算です。まあ、上気道疾患というのはありふれているので、誰がなってもおかしくありませんが、いわゆる上気道感染が起きやすいと思われます。アデノイド切除でもリスク2倍です。
下気道の呼吸器疾患はアデノイド切除で1.61倍、扁桃摘出で1.24倍、両方で1.38倍です。
喘息はアデノイド切除で1.45倍、扁桃摘出で1.41倍、両方で1.34倍です。
COPD(慢性閉塞性肺疾患)はアデノイド切除で2.11倍です。
呼吸器疾患以外にも、他の感染症やアレルギー疾患(結膜炎1.75倍)などもリスクが少し増加しています。
そして、気になったのがneoplasms(新生物、いわゆるがんも新生物)です。それが1.2倍前後のリスク増加です。NNTも200前後です。気になったのでさらに調べてみました。
スウェーデンの4,953,583人を対象した研究では、扁桃摘出術、アデノイド切除術、または両方の摘出術後のがんリスクが若干増加しました。全てのがんで1.1倍、すい臓がん1.23倍、乳がん1.06倍、前立腺がん1.15倍、腎臓がん1.33倍、甲状腺がん1.18倍、白血病1.22倍などです。(この論文参照)
リンパ組織の除去とその結果として生じる免疫応答の変化によって、がんのリスク増加が起きている可能性があります。安易に切除するものではないのでしょう。また、扁桃などを摘出しなければならない人は、それだけ糖質過剰摂取であり、がんのリスクが増加するのかもしれません。がんのリスクを下げるために摘出しないで我慢するというのではなく、摘出しないで済むような食事をすることが重要でしょう。
扁桃摘出とがんの関連をもうちょっと次回以降に見ていきます。
「Association of Long-Term Risk of Respiratory, Allergic, and Infectious Diseases With Removal of Adenoids and Tonsils in Childhood」
「小児期のアデノイドおよび扁桃の切除と呼吸器疾患、アレルギー疾患、感染症の長期リスクとの関連性」(原文はここ)