インスリン感受性の低下は、末梢のインスリン抵抗性としてよく知られており、末梢組織におけるインスリン作用が効きにくい状態であり、高インスリン血症、脂質および耐糖能の障害を引き起こします。これまでもインスリン抵抗性の指標はいくつも考えられてきました。
インスリン抵抗性を測定するには侵襲的な高インスリン正常血糖クランプ法がスタンダードかもしれませんが、通常はそんな煩雑なことはやってられません。HOMA-IRも指標の一つですが、空腹時のインスリン値の測定が必要になるので、実際にはハードルが高くなります。健康診断などで血液検査のデータで推測できるのは非常に望ましいので、TyGインデックスや中性脂肪/HDLコレステロール比も十分なインスリン抵抗性の指標
インスリン抵抗性の代謝スコア(METS -IR)という指標がOmar Yaxmehen Bello-Chavollaらによって提唱されました。末梢のインスリン抵抗性を評価する目的で新しく考えられました。これも通常の検査でわかるデータだけでインスリン抵抗性が推測できます。早速下の計算機に入力してみましょう。
いくつになりましたか?私は25.52でした。いくつ以上が明らかなインスリン抵抗性であるという数値は決まっていませんが、30以下が一つの目標でしょう。BMIや中性脂肪、HDLコレステロール、血糖値で推測するので、TyGインデックスや中性脂肪/HDLコレステロール比を合わせたような指標で、より代謝異常、メタボリックシンドロームを加味したようなものになっています。
一つ、このMETS-IRと2型糖尿病の関連の論文を見てみましょう。
高インスリン正常血糖クランプ (EHC)を受けた125人(57人が非糖尿病、68人が2型糖尿病)でMETS-IRを評価し、肝臓内および膵臓内の脂肪とのスコアの相関関係を評価しました。続いて、6144人を対象に、2型糖尿病の発症を予測する能力を評価しました。
詳しいことは省略して、METS-IRは非常に良い指標となるようです。また、METS-IRは内臓脂肪、肝臓内脂肪、すい臓内脂肪と有意に相関していました。
6144人の平均2.42年間の追跡調査で5.4%が2型糖尿病になりました。(図は原文より)
上の図のように右側の糖尿病を発症した人では、ベースラインでBMI、空腹時血糖、空腹時インスリン、中性脂肪、総コレステロールが高く、HDLコレステロールは低下していました。そしてフォローアップ時で、空腹時血糖は大きく増加し、中性脂肪と総コレステロールとHDLコレステロールは低下していました。BMIと空腹時インスリンは大きな変化がありませんでした。
2型糖尿病を発症した人は、非糖尿病の人と⽐較するとベースラインでのMETS-IRスコアが有意に⾼く、50.2対44.7でした。
上の図のAに示すように、ベースラインでもフォローアップ時でも、2型糖尿病発症した人ではMETS-IRが高くなっていました。Bに示すようにMETS-IRの値で3つの群に分けると、最もMETS-IRが高い人で2型糖尿病の発生率が著しく高くなっていました。
最もMETS-IRが低い群と比較して、3つの群の最も高い群 (METS-IR >47.86)で2型糖尿病発症リスクが2.92倍、真ん中の群でMETS-IR(40.16-47.86)で リスクは2.38倍でした。 METS-IRを4つに分けたときでは最も高いのは METS-IR>50.39で、リスクは3.91倍でした。
このように見ると、METS-IRが50を超えるとリスクが非常に高いように見えますが、3つに分けたときでは40以上でリスクが2.38倍なので、少なくとも40以下が良いと思われます。しかし、これでもかなり高いような気がします。
例えば、170cm、75kg、BMI26、空腹時中性脂肪150、HDLコレステロール45、空腹時血糖105で、
METS-IR=40.13 です。
元々はメキシコ人を対象に作られた指標なので、日本人にとって適応できるかの検証が必要かもしれません。そんな日本人にMETS-IRはどうなのか?それは次回以降で記事にしたいと思います。
「METS-IR, a novel score to evaluate insulin sensitivity, is predictive of visceral adiposity and incident type 2 diabetes」
「インスリン感受性を評価する新しいスコアである METS-IR は内臓脂肪蓄積と 2 型糖尿病の発症を予測する」(原文はここ)
清水先生 いつも貴重な情報ありがとうございます
計算したところ、私は18.58でした