ケトン食によるうつ病と不安障害の完全寛解

様々な精神疾患は糖質過剰症候群です。進化の過程で本来は食べることのほとんどなかった糖質を大量に摂取している現代で脳に様々な影響が起きることは不思議ではありません。

今回の研究は症例報告です。エビデンス至上主義では、エビデンスレベルは非常に低いですが、製薬会社が儲からない研究は大規模に行われることはまずないでしょう。

今回の症例3例は、うつ病と不安障害を合併し、複雑な併存疾患を有する人たちです。個別化されたホールフード動物ベースのケトジェニック代謝療法(ケトン比1.5:1、1日に摂取する脂質と炭水化物+タンパク質の重さの比。例えば糖質20g+タンパク質70gだと、脂質は135g)で12~16週間行いました。動物性の食事というのが良いですね。

βヒドロキシ酪酸>0.8 mmol/Lを維持するようにしました。うつ病はPHQ-9というもので評価、不安障害はGAD-7というもので評価しました。寛解はPHQ-9 < 4、GAD-7 < 1としています。生活の質の改善はSCSというもので評価しています。

症例1は32歳の無職の既婚男性です。治療されていなかった再発性のうつ病、ならびに不安障害、強迫性障害、トリパノフォビア(注射恐怖症)、および過食症の病歴がありました。彼は幼少期から顕著な不注意と注意散漫を経験しており、薬物治療である程度効果がありました。長い間、SSRI、SNRI、その他の抗うつ薬などの治療を断っていました。彼は、自分の複雑な症状が自分の機能と生活の質に広範囲に影響を及ぼし、その結果仕事を維持できず、経済的に不安定になり、人間関係が悪化していることに気づいていませんでした。代謝的には、肥満 (BMI34.7 )、体脂肪率36.1%、中性脂肪241mg/dL、TG/HDL比は 6、AST/ALT は44/82mg/dL と上昇していました。空腹時血糖は82mg/dLでした。

ケトン食開始時に時間制限食を取り入れることを選択し、1日2食を4~8時間の食事時間内に摂取しました。ケトン食開始から数日以内にβヒドロキシ酪酸は0.8 mmol/L以上、下の図のように1週間以内に4.6mmol/Lまで達し、副作用もありませんでした。不安は1週間以内にGAD-7が16から8に減少して改善し、6週間後に完全に消失しました。ベースラインでPHQ-9は17で、中等度のうつ病を示しましたが、5週間以内にうつ症状は完全に消失しました(PHQ-9 ≤ 4)。過食はケトン食開始後数日以内に止まり、患者は「空腹になりすぎることがなくなった」ことと「食べていることに気づかずに食べることがなくなった」ことを報告しました。SCSは4週間で3から4.6に増加しました。精神集中力、エネルギー、自信の回復、仕事への復帰意欲が増したと報告しました。開始から4週間以内に、患者は以前の経験を超える厳しいフルタイムの職を確保し、その後3つのオンライン大学コースを開始しました。(図は原文より)

10 週目に、彼はウェイトリフティング中に疲労を訴えましたが、検査は拒否しました。1日1食しか食べていないことが多く、タンパク質の必要量と主要栄養素/微量栄養素の目標を満たすには不十分であることがわかりました。調査により、体脂肪の減少が遅れることを恐れて意図的に摂取量を制限していることがわかりました。主要栄養素の必要量を新しい方法で提示され、安心し、すぐに摂取量を1日最低2食に増やし、推奨どおりに脂肪を増やしました。12週目までに、強迫観念は解消され、不安はほぼなくなりました。対人関係も改善されました。

代謝的には、12週間で16.8kg減量し、BMIは34.7から29.6に減少し、体脂肪率は36.1%から28.7%に減少しましたが、除脂肪体重は減少せず、血圧は136/102から116/81に正常化しました。

薬の治療では得られない結果でしょうね。次を見てみましょう。

症例2は、幼少期の逆境と最近の職場経験から、ずっと気分調節障害、イライラ、トラウマを患っている36歳の既婚男性です。幼少期に不安障害、パニック障害、PTSD を患ったほか、中程度に重度で持続的な再発性うつ病を患っていました。不安は認識されず、治療もされていませんでした。幼少期から青年期にかけて、様々な薬物治療を受けて、様々な副作用を起こしていました。 19歳の時にすべての精神科治療を中止しましたが、症状は15年間残っていました。

うつ病と併発する不安障害に加えて、ADHDを認めました。病歴は、若年性強直性脊椎炎、高脂血症、閉塞性睡眠時無呼吸、胆嚢炎、ビタミンB12欠乏症、ビタミンD欠乏症でした。代謝的には、BMI28.7、体脂肪率26.1、空腹時インスリン、HOMA-IR、および血圧は正常範囲内でした。

ケトン食開始して、ビタミンD3/K2を1日1回5,000 IU経口摂取に増やし、マグネシウムグリシン酸塩を1日1回250~350 mg経口摂取に加え、砂糖を含む電解質飲料を砂糖不使用の飲料に切り替えました。しかし、当初、毎日の脂質摂取の目標を達成するのに苦労し、激しい運動をし、運動中に新たな疲労感を訴えました。ケトン体値は変動し、最初の8週間を通じて0.2~1.8 mmol/Lの間で変動しました。

血清カルニチン値が低いことが判明し、赤身の肉の摂取量を増やし、食事時にアセチル-L-カルニチン1,500 mgを1日2回経口摂取するようアドバイスしたところ、運動による疲労は数日以内に解消し、βヒドロキシ酪酸≥ 0.8mmol/Lが下の図のようにすぐに達成されました。

ケトン食開始から2週間以内にGAD-7は8から4に減少し、さらに4週間後には0に減少し、その後0のままでした。うつ病はベースラインでPHQ-9 = 16と中等度でしたが、5.5週でPHQ-9 = 8、9週目に完全に寛解しました。これは、βヒドロキシ酪酸≥0.8mmol/L/を達成し、アセチル-L-カルニチン1,500 mgを1日2回経口投与した最初の週と一致していました。「精神的な集中力が増した」と報告し、同僚や家族に対してより忍耐強くなり、「常に怒りに駆られる」ことはなくなったと述べました。

12 週間で体重は9.5kg減り、BMIは27.8から24.9に減少し、体脂肪率は26.1%から17.8%に減少しました。

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症例3は、幼少期の逆境とトラウマ、PTSD、幼少期発症の不安障害、再発性重度うつ病の病歴を持つ34歳の独身女性です。思春期に食欲不振になり、その後は過食症を発症し、体重は大きく変動しました。また、低炭水化物ダイエットを含む、長年にわたる減量の食事療法の試みの履歴があると報告しています。以前にいくつもの薬を処方されていましたが、いずれも効果がありませんでした。不注意サブタイプのADHDは、長時間作用型メチルフェニデートで治療されました。病歴には、過敏性腸症候群、甲状腺機能低下症、閉塞性睡眠時無呼吸、慢性疲労症候群、および胆嚢摘出術がありました。

BMI43.7、体脂肪率52.2%、腹囲89cm以上、HDL46、TG/HDL比2.1、インスリン抵抗性スコア67と高値、空腹時インスリン15 μIU/mL 、Cペプチド2.08ng/mLでした。CRPは 6.4mg/dLと非常に高くなっていました。

薬物療法の補助としてケトン食を開始しましたが、薬物療法は12週間を通して変化がありませんでした。最初の軽度の一過性の疲労は急速に解消し、他の副作用はありませんでした。ケトン食の遵守は当初は変動があり、旅行、休日のイベント、加工炭水化物やデザートを食べさせる家族からのプレッシャーの影響を受けていました。

当初、ケトン食をちゃんと遵守する前であっても、GAD-7は2 週間以内に12から6に減少し、ケトーシスを達成した3週目までに、βヒドロキシ酪酸は1.4mmol/Lとなり、下の図のようにGAD-7 は初めて4に低下しました。1週間後、βヒドロキシ酪酸は2.1mmol/Lとなり、「過食が止まった」、「今では砂糖への渇望を完全に無視できる」ようになり、「空腹感や渇望との闘いとは無関係になった」と報告しました。ケトン食は拒食症的な考えや身体への執着、行動の再発を促しませんでした。

合計8 週間の栄養ケトーシスの5週間後にうつ病が完全に寛解し、「もううつ病はありません。いつも幸せな気分になっていることに気付きました。面白いですね」と言いました。GAD-7は、ケトーシスの5週間後に寛解しました。SCSは12 週間で3から4に増加しました。

代謝的には、インスリン抵抗性があり、治療的ケトーシスを達成するのに3週間を要したにもかかわらず、12週間以内に体重が13.0 kg減少し、BMIは43.7から37.7に減少し、体脂肪率は52.2%から48.9%に減少し、インスリン抵抗性スコアは67から36に減少し、CRPは6.4から2.3に減少しました。

これらの患者はいずれも、吐き気、起立性調節障害、眠気、不眠、興奮、軽躁病を報告しませんでした。薬剤との相互作用は確認されませんでした。

さらに3人の患者は次のようなことを言っていたようです。
「体重が減り、集中力が増したことにとても満足しています。エネルギーも大幅に向上し、これまでで最高のレベルに達しています。私のエネルギーレベルは、高校時代にアスリートをしていたときと同じくらい良いです。」 「[仕事で] 処理する仕事が増えました。」 [症例1]。

「よく眠れて、全体的に気分も良く、イライラも少し減ったように感じます。何か悪いことが起っても、今までよりもずっと冷静に対処できました。」 「食事と一緒にカルニチンを摂取し始めてから、ケトン値がより安定し、運動中に体が弱くなるようなことはなくなりました。」 [症例 2]

「もう落ち込んでいません。」 「以前、自分で低炭水化物ダイエットを試してうまくいかなかった理由がわかりました。」 「説明責任とコミュニティのサポートは私にとって本当に重要です。」 [症例3]

3例の症例が示すように、食事でうつ病と不安障害が7~12週間以内に完全寛解しました。代謝の状態は大きく改善し、炎症も減少しています。どんな薬物治療よりも断然大きな効果があります。

今回は3例とも明らかに肥満などの代謝障害を伴い、幼少期に問題(トラウマなど)があったり、ADHDがありました。これらについてももしかしたら子供の頃からの食事が影響している可能性があるでしょう。

肥満やメタボではなくても、脳のインスリン抵抗性がある場合や脳の炎症がある場合は同様にうつ病や不安障害が起きる可能性が高くなると思います。

全ては食事からですね。

「Complete remission of depression and anxiety using a ketogenic diet: case series」

「ケトン食によるうつ病と不安の完全寛解:症例シリーズ」(原文はここ

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