以前の記事「糖尿病診療ガイドライン2024では炭水化物制限は有効となったが…」「糖尿病診療ガイドライン2024ではエネルギー摂取量の制限が推奨されているが…」では、糖尿病になったときのガイドラインでの食事療法について書きました。
今回は、発症予防についてです。このガイドラインには21章あるのですが、最も重要な予防については、最も最後に載っています。予防したくない気持ちがアリアリと出ているように感じます。今回は下の図の1つ目のポイントについて見てみたいと思います。(図はガイドラインより)
さて、上の図のように、総エネルギー摂取量の適正化が2型糖尿病の発症予防に有効だと書いています。このガイドラインの「適正化」とは、すなわちエネルギー制限のことです。説明文に、「総エネルギー摂取量を減らした食事は,日本人 2 型糖尿病の発症予防に有効である」と書かれています。しかも、この一文で説明が終了しています。ではその根拠の論文を見てみましょう。最初の研究は介入がどのように行われたのか、正直よく理解できないので、無視します。
2つ目の研究。
「Reduced progression to type 2 diabetes from impaired glucose tolerance after a 2-day in-hospital diabetes educational program: the Joetsu Diabetes Prevention Trial」
「2日間の入院糖尿病教育プログラム後の耐糖能異常から2型糖尿病への進行の減少:上越糖尿病予防試験」(論文はここ)
耐糖能異常と診断された人426人を対象として、ランダムに3つのグループに分け、143人を糖尿病教育・サポート付き短期入院群(STH群)、141人を非入院だが糖尿病教育・サポート群(DES群)、142人を入院も教育も受けない(対照)群としました。介入内容はいくつもありますが、食事については、参加者ごとに理想体重1kgあたり25~30kcalの食事を設定し、1日の総脂質摂取量を1日のエネルギー摂取量の20~25%未満に抑えることとしています。体重60kgとすると、1日のエネルギー摂取量は1500~1800kcalとなります。3か月ごとにサポートを受けます。(図はこの論文より)
上の図はグループ別の糖尿病の累積発生率です。実線はSTHグループ、点線はDESグループ、破線はコントロールです。入院して介入を行うと確かに累積の糖尿病発生率がコントロールよりも緩やかになっています。累積発生率が20%くらいになるのに、STHでは3年程度ですが、コントロール群では1.5年です。でも、予防できているというよりは、ただ遅らせているだけのように見えます。しかもたった1.5年です。
上の図は、グループ別の空腹時血糖値 (A)、2 時間OGTT血糖値 (B)、HbA1C (C)、体重 (D) の変化です。•がSTHグループ、□がDESグループ、▴がコントロールグループです。これを見るとSTH群とDES群で最も各パラメータが低下したのは0.5年です。3年後にはHbA1cはベースラインを超えていますし、その他もベースラインに近づいています。つまり、エネルギー制限の食事を続けられない、ということを意味しています。予防効果というよりは遅延効果というべきでしょう。
上の図は腹囲(A)、収縮期血圧(B)、中性脂肪(C)の推移です。同様に低下のピークは0.5年であり、その後徐々に増加して戻ってきています。
もう一つの研究を見てみましょう。空腹時血糖値異常を有する肥満の日本人患者641人が対象です。
「Lifestyle modification and prevention of type 2 diabetes in overweight Japanese with impaired fasting glucose levels: a randomized controlled trial」
「肥満の日本人における空腹時血糖値異常による生活習慣の改善と2型糖尿病の予防:ランダム化比較試験」(論文はここ)
空腹時血糖値異常を有する肥満の日本人患者641人が対象です。高頻度介入群(311人)と対照群(330人)にランダムに分け、36ヶ月間、高頻度介入群は医療スタッフから生活習慣改善のための個別指導とフォローアップを9回受け、対照群は、同じ期間に12ヶ月間隔で同様の個別指導を4回受けた。9回と4回という違いです。なんでかよくわかりません。
食事介入は、脂質や炭水化物の過剰摂取を抑制し、脂質摂取量を総エネルギー摂取量の20~25%、炭水化物摂取量を総エネルギー摂取量の55~60%に抑えることを主眼としました。必要に応じて、食物繊維の追加摂取、適切なアルコール摂取量(23g/日以下)、望ましくない食習慣の是正なども目標に設定しました。参加者には、「甘いものの間食を週3回未満にする」など、現実的で実現可能な目標を提示しました。一応エネルギー制限については書かれていません。(図はこの論文より)
上の図は、食事などの12か月での変化を示しています。左側がFINT(高頻度介入)群、右側がコントロール群です。食事内容についてはいつもの通り自己申告の食事アンケートという質の低いものです。1日あたりFINT群で平均153kcalエネルギー摂取量が減少し、コントロール群では82kcalの減少でした。その差は70kcal程度にすぎません。誤差範囲でしょう。炭水化物割合や脂質の割合もグループ間で変化に差がありません。でもなぜか、下の図のようにちょっとだけグループ間で差が出てしまっています。
腹囲はFINT群で3.1cm減、コントロールで1.3cm減、体重はFINT群で2.5kg減、コントロールで1.1kg減です。血糖値やOGTT2時間値の低下は誤差範囲程度の変化にすぎません。
上の図はベースラインでの耐糖能に違いによる2型糖尿病発症のリスク比です。細かいことは書きませんが、違いがあるものもあればないものもあります。有意差はありませんが、FINT群の方が発症率が高いグループもあります。つまり、高頻度介入は効果があったとしてもかなり限定的です。当たり前です。
上の図は、ベースラインの耐糖能および割り当てグループ別の糖尿病の累積発生率です。AはコントロールとFINT群、Bは空腹時血糖値異常および耐糖能異常 (IFG + IGT) のグループで、ベースラインの75gOGTTにより、空腹時血糖126mg/dL未満、OGTT2時間値140mg/dL以上200mg/dL未満としています。Cは単独の空腹時血糖値異常(IFG) グループで、ベースラインの OGTTにより、空腹時血糖値126mg/dL未満、2時間値140 mg/dL未満としています。濃い実線がFINT群、薄い線がコントロールです。Cの単独の空腹時血糖値異常(IFG) グループだけを見れば、FINT群の方が糖尿病発生率はコントロールを上回っていますし、その他でも前の研究と同様、ちょっと発症を遅延させているにすぎません。しかも、この研究ってエネルギー摂取量の適正化やエネルギー制限の有効性を示す研究でしょうか?変ですね。
これらの研究より、日本糖尿病学会は総エネルギー摂取量の適正化(エネルギー制限)が2型糖尿病発症予防に有効だと考えています。
研究に参加すれば、何とか良い結果を出そうとする人もいるでしょう。その効果は半年がピークであり、その後徐々に緩みます。何をもってエネルギー摂取量の「適正化」と言っているのかよくわかりません。そして、これらの論文を読んでも効果が良くわかりません。いくつかの介入の一つが食事介入であり、これらの論文はエネルギー摂取量を減らすことが糖尿病発症予防に有効である、という内容の論文ではありません。
非常に曖昧な表現をすることで、何となくわかった気にさせ、でも実際には大した効果のないことを効果があるように見せているにすぎません。誰も根拠の論文の中身まで読みませんからね。いい加減なエビデンスでも大丈夫なのでしょう。このようにして、糖質摂取量を総エネルギー摂取量の55~60%にして、糖質過剰摂取を続けさせて、糖尿病発症を促進しているのです。
糖尿病予防には糖質制限です。糖尿病は糖質過剰症候群です。