新型コロナワクチンの接種がものすごい数にのぼり、それに伴い帯状疱疹も非常に増加しました。もうコロナのワクチン接種をする人は、一部の情報弱者などに限られてきたように思われますが、相変わらず帯状疱疹は多い印象です。
帯状疱疹は、抗ウイルス薬の投与、痛み止め、人によっては外用薬、痛みが続けばさらに強力な薬や神経ブロック、痛みで眠れなければ眠剤、そしてこのような症状の不安を与えて、それを予防するというワクチンなど、医療にとっては旨味のある疾患でしょう。
特に高齢者となれば、なかなか改善せずに帯状疱疹後神経痛に移行する可能性が高くなります。
一方、高齢者が良く飲んでいる薬が、この帯状疱疹のリスクを上げると知れば、大した効果もなくその薬を飲んでいることを考え直すかもしれませんね。
最凶最悪のマッチポンプ薬の一つであるスタチン。LDLコレステロールを下げてくれる薬です。LDLコレステロール増加に恐怖や不安を煽り、世界的にものすごい数の人が使用しています。特に多くの高齢者は飲んでいます。そのスタチンは免疫にも作用しているので、帯状疱疹が増加してしまう可能性があります。
まずは、アメリカの研究で、13年間の研究期間中に、スタチンで治療した494,651人と、同数のスタチンで治療していない人をマッチングさせた研究を見てみましょう。(図はここより)
上の図は、スタチン使用者(実線)と非使用者(点線)の帯状疱疹になった人の割合です。スタチン群の方が帯状疱疹が多いですね。リスクは1.13倍です。特に糖尿病のスタチン使用者は1.18倍でした。
次にイギリスの研究を見てみましょう。144,959人の帯状疱疹発症例と549,336人の対照群をマッチングして分析しました。(図はここより)
上の図は、左から現在のスタチン使用者、最後のスタチン使用から12か月未満、最後のスタチンから12~36か月、最後のスタチンから36か月超え、の人たちで帯状疱疹発症の可能性を示しています。スタチンに暴露した人は1.13倍帯状疱疹の可能性が高いようです。36か月過ぎるとやっと有意差がなくなりますが、36カ月までは有意に帯状疱疹になる可能性が高くなっています。
上の図は左が現在のスタチン使用者、最後の使用から12か月未満、12か月超えです。そしてそれぞれ、スタチンの投与量が低、中程度、高、とに分けています。現在のスタチン使用者では投与量が多いほど帯状疱疹の可能性が高く、最も高投与量群では、1.27倍です。
もう一つ、同じアジアの韓国の研究を見てみましょう。(ここ参照、図はこの論文より、表は改変)25,726人のスタチン使用者と同数の非スタチン使用者を分析しました。
スタチンの使用期間 | 調整オッズ比(95% CI) |
---|---|
6か月未満 | 1 |
6~12か月 | 2.57 (1.94–3.41) |
12~18か月 | 3.38 (2.45–4.66) |
18~24か月 | 6.29 (4.62–8.56) |
24か月〜 | 6.57 (5.29–8.16) |
上の表のように、スタチンの使用期間が増加するにつれて、帯状疱疹を発症する可能性が高くなり、6か月未満と比較すると、24カ月以上だと6.57倍にもなりました。
上の図は、スタチン使用の有無による帯状疱疹の累積発生率を示していて、スタチンを使用していない人と比較して、スタチン使用者は帯状疱疹のリスクが1.53倍高くなりました。
スタチンに関連する帯状疱疹のリスクは特に高齢者で高く、70歳以上では1.39倍、60〜69歳では1.18倍でした。
もう一つ、アジアの研究、台湾からのものを見てみましょう(ここ参照、図もこの論文より)スタチン療法を受けている患者53,069⼈、スタチン療法を受けていない患者53,069⼈を対象としました。
上の図はスタチン使用の有無による、帯状疱疹の累積発症率です。点線のスタチン使用群の方が発症は多くなっているのがわかります。
全体としては上の表のように、スタチン使用で帯状疱疹リスクが1.21倍になりました。女性で1.31倍、男性で1.10倍でした。年齢では20~49歳で1.35倍、50~64歳で1.33倍、65歳以上では1.24倍でした。
また、スタチンの使用と帯状疱疹リスクとの関連性を評価するための6件の研究のメタアナリシス(ここ参照)の結果、スタチンの使用は帯状疱疹の可能性を1.18倍にしました。特にアジアでは1.26倍でした。
さて、スタチンがなぜ帯状疱疹を増加させるか?ということですが、恐らくはスタチンが免疫に影響を与えるからだと思われます。いくつもの免疫系に直接的、間接的に作用します。LDLコレステロールは免疫システムの一部であるので、それを下げてしまっては不都合が起きる可能性はあります。スタチンが良い方に働いた側面を見れば、それは抗炎症作用と言われます。しかし、悪い影響は、免疫の活性化や免疫細胞増殖を阻害するように作用します。
新型コロナウイルスワクチンでも話題になりました、制御性T細胞(Treg)ですが、スタチンもこのTregを増加させてしまうようです。(この論文参照)制御性T細胞(Treg)は免疫寛容、免疫抑制系です。免疫抑制系ですので、炎症も抑制してくれます。だから良い面もあります。しかし、一方で必要な免疫を抑えれば、今回のように帯状疱疹が発症したり、がんリスクも増加する可能性があります。スタチンではがんが増加するのも、恐らくこのように免疫抑制が起きているからだと思われます。(「スタチンはがんのリスクを増加させる可能性」「スタチンでLDLコレステロールを下げている人はがんのリスクを受け入れていますか?」「LDLコレステロールが高いとがんのリスクは低下する」など参照)
人間の免疫機能は標準装備で、しかもそれは自動操縦です。そこに人為的に何らかの手を加えれば、何か都合の悪い不具合が起きても不思議ではありません。
スタチンによる帯状疱疹リスク増加はものすごく高いわけではありませんが、スタチンを飲んでいる人の数はいまや膨大ですので、その影響は非常に大きいでしょう。