血糖値が上がりにくいというパラチノースはどうなんだろう? その1

ちょっと前ですが、コメントをいただきました。

最近、「パラチノース」は吸収が遅く血糖上昇が遅いため、脂質代謝を阻害しないのでは?ということで、特に自転車業界では、人気が高いようですが、いかがでしょうか?

パラチノース(一般名:イソマルツロース)はDM三井製糖が登録商標化した天然由来の糖質で、はちみつにも含まれるそうです。てん菜から作られる砂糖に酵素を作用させ、ブドウ糖と果糖の結合位置を変えることで作られます。砂糖と同じで、ブドウ糖と果糖からなる二糖類の仲間です。つまり、元は砂糖で、ブドウ糖も果糖も含んでいます。小腸全体でゆっくりと吸収されるため、血糖値の急激な上昇が抑えらるそうです。エネルギーが長持ちして、ウルトラマラソンなどでは使ってみる価値がありそうで、興味を持っています。パラチノースは昨年の沖縄100Kウルトラマラソンのスポンサーで、昨年のレースではエイドでパラチノースが配布されていたようですが、今年はありませんでした。残念でした。

しかし、健康的にどうかというと、所詮、吸収されるときはブドウ糖と果糖に分かれるはずなので、砂糖と同様で、大きな期待はできなさそうです。

パラチノースに関しては様々な研究が行われていて、企業側もその結果をエビデンスとして、宣伝に使っています。

パラチノースを学ぶ」「スローカロリーラボ」で紹介されている研究についていくつか見てみましょう。

まずは「スローカロリーラボ」の「血糖値・糖尿病に関する研究」というところで、この論文からの結果が示されています。(図はこの論文より)

健康な人10名と糖尿病患者10人を対象とした50gの糖負荷試験において、砂糖とパラチノースを比較しました。上の図のAが健康な人の血糖値とインスリン値、Bが糖尿病患者の血糖値とインスリン値です。健康な人ではパラチノース摂取後30分で血糖値は109mg/dLとなり、その後ほぼ横ばいです。一方砂糖摂取では30分後に137mg/dLのピークとなり、その後低下しました。ベースラインの血糖値は92mg/dLなので、およそ血糖値の上昇はパラチノースの方が62%減です。

インスリンも同様に、パラチノースで30分後23となり、その後横ばいです。砂糖の方は30分後に40.9μU/mlとピークとなり、その後徐々に低下しています。

血糖値の曲線下面積は、2時間を超えてトータルするとあまり違いがなさそうですが、インスリンは明らかにパラチノースで低く抑えられていますね。2時間の間でパラチノース群42.8 μU/ml、砂糖群89.7μU/mlとおよそ半分です。

では糖尿病ではどうでしょう。健康な人と違い、パラチノースでもピークがありましたがそのピークは120分後です。195mg/dLまで上昇してしまいました。ベースラインの血糖値は130mg/dLなので、65mg/dL上昇したことになります。一方砂糖摂取では、ピークは60分後で、237mg/dLになりました。ベースラインの血糖値は139mg/dLなので98mg/dL上昇しました。血糖値の上昇はパラチノースの方がおよそ34%減です。

インスリンのピークもズレて、パラチノースでは120分後でした。インスリンは2時間の間でパラチノース群41.1μU/ml、砂糖群59.3μU/mlと、パラチノースは砂糖のおよそ70%です。

砂糖と比べて、パラチノースは摂取後の血糖値の上昇が抑えられ、インスリンの分泌量も少なくなりますが、糖尿病の場合では、その効果は低下してしまうようです。糖尿病だと血糖値上昇は健康な人の3.8倍にもなります。パラチノースでもピークが195mg/dLにもなるのであれば、許容はできませんね。

「血糖値・糖尿病に関する研究」に載っている、もう一つのHOMA-IRに関する研究を見てみましょう。(この論文参照)この論文の著者は三井製糖の研究所の人なので、結果は眉唾です。

健康な人50人を対象に、パラチノースと砂糖を混合(1:1)したものを毎日40g使用した12週間の試験で、砂糖40gと比較しました。(図はこの論文より)

上の図は12週間での様々なパラメータの変化量です。Sは砂糖群、PSはパラチノース+砂糖群です。有意な変化はPS群の空腹時血糖値で4.92mg/dL低下、空腹時インスリンが1.56μU/ml低下しました。収縮期血圧は群間差がありました。しかし、それ以外は皮下脂肪や内臓脂肪を含めてパラチノースでも、ほとんど有意な変化ではありませんでした。

上の図はHOMA-IRの変化です。PS群では0.42だけHOMA-IRが低下しました。でも、恐らくPS群のベースラインのHOMA-IRが少し高いことに助けられただけで、S群の12週間後のHOMA-IRと比較すると、有意差はないでしょう。微妙な結果です。大きな声でインスリン抵抗性が改善したとまでは言えないでしょう。しかし、なんで元の研究のデザインで、パラチノース+砂糖群と混合にしたのでしょうか?よくわかりません。

ということで、パラチノースは健康な人の血糖値スパイクの抑制には良いと思いますが、糖尿病の人では使えるレベルとは言えません。

吸収がゆっくりであるとはいえ、パラチノースも糖質だと思ってください。

One thought on “血糖値が上がりにくいというパラチノースはどうなんだろう? その1

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です