糖尿病薬?やせ薬?GLP-1受容体作動薬の副作用 その10 失明

GLP-1受容体作動薬の副作用シリーズのその10です。「その9」では糖尿病網膜症のリスクについて書きました。糖尿病網膜症ももちろん失明の危険がありますが、今回は稀ではありますが、これも失明の危険のある疾患のリスクについて書きたいと思います。

今年に入って立て続けに、GLP-1受容体作動薬と非動脈炎性前部虚血性視神経症 (NAION) との関連を指摘する研究が発表されました。非動脈炎性前部虚血性視神経症(NAION)は、突然の無痛性片眼視力喪失と高度視野欠損を伴うことが多い眼疾患だそうです。正確な病因は不明ですが、視神経乳頭の灌流障害によって引き起こされる可能性が高いと考えられます。そうすると、当然凝固亢進、高血圧や糖尿病などは危険因子でしょう。

発生率は10万人年あたり11人くらいだそうです。視神経症の最も一般的な原因で、治療不可能であり、患眼の重度かつ不可逆的な視力喪失につながることが多いそうです。視神経の障害による失明の原因としては緑内障に続いて第2位です。

肥満や糖尿病だけでもNAIONのリスクだと思いますが、GLP-1受容体作動薬はもっとリスクを上げるようです。

まずは神経眼科患者16,827人を対象にした研究です。(ここ参照、図もこの論文より)

上の図のAは2型糖尿病の人での、NAIONなしで経過した割合です。オレンジの線がGLP-1薬のセマグルチドを処方された2 型糖尿病患者、青っぽい線がGLP-1薬ではない抗糖尿病薬を処方された患者です。GLP-1薬以外ではほとんどNAIONは起きていませんが、セマグルチド処方された人では12か月の間に徐々にNAIONが発症し、その後は横ばいになっています。GLP-1薬以外の糖尿病薬と比較すると、セマグルチドによるNAIONが発症リスクは4.28倍です。

Bの図は、過体重および肥満の人の場合です。Aと同様に、オレンジの線がGLP-1薬のセマグルチドを処方された群、青っぽい線がGLP-1薬ではない抗肥満薬を処方された群です。GLP-1薬ではない抗肥満薬と比較して、減量目的で処方されたセマグルチドによるNAIONが発症リスクは7.64倍です。体重は減っても、失明してしまっては大変ですね。

次の研究を見てみましょう。(ここ参照)週1回のセマグルチド投与を受けた106,454人と投与されなかった317,698人の2型糖尿病患者、合計424,152人を対象としました。分析の結果、セマグルチド投与では、NAIONの発生率は1000人年あたり0.228で、セマグルチドなしの発生率1000人年あたり0.093と比較してより高い発生率となっていました。発生リスクは2.19倍でした。

もう一つ、プレプリントの研究を見てみましょう。(ここ参照、プレプリントなので注意が必要です。)

ノルウェーとデンマークで2型糖尿病治療にセマグルチドおよびSGLT-2阻害薬を新規に使用した人が対象です。(デンマーク44,517人、ノルウェー16,860人)デンマークのセマグルチドによるNAIONの発生リスクはSGLT-2阻害薬と比較して2.17倍でした。ノルウェーでは7.25倍でした。

もちろん、絶対的な発症率は低いです。でも注意が必要でしょう。

もう一つ、これはNAIONではありませんが、セマグルチドに関連する暗所条件下での可逆性両側中心暗点の症例についてです。(ここ参照、図もこの論文より)

72 歳の男性眼科医が減量のためにセマグルチド を1日3.0mg服用し始めましたが、治療開始から 17 日後に右目に小さな丸い中心暗点が現れ、数日かけて拡大しました。2 日後、同様の小さい暗点が左目にも現れました。これらの症状は暗所でのみ現れ、日光や人工照明下では見えませんでした。左目に症状が現れたため投薬を中止し、2 日後にすべての症状が完全に解消しました。その後の臨床評価では、異常は見られませんでした。

上の図は患者が示した中心暗点の様子です。真ん中がかなり暗くなっていますし、かなりの広範囲です。戻ったから良いですが、戻らなかったらかなり生活に支障をきたすでしょう。

どうやら、GLP-1受容体作動薬には眼毒性がありそうです。副作用のない薬はありません。安易な薬の使用には注意が必要です。GLP-1受容体作動薬の適応の糖尿病も肥満も糖質過剰症候群です。食事で改善するのに、薬に頼ったばかりに副作用で苦しめられ、それに対する治療が必要になれば、何のために薬を飲んでいるかわかりません。

2 thoughts on “糖尿病薬?やせ薬?GLP-1受容体作動薬の副作用 その10 失明

  1. 数年前に先生の「糖質過剰症候群」を読んで以来、私の健康の概念は大きく変わりました。
    そこからさらに社会構造や組織の方針、いわゆる支配層と個人というピラミッド型の構造(おそらく農耕社会出現から)にまで想像が及びました。
    現在でも業界団体の個人に対する罠がそこら中に仕掛けられていることが見えてきました。
    ペリーの下田来航辺りから、日本は欧米の圧力の下でやっていくしかなかったのかもしれません。
    しかしこの雇用というのは不思議な力を持っているようです。通勤電車の中の一個人はただの善人だったとしても、
    組織の方針通りに働かなければならず、いつの間にか他の個人から健康や財産を奪い取る仕事を無意識的にしている人たちもいる。
    どこまで突き詰めてもこのピラミッド構造から抜け出ることができる人はおらず、人生数十年を何とかうまく切り抜けることができたら幸運という事なのでしょうか。先生の著書に出会わなければ今頃私もHbA1cが6.0(ここ数年ずっと5.2)近くなっていたのかもしれないと思うと恐ろしいです。先生の勇気ある告発が沢山の人をより良い方向へ導いてくれていることは確かだと思っています。

    1. 玉之丞さん、コメントありがとうございます。

      ありがたいお言葉、どうもありがとうございます。
      ちょっと恥ずかしい感じもします。
      私はそこまでではありません。もっと勇気をもって行動されている人はいっぱいいます。
      これからも少しでも皆さんに有益な情報を届けられればと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です