高タンパク質摂取は2型糖尿病の腎機能低下リスクを減少させる

タンパク質摂取量が多いと腎機能が低下すると信じている人がいます。糖尿病は慢性腎臓病で透析となる原因として最も多いので、タンパク質摂取が糖尿病にとって良いのか悪いのかは非常に気になるでしょう。また、糖質制限では脂質だけでなく、タンパク質摂取量も多くなるので、糖質制限を行っている人も不安に感じる人もいるかもしれません。

栄養の摂取量の研究のほとんどは、いつも書いているように、食事アンケートを用いた質の非常に低いデータによって評価されています。

今回の研究では、タンパク質摂取量を食事アンケートではなく、24時間の尿中尿素排泄量からマロニの式というものを使って計算しています。自己申告の記憶に頼る食事アンケートよりはかなり本当のタンパク質摂取量に近いのではないかと思います。

DIALECT研究という研究に参加した18歳以上の2型糖尿病382人(平均年齢63歳)が対象です。腎機能低下は、腎代替療法の必要性または血清クレアチニンの50%以上の持続的な増加と定義されました。追跡期間の中央値は6年です。その間に、53人の患者で腎機能低下が認められました。タンパク質摂取量の平均は91g/日(1.22 ± 0.33 g/kg 理想体重/日)でした。(図は原文より、表は原文より改変)

上の図のAは食事性タンパク質摂取量 (g/日) と腎機能低下のリスクとの関連です。タンパク質摂取量は腎機能低下と逆相関していました。つまり、タンパク質摂取量が増加するほど、腎機能低下のリスクは減少するのです。タンパク質摂取量が92g/日未満の患者は腎機能低下リスクが1.44倍になり、163g/日を超える患者は腎機能低下リスクは0.42倍になりました。

Bの図は低タンパク質摂取と高タンパク質摂取のリスクの差の大きさの臨床的解釈を容易にするために、タンパク質摂取量が75 g/日の仮想患者と180 g/日の仮想患者2名について、腎機能低下の予想される累積発生率をグラフで示したものです。タンパク尿が150mg/24時間以上で、eGFRの中央値が84 mL/分/1.73 m 2の65歳の男性を想定しています。圧倒的に75gタンパク質摂取の方が腎機能低下の発生率が高くなっているのがわかります。

上の図は体重1kgあたりのタンパク質摂取量と腎機能低下リスクの関連を示しています。タンパク質摂取量が1.08g/kg/日未満の患者では腎機能低下のリスクが1.63倍高まりました。

アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)とアンジオテンシンⅡ受容体拮抗薬(ARB)のRAS(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系)阻害薬は腎保護作用があるかのように言われていますが、ベースラインでRAS阻害薬を使用していなかった患者におけるサブグループ解析を行ったところ、同様に、これらの患者においても、タンパク質摂取量の増加は腎機能悪化のリスクが0.47倍と低下していました。つまり、腎保護はRAS阻害薬の使用とは無関係にタンパク質の摂取量増加によって達成されることを示唆しています。(ここ参照)

RAS阻害薬を使用している患者でもサブグループ解析を行ったところ、タンパク質摂取量と腎機能低下の関連は統計的に有意ではなかったものの、RAS 阻害薬を使用していない患者と同様の傾向を示し、リスクは0.75倍でした。RAS阻害薬を使用していない患者よりも効果が低い可能性があるくらいです。そうすると、RAS阻害薬の腎保護効果は本当なの?という疑問も出てきますね。

 

タンパク質摂取は非常に重要です。食事アンケートの研究でもタンパク質摂取量の増加は様々な腎臓への有益な効果を示しています。(「慢性腎臓病の高齢者でもタンパク質摂取量が多いほど死亡率は低下する」「タンパク質をたくさん摂るほど慢性腎臓病のリスクが低下する」「糖質制限食は高タンパク質でも腎臓への影響はない」など参照)

特に糖尿病であれば、しっかりと糖質制限をして、たっぷりとタンパク質摂取をした方が腎臓にも良いでしょう。

慢性腎臓病は糖質過剰症候群です。

「High-Normal Protein Intake Is Not Associated With Faster Renal Function Deterioration in Patients With Type 2 Diabetes: A Prospective Analysis in the DIALECT Cohort」

「2 型糖尿病患者における高タンパク質摂取は腎機能の急速な悪化と関連しない: DIALECT コホートにおける前向き分析」(原文はここ

4 thoughts on “高タンパク質摂取は2型糖尿病の腎機能低下リスクを減少させる

  1. この、腎臓病タンパク質しかり、
    糖尿病には低カロリー、
    高血圧塩分原因説など、
    医療常識に反する事を下手に
    口にしようものなら医療業界、
    栄養士関係などから
    バッシング間違い無しですが、
    それはそれで、自分の健康は
    自己責任で守る必要がありますね。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      仰る通りです。
      自分の健康は自分で守るしかありません。

  2. 記事にしてくださりありがとうございます。タンパク質摂取→過剰分が尿蛋白として出る→腎機能低下のイメージがある気がします。一部医療者もそう説明していそう…そして減塩とARB…
    私は腎機能低下防ぎたいので糖質制限ですね

    1. IgA腎症患者さん、コメントありがとうございます。

      糖質制限と慢性腎臓病に関しては、まだ次回以降に記事が続きます。

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