経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の1時間値が高いと心血管疾患や悪性腫瘍による死亡率が増加する

1986年に開始された岩手県大迫町の一般住民を対象とした高血圧・循環器疾患に関する長期前向きコホート研究である大迫 (おおはさま)研究というものがあるそうです。大迫町は現在人口が4,000人ちょっと程度のようです。

今回の研究は、その大迫研究の参加者の継続的に収集されている、死亡と心血管疾患、脳血管疾患、悪性腫瘍などの死因、および75 g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)からのものを含むいくつかの血液パラメータなどのデータベースを用いています。

参加者は、岩手県大迫町に居住する、糖尿病の既往歴のない35歳以上の男女で、1997年から2013年の間に少なくとも1回OGTTを受けた993人が対象です。平均年齢63.1歳、BMI23.7で、67.8%が女性でした。平均追跡期間は14.3年で、全原因死亡は184でした。

まず、各パラメータの中央値に基づき、研究対象集団を高値群と低値群の2群に分け、両群の追跡期間中の死亡率を分析しました。(図は原文より、表は原文より改変)

カテゴリハザード比(95% CI)
空腹時血糖値1.264 (0.875–1.824)
OGTT1時間後の血糖値1.620 (1.119–2.347)
OGTT2時間後の血糖値1.194 (0.841–1.693)
空腹時インスリン1.244 (0.855–1.809)
OGTT1時間後のインスリン1.076 (0.760–1.524)
OGTT2時間後のインスリン1.412 (0.966–2.064)
HOMA-IR1.176 (0.811–1.705)
HbA1c1.211 (0.846–1.733)
総コレステロール0.660 (0.461–0.944)
中性脂肪0.992 (0.694–1.418)
家庭での収縮期血圧1.025 (0.714–1.471)
家庭での拡張期血圧0.961 (0.671–1.376)
フィブリノーゲン0.811 (0.576–1.142)
リポタンパク質A0.780 (0.553–1.101)
ヘモグロビン0.678 (0.454–1.014)
クレアチニン0.869 (0.593–1.274)
尿酸0.955 (0.650–1.401)
ナトリウム0.773 (0.544–1.097)
カリウム0.877 (0.622–1.238)

上の表のように、すべてのパラメータの中で、OGTT1時間値が全死亡率と最も有意に関連していました。他はどれも有意な違いはありません。

OGTT1時間値の中央値は162 mg/dLでした。993人をOGTT1時間値162 mg/dL以上と162 mg/dL未満の2群に分けました。OGTT1時間値162 mg/dL以上だと死亡率は1.62倍です。

下の図は平均14.3年間の追跡期間中の両グループの累積生存率を示しています。

追跡期間全体を通して、OGTT1時間値高値群の死亡率は低値群のほぼ2倍でした。驚くべきことに、20.4年の追跡時点で、OGTT1時間値高値群40%以上が死亡したのに対し、低値群の死亡率は約20% でした。

OGTTを受けて、WHOの基準による耐糖能が正常だった595人(平均年齢62.0歳とBMI23.2)を分析すると、平均追跡期間は14.3年で、全死亡数は108で、OGTT1時間値が162 mg/dL以上の人では全原因死亡のリスクは1.642で、耐糖能が正常でもやはり同様に将来の死亡率と関連していました。ただ、OGTT1時間値が162 mg/dL以上であれば、本当はすでに耐糖能は正常ではありません。

どのくらいのOGTT1時間値が全死亡率と最も有意に関連するかを分析すると、170mg/dLでした。

上の図は、OGTT1時間値を170mg/dLで分けたときの累積生存率です。追跡3年目以降、OGTT1時間値を170mg/dL以上の高値群の死亡率は低値群のほぼ2倍であり、この傾向は残りの追跡期間を通じて維持されていますね。さらに、OGTT1時間値170mg/dL以上の耐糖能正常の人の死亡リスクも1.821倍でした。OGTT1時間値が170mg/dL以上の人は20年後に約45%が死んでしまうのです。

上の図は耐糖能正常の人の死因別の累積死亡率です。Aは心血管疾患、Bは脳血管疾患、Cはがん、Dはその他の原因です。

耐糖能正常の人のOGTT1時間値170mg/dL以上群は低値群と比較して、心血管疾患による死亡および悪性腫瘍による死亡の発生率が有意に高かったのに対し、脳血管疾患による死亡およびその他の原因による死亡の発生率は有意差はありませんでした。

OGTT1時間値170mg/dL以上だと心血管疾患死亡リスク3.370倍、悪性腫瘍死亡リスク2.512倍でした。

現在は食後高血糖、つまり血糖値スパイクが有害であることは認識されてきています。しかし、あまり食後1時間値は重要視されていません。

OGTT30分値、1時間値が高い場合でも様々なリスクが増加します。(「経口ブドウ糖負荷試験の30分値」「経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の1時間値」「経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)1時間値と脂肪肝」「経口ブドウ糖負荷試験1時間値が異常であれば自律神経の障害を認める」など参照)

OGTTの検査を受ける人は少ないでしょう。ご自身で血糖値を測定できるのであれば、食後1時間値を測定してみてください。食事内容にもよりますが、1時間値が170mg/dLを超えているようであれば、かなりまずい状況であるかもしれません。

まずは糖質制限を行い、血糖値スパイクを防ぎましょう。

「One-hour postload glucose levels predict mortality from cardiovascular diseases and malignant neoplasms in healthy subjects」

「1時間後の血糖値は健康な被験者における心血管疾患および悪性腫瘍による死亡率を予測する」(原文はここ

2 thoughts on “経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)の1時間値が高いと心血管疾患や悪性腫瘍による死亡率が増加する

  1. SNS見てると、病状を自己発信する
    糖尿病者が増えてます。
    皆一様に明るいですが、
    何より気になるのは未だにGI値や食べる順番にはこだわっていても、糖質制限に
    なっていない「バランスよく3食信仰」が根強い事です。

    他人事ではありますが、これでは糖尿病由来の透析始め医療業界は安泰ですね。

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