マラソンランナーは大腸がんリスクが高いかも?

マラソンは不健康なスポーツです。あんな長距離を一度に走るなんて、人間の初期設定にはありませんし、マラソンレースに出場するには、事前の練習も必要なので、体への負担は非常に大きいでしょう。

今回の研究は、アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)2025で報告されたものです。

2022年10月から2024年12月にかけて、35歳から50歳までのランナー100人が大腸内視鏡検査を受けました。年齢の中央値は42.5歳で、女性55名、男性45名でした。全員がウルトラマラソン(50km以上)を2回以上、またはマラソン(26.2マイル)を5回以上完走していることが条件です。炎症性腸疾患、家族性大腸腺腫症、またはリンチ症候群(遺伝性非ポリポーシス大腸癌)の既往または疑いのある患者は除外されました。

「Advanced adenoma(進行腺腫)」(AA)とは、がん化のリスクが非常に高い大腸ポリープです。AAは10mmを超える病変、25% が管状絨毛の特徴を持つ病変、または高度異形成として定義されます。一般的なAAの予想率は、40~49歳で1.2%だそうです。ただしこれは25年前のデータのようなので、現在はもっと高い可能性があり、2020年のメタアナリシスではAAの世界的有病率は4.6%です。(ここ参照)

この研究の対象者100人のうち、15%にAAが確認されました。100人中39人に少なくとも1つの腺腫がありました。さらに3つ以上の腺腫があったものの、AAの事前定義基準を満たさなかった3人の人は、AAの15人の患者には含まれていませんでした。(表は原文より改変)

AAの患者
参加者ID 3 9 15 16 37 53 55 67 69 71 77 87 91 98 100
性別 女性 男性 男性 女性 女性 男性 女性 女性 女性 女性 女性 男性 男性 女性 男性
年齢 44 45 48 41 45 49 40 40 45 39 42 50 42 44 41
レース回数(U – ウルトラマラソン、M – マラソン) 4 – 6 U 4 – 6 U 15以上 U 4 – 6 U 15以上 U 7~15U 6M 5M 7~15U 1U / 7~8M 15以上 U 15以上 U 10M 15以上 U 5M
ポリープの数 原発性ポリープ3、続発性ポリープ2 5 2 3 1 1 3 2 7 1 2 4 2 6 3
最大ポリープの大きさ(大腸内視鏡検査/病理検査)(mm) 25/15 12/15 10/13 10/10 3/3 9/20 5~6/5 11/12 12/12 5/5 5/5 15~20 / 12 6 / 7 10 / 7 10 / 19
管状絨毛様 >25%  + + + + +
高度異形成 +

上の表のように、15人が進行腺腫(AA)でした。高度異形成は一人だけですが、大きなポリープは多いですね。マラソンランナーよりもウルトラランナーに多い感じがします。

もちろん、何が原因かは特定されていませんが、「runner’s colitis」(日本語では、ランナーズ大腸炎とでも言うのでしょうか?)という、激しい運動による虚血性大腸炎が原因の一つではないかと考えられています。ランニングはサイクリングや水泳などの持久力スポーツに比べて腸の虚血の頻度がほぼ2倍高く、エリートアスリートではレクリエーションで運動をする人に比べて1.5~3倍高くなるそうです。(ここ参照)

脱水、長時間ランニングの上下運動による機械的な刺激、高温や低血糖なども影響することもあるでしょう。古い研究(ここ参照)によれば、16人の人にトレッドミル運動(速度5 km/h、勾配20%、持続時間15分)を実施させただけで、上腸間膜動脈血流は運動終了直後に43%、運動5分後に29%、10分後に24%、30分後でも9%減少していました。これがウルトラマラソンで12時間も走っていれば、それは大腸にとって大変なことでしょう。痛み止め(NSAIDs)を飲むとさらに悪化する可能性もあるでしょう。

このような虚血状態や、炎症、大腸の微小な傷などにより、その後ポリープ、進行腺腫に発展する可能性があるのかもしれません。修復のための不規則な細胞のターンオーバーが頻繁に起こり、突然変異誘発の機会が増えると考えられます。腸内細菌叢の変化も関係しているかもしれません。さらに、ランナーが摂る、超加工食品が影響している可能性もあるでしょう。

もちろん、本当にマラソンが悪いのかは、非ランナーと比較してみないと実際にはわかりません。

さて、私自身は数年に一度大腸内視鏡検査を受けています。そして、何回か数個の小さなポリープが見つかり、切除しています。これまではいずれも良性です。進行腺腫は一度も見つかっていません。また、漢方薬の大黄やセンナ、そのほかの下剤などを長期に使用した場合に起こる可能性がある「大腸メラノーシス(大腸黒皮症)」と呼ばれる所見があります。大腸が黒くなるのです。もちろん私は一時的に漢方薬を飲んだとしても、長期に連用はしませんし、快便なので下剤も使わないのですが、非常に軽度の大腸メラノーシスのような所見、ほんのちょっとだけ黒く見える所見があります。毎回、下剤など飲んでいませんか?と聞かれます。恐らくこれも長年のランナー生活で、大腸が虚血になったりしている影響ではないかと考えています。自業自得です。でもなんでそこまでして私は走っているのでしょうか?自分でもわかりません。

ランナーの皆さん、マラソンは決して健康なスポーツではありません。大腸内視鏡検査を受けたことがない方は一度受けてみた方が良いかもしれません。

「Risk of pre-cancerous advanced adenomas of the colon in long distance runners」

「長距離ランナーにおける大腸の前がん進行腺腫のリスク」(原文はここ

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