機能性低血糖を知らない医師たち

体調の様々な問題を訴える患者が受診されました。問診票の内容を見ると、完全に「機能性低血糖」です。そして、診察して本人の話を聞いても、やっぱり機能性低血糖としか思えません。

しかし、私の外来を受診される前にいくつもの病院を回り、様々な検査を受けて、どこでも異常なし、問題なしとしか言われていません。そして、本人は精神的なものではないかと、精神科の受診を考えていました。

内科の医師たちよ、お願いだから機能性低血糖ぐらい知っててよ!

機能性低血糖は、恐らくreactive hypoglycemia、反応性低血糖または食後反応性低血糖と呼ばれているのだと思います。私も糖質過剰摂取時代は、頻繁に機能性低血糖に悩まされていました。

症状は、食後の耐えがたい眠気、強い疲労感・だるさ、集中力の低下、思考力・記憶力の低下、脱力、動悸、胸部不快感、冷や汗、めまい、頭痛、不安感、息苦しさ、気分の落ち込み、イライラ感など様々です。それぞれの症状をとってみると、パニック発作に似ていたり、うつ症状に似ていたりします。だから、一般の人が、精神科的な疾患があるのではないかと考えても不思議ではありません。

機能性低血糖はすでにインスリン抵抗性が起こり、代謝異常が始まっている証拠だと思います。前糖尿病(糖尿病予備軍)の一つだと思います。

機能性低血糖は、食事摂取後2~5時間後に起こる食後低血糖の状態です。通常、インスリンレベルの上昇が低血糖の原因です。ほとんどの場合、血糖値が低下してきているのに、不適切にインスリン分泌が遅延してしまうことで起きます。

インスリン分泌の第1相と第2相の分泌のうち、耐糖能が低下してくると、第1相インスリン分泌が減少や消失してしまいます。その消失により、第2相の遅れて分泌されるインスリンと過剰に分泌されるインスリンの両方が低血糖を引き起こします。

通常の検査をしても、空腹時血糖値は正常であり、代謝上の問題はないと言われてしまいます。様々な身体症状も、低血糖が起きていないときに心電図は正常でしょう。CTなんか撮ってもわからないでしょう。しかし、機能性低血糖を知らない医師は根本的な問題を見落としています。問題は空腹状態ではなく、食後のインスリンの過剰な変化であり、これはインスリン測定を含むブドウ糖負荷試験、あるいは持続血糖モニタリングによってのみ明らかになります。ただ、検査しなくても、問診をすれば、ほとんど予想できます。

ひとつ症例報告を見てみましょう。逆流性食道炎と高血圧の治療を受けている50歳の女性が、1か月間続く胸部不快感と心室性期外収縮(PVC)を主訴に受診しました。深夜や空腹時には症状がなかったが、食後に胸部に繰り返し不快な感覚があると訴えました。(図は原文より)

上の図は、75g経口ブドウ糖負荷試験(OGTT)のデータと心電図です。AのOGTTでは、血糖値は30分値で200を超え、60分でピークの276mg/dLに達しています。初期インスリン分泌の低下を示していると考えます。120分値はすでに低下をし始め、175mg/dLといわゆる境界型です。しかし、低下し始めているのに、インスリンのピークは120分後です。180分後でもまだインスリン濃度は、かなり高めです。そして、240分後には血糖値が38mg/dLとかなりの低血糖を示しました。

そしてこの時に胸部不快感が現れ、その後、5gのブドウ糖を摂取してから15分後に低血糖の改善とともに消失しました。

Bは入院時の心電図で正常洞調律でした。 Cは患者が胸部不快感を訴えた240分の心電図で、期外収縮(PVC)が認められました。Dは低血糖から回復した後の255分のもので、PVCの頻度が減少していました。Eは300分の心電図で、洞調律への回復が認められました。

この患者は、低炭水化物食や食事間の補助食の摂取を含む食事指導により、胸部症状の再発は予防されているそうです。

しかし、根本的な解決法は糖質制限で、血糖値を上げない、インスリン分泌の過剰分泌をさせない食事をすることです。

恐らく、機能性低血糖の症状を知らない医師に受診して、必要のない検査をされたり、必要のない薬を処方されている人はかなりの数いるのではないかと推測します。

「Postprandial reactive hypoglycemia detected with premature ventricular contraction」

「食後反応性低血糖症が心室性期外収縮を伴って検出された」(原文はここ

8 thoughts on “機能性低血糖を知らない医師たち

  1. 10年前から糖質制限をはじめています。
    実は私も自分が始めるまでは「機能性低血糖」知りませんでした。自分もかつて、「機能性低血糖」ではなかったのではと思えるふしが、いくつもありました。

    夕方のイライラ。しかし主観的には悲しい気分になる。
    睡眠時の悪夢(時に「空飛ぶ夢」)・寝汗・歯ぎしり。

    これらは糖質制限をしたら、見事にすべてなくなりました。本当にかつて「機能性低血糖」になっていたかどうか、今としてはわかりません。時に「空飛ぶ夢」がまた見たいなあ、と思うこともあります。

    1. 三世敏彦さん、コメントありがとうございます。

      もちろん私も、10数年前に糖質制限を始めるまでは知りませんでした。
      しかし以前の記事「AKB選抜総選挙岡田奈々さん「機能性低血糖症」と告白、実は私も・・・」でも書いたように、
      ネットニュースでも「機能性低血糖」という言葉が出てきます。
      ペインクリニックの私がたとえ知らなくても、内科医は必須の知識だと思います。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      血液検査や画像検査で異常が見つからないと、異状なし、問題なしと言ってしまう医師が多くなったと思います。
      検査で異常がなく、症状ばかりを訴える患者は、精神科の患者だとでも思ってしまう医師も増えていると思います。
      検査で異常が出たら、かなり疾患が進行している場合も多いですし、
      話を聞けば精神的なものか、身体的なものかは大体わかるはずです。

  2. 薬局に勤務している薬剤師です。
    最近、「原因不明の手のふるえ」に対して抗うつ薬が処方された患者さんがいました。
    医師はストレスが原因かもしれないから服用して様子を見て、とのことでした。

    今思うと低血糖によるものだったのかもしれません…

    1. モモヤマさん、コメントありがとうございます。

      「原因不明の手のふるえ」、機能性低血糖の可能性は十分考えられますね。
      それにしても、原因不明の手のふるえに抗うつ薬を処方されるなんて、
      ドツボに嵌っていく典型的な例かもしれませんね。
      機能性低血糖に精神科の薬を飲まされる被害者はかなり多いと思います。
      今度こっそり、この記事を紹介してみるのも良いかもしれませんね。

  3. 私は研修医だった頃から自身の機能性低血糖を自覚していましたが、症状が出るたびに血糖値を是正するため飴玉や菓子パンを食べていました。そして、それはむしろ健康の証だと勘違いしていました。
    当時は食後高血糖という病態を知らなかったのですが、今考えると大変恐ろしい事をしていました。

    1. Caesiusさん、コメントありがとうございます。

      私も同じです。糖質過剰摂取時代はチョコレートや飴などで対処していました。
      健康の証とは思っていませんでしたが、糖尿病でもないのに、なんで低血糖症状が出るんだろうと思っていました。
      江部先生が機能性低血糖について、かなり以前から何度も記事にしており、
      一般の方でさえ機能性低血糖を知っている時代に、内科医が知らないのは恥ずかしいでしょう。

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