糖質制限とLDLコレステロール上昇 その8 運動による上昇②

前回の「糖質制限とLDLコレステロール上昇 その7」で、ケトン体質のアスリートが非常に健康的な変化を伴ってLDLコレステロール値が上昇することを書きました。(「その7」を読んでいない場合はそちらから読んでください。)

糖質制限では脂質およびコレステロールの摂取量が増加します。昔の古典栄養学ではコレステロールをたくさん摂取すると血中のコレステロールが増加すると考えていましたが、現在では食事でコレステロール量が増加しても有意に血中のコレステロールは変化しないと考えられています。

下の図は脂肪酸の代謝経路ですが、それを見てみると、アセチルCoAからアセトアセチルCoA、HMG-CoAに変換する経路は、ケトン体であるアセト酢酸やβヒドロキシ酪酸を作る経路とコレステロールを作る経路で共通しています。ケトン体は肝臓のミトコンドリア内で作られますが、コレストロールはサイトゾル(細胞質ゾル)内で作られるという違いはあります。しかし、この共通点は非常に注目すべきことかもしれません。

 

糖質制限では脂肪酸の酸化が非常に増加していて、TCAサイクルでは処理しきれないアセチルCoAがどんどん増え、それがケトン体へと変換されます。ケトン体もどんどん作られますから、ケトン体の一つであるアセト酢酸の一部がサイトゾルへ流出し、アセトアセチルCoAシンテターゼ(AACS)の作用によりアセトアセチルCoAに変換されるのではと考えられています。そうすると、アセトアセチルCoAからHMG-CoA、メバロン酸に変換され、コレステロールの産生が増加する可能性があります。

今回の研究ではコレステロールの合成マーカーや吸収マーカーも測定しています。コレステロールは「肝臓における合成」と「小腸からの吸収」があり、それを測定できるのです。コレステロール値が上昇した場合、食事からのコレステロールの吸収が増加しているのか、体内で合成されたコレステロールが増加しているのかを知ることができます。(表は原文より改変)

高炭水化物低炭水化物
絶対量 (mg/L)
デスモテロール1.422.82
ラトステロール1.842.23
カンペステロール3.53.86
シトステロール3.074.34
コレスタノール2.232.8
標準化 (10×μmol/mmol総コレステロール)
デスモテロール84.8101.9
ラトステロール109.479.6
カンペステロール195.0134.7
シトステロール167.7145.8
コレスタノール132.3101.5

 

ラトステロール、デスモテロールは合成マーカーで、総コレステロールの80%がラトステロールを経由して合成され、20%がデスモステロールを経由して合成されるといわれています。カンペステロール、シトステロールは吸収マーカーです。

コレスタノールはコレステロールの代謝産物で、胆汁酸とともに胆汁中に排泄され、胆汁とともに腸管より再吸収されると考えられているので、コレステロールの再吸収のマーカーと考えられています。

総コレステロールで標準化したそれぞれのマーカーは、シトステロール以外有意差があったのですが、低炭水化物群でデスモテロールは増加、ラトステロール、カンペステロール、コレスタノールは低下しました。合成マーカーのデスモテロールは増加しましたが、多くのコレステロールの合成はラトステロールを経由しています。そのラトステロールは低下しています。つまり、コレステロールの合成は変化がないか低下していると考えられます。吸収マーカーと胆汁の再吸収マーカーは低下しているので、食事からのコレステロールの吸収は低下していると考えられます。

コレステロールの合成も不変または低下、吸収も低下なのに血液検査のコレステロールは増加しているのです。不思議です。まだ未知の第3のコレステロールの増加の経路があるのかもしれません。もしかしたら、ケトン体からのコレステロールの合成はこの合成マーカーに反映しないのかもしれません。そうだとすると、糖質制限アスリートでのコレステロールの増加は、ケトン体の増加からもたらされている可能性があります。

アセチルCoAからコレステロールも脂肪酸も合成されますが、糖質制限では食事から脂肪をたくさん摂取することが多くなり、脂肪酸合成経路は抑制されている可能性があります。また、コレステロールおよび脂肪酸合成に必要な酵素を調節するSREBPの内、SREBP1の発現はインスリンによって増強され、脂肪酸合成を促進しますので、糖質制限ではインスリン分泌が低下し、SREBP1の発現が抑制されることにより脂肪酸合成経路は抑制され、よりコレステロールの合成が増加する可能性もあります。ただ、AMPKなど非常に様々な因子が絡んでおり、そんなに単純ではないとも思います。

ケトン体質の持久系のアスリートの場合、糖質制限でエネルギー源の脂肪酸の需要が非常に高まっています。そして、ケトン体に適応しているので、非常に高度に脂肪酸の酸化が可能です。脂肪酸からケトン体の産生も物凄い勢いで起きていると思われます。ケトン体の中には血流に乗って運ばれてエネルギーになるものもあれば、ケトン体からコレステロールや脂肪酸、そして中性脂肪になるものもあるでしょう。そしてできたコレステロールと中性脂肪をせっせとVLDLに詰め込み血中に送り出します。筋肉などのLPLの活性は高く、脂肪酸の需要は非常に高いままであるので、VLDLの中の中性脂肪はどんどん組織に送り込まれます。そして、VLDLはLDLになるのです。LDLは低炭水化物群の方が有意に高かったのに、VLDLの生成量は増加していてもどんどん代謝されLDLになってしまうので、VLDLの粒子数は低炭水化物群と高炭水化物群で有意差が無いと思われます。(「その7」の表を参照)

持久系の運動をしている場合、糖質制限でLDLコレステロールが上昇するのは、「ケトン体からコレステロールが産生され、それと中性脂肪を積み込んだVLDLが大量にできてはどんどん代謝されてLDLになるのでLDLコレステロール値が上昇する」という仮説はあながち間違っていないのではないでしょうか?運動をしていなくても絶食時間が長い場合、同じメカニズムでLDLコレステロール値が上昇しているのかもしれません。

 

「Paradox of hypercholesterolaemia in highly trained, keto-adapted athletes」

「高度に訓練されたケトン体に適応した運動選手における高コレステロール血症のパラドックス」(原文はここ

4 thoughts on “糖質制限とLDLコレステロール上昇 その8 運動による上昇②

  1. スーパー糖質制限1年。しっかりLDLコレステロールは上昇中です(笑)
    この一年間に4度の血液検査をしてもらいましたが、糖質制限前から高かったために検査のたびにまず間違い無く医師に服薬を勧められております。もちろん丁重に(笑)お断りしておりますが。

    で、私のみならずつれ合いも同様に尿酸値が見事に基準値を大幅に超えてきました^^;
    肉食が中心となったことや精神的ストレスとの関連も大きいかと思いますが、やはり通風は怖いです。
    今のところふたりとも発作を経験しておりませんので様子見と考えています。

    また、私の場合、数ヶ月前から声がれが気になるようになり、昨日耳鼻咽喉科にて見てもらいましたが、声帯周辺には異状は無いようです(食道癌の疑いも今のところ無いようです)。
    とりあえず先生の記事を参考に、ナトリウム不足回避を意識している今日この頃ですが、なかなか”適量”が分かりません。

    いろいろ試行錯誤が続いて飽きません(笑)

    1. ねけさん、コメントありがとうございます。

      LDLコレステロール上昇、良かったですね(笑)もちろん、他の数値との兼ね合いの問題ですが。

      尿酸値に関しては、フェブリクという高尿酸血症の治療薬の添付文書には次のような記載があります。
      「重要な基本的注意
      (1)本剤は尿酸降下薬であり、痛風関節炎(痛風発作)発現時に血中尿酸値を低下させると痛風関節炎(痛風発作)を増悪させるおそれがある。
      痛風、高尿酸血症の治療に際し、本剤投与前に痛風関節炎(痛風発作)が認められた場合は、症状がおさまるまで、本剤の投与を開始しないこと。」

      つまり、痛風発作中に尿酸値を下げることは逆に症状を悪化させるということです。また、発作中には尿酸値が必ずしも高くありません。
      これを説明する仮説がありますが、私には納得できません。恐らく痛風と尿酸値は相関関係であり、因果関係ではないと考えています。
      食べ物と尿酸値は実際にはほとんど関係ないでしょう。(食事のアンケートという疑わしい方法による研究では
      「食事は尿酸値にほとんど影響を与えない」と結論しています。)

      私は尿酸値そのものではなく、インスリン抵抗性や炎症が大きくかかわっていると考えています。
      時間があれば、この尿酸に関する記事を書くつもりではいます。

  2. 遠回しに尿酸に関する記事を要求したように思いますが(笑)
    よろしくお願いいたします。いつも面白く、そして頼りにさせてもらっております。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です