血液中の糖は体内のさまざまなタンパク質とくっ付いて、終末糖化産物(AGE)を作り出します。その過程の中間体としてメチルグリオキサールという毒性の高い物質が作られます。糖尿病ではこのメチルグリオキサールが増加し、様々な臓器や組織を傷害するのではと考えられています。
メチルグリオキサールは、血管内に蓄積すると酸化ストレスを引き起こし、血管の細胞を破壊し、血管障害を起こすと考えられています。食後の高血糖は、メチルグリオキサールの細胞内蓄積を劇的に増加させると言われています。
今回の研究で、血中のメチルグリオキサール濃度と様々な血管障害のパラメーターの関連を調べています。パラメーターは、頸動脈の内膜と中膜の複合体の厚さ(IMT)、収縮期血圧(SBP)、尿中アルブミン排泄量(ACR)、脈波伝播速度(PWV)、推定糸球体濾過率(eGFR)(図は原文より)
上の図は横軸が血中のメチルグリオキサール値、縦軸が5年間のIMTの変化率です。メチルグリオキサール値が高いほど5年間でのIMTの変化率は非常に有意に増加します。つまり血管壁がぶ厚くなり動脈硬化が非常に進んでいると考えられます。
上の図は縦軸が5年間の収縮期血圧の変化率を表しています。これもメチルグリオキサール値が高いほど血圧が高くなっていることを示しています。
上の図は縦軸は脈波伝播速度(PWV)の変化率です。PWVは動脈硬化の指標です。これもメチルグリオキサール値が高いほどPWVが高くなっています。つまり、動脈硬化が進んでいることになります。
2型糖尿病の血中のメチルグリオキサールが高い人ほど、5年間の血管肥厚、動脈硬化、血圧上昇といった血管機能の低下が大きかったのです。
メトホルミンは食後の高血糖を改善するのではなく、メチルグリオキサールそのものの増加を抑えることによって血管損傷を抑制すると考えられています。もちろん、糖質制限の方が食後高血糖を抑制できるので、さらに効果は大きいと思われます。
「Methylglyoxal Is a Predictor in Type 2 Diabetic Patients of Intima-Media Thickening and Elevation of Blood Pressure」
「メチルグリオキサールは、2型糖尿病患者の内膜肥厚および血圧上昇の予測因子である」(原文はここ)
さらに、最近の研究では、メチルグリオキサールが心臓の筋肉に蓄積すると心不全を起こすことを示しています。
糖尿病の人は心不全を発症するリスクが高いと考えられています。糖尿病の男性は非糖尿病の人と比較して心不全になる確率が2.4倍高く、女性では5倍高いと言われています。その一つの原因はミトコンドリアの機能不全であり、さらにもう一つこのメチルグリオキサールが関連しているようです。
健康な心臓では、筋フィラメントと呼ばれる筋肉の繊維の格子状の構造が心筋を収縮させています。心臓の細胞が弱ると心不全になります。メチルグリオキサールが心臓の細胞のタンパク質にくっ付き、その機能を弱らせるのです。
心不全のない人、糖尿病で心不全のある人、糖尿病のない心不全の人を比較すると、糖尿病で心不全のある人ではその他の人と比べて、メチルグリオキサールが心臓の筋肉の細胞により多くくっ付いて、分子モーターの働きを妨害し、心臓の細胞の弱らせていました。
「Diabetes with heart failure increases methylglyoxal modifications in the sarcomere, which inhibit function」
「心不全を伴う糖尿病は、サルコメアにおいてメチルグリオキサール修飾を増加させ、機能を阻害する」(原文はここ)
以前の記事「ケトン体がまたもや有益な効果 糖質の有害な影響を防いでいる」で書いたように、ケトン体の中のアセト酢酸はこのメチルグリオキサールの毒性を消すという作用があります。
糖質制限をして、ケトン体質になれば、食後高血糖にならないのでメチルグリオキサールはできにくくなり、できたとしても頼もしいケトン体が無毒化してくれるのです。