もしも、LDLコレストロールが高くなることがアテローム性動脈硬化症の原因だという仮説が正しいと考えるならば、非常に疑問があります。
LDLコレステロールが異常に高くなる家族性高コレステロール血症(FH)では、一般的には比較的若い時期に心臓疾患での死亡率が高いと考えられています。
実際に、FHの20~39歳の男女の冠動脈疾患による死亡率は、標準人口よりも約100倍高いという結果があります。この死亡率は非常に高いと思われますが、同じ年齢層の標準人口における死亡率は、男性で0.06%、女性で0.01%であったので、実際の死亡数は非常に低かったのです。 439人年の観察期間中、FHの20〜39歳では5人だけが冠動脈疾患で死亡し、334人年の観察期間中に1人の女性が死亡しただけでした。(「家族性高コレステロール血症から考える 高LDLコレステロールは心血管疾患の原因ではない その1」参照)
FHまたは家族性複合型高脂血症の48人の患者を含む研究では、LDLコレステロールと超音波で調べたアテローム性動脈硬化症の程度との間に関連性は見られていません。
そして、もしも、LDLコレストロールが高くなることがアテローム性動脈硬化症の原因であり、それによりFHでは冠動脈疾患での若年死が多くなると考えるならば、FHでは冠動脈疾患だけでなく、脳梗塞も非常に多くなければ矛盾が生じます。
今回のノルウェーの研究では、FHの人の脳血管疾患の発生率は一般の人と比較して、1.0でした。つまり全く差がありませんでした。さらに、脳梗塞の発生率も一般と比較して1.0と全く差がありませんでした。しかし、以前に冠動脈疾患の既往がある女性では脳血管疾患のリスクが3.29倍になっていました。男性では1.03と全く差がありませんでした。
以前の記事「家族性高コレステロール血症から考える 高LDLコレステロールは心血管疾患の原因ではない その2」で書いたように、実際には家族性高コレステロール血症の心血管疾患のリスク増加は凝固系の異常である可能性が高いと思います。そうだとすると、冠動脈疾患を起こしていないようなFHでは脳梗塞も起こさない可能性が高く、冠動脈疾患を起こしているFHでは脳梗塞も起こす可能性が高くなるのではないでしょうか?
以前の記事「冠動脈造影は将来の心筋梗塞を予測しない」で書いたように、心筋梗塞もLDLコレステロールが血管壁の中にどんどん蓄積していって、そのうち閉塞するというイメージではなく、血流がまだ十分に流れているような血管に突然血栓がボン、と詰まるようなイメージに思えます。
糖質過剰摂取を避け、炎症が起きにくい食事を毎日摂取していれば、FHのLDLコレステロールの異常な高値は問題がない可能性が十分にあると思います。
「Risk of Ischemic Stroke and Total Cerebrovascular Disease in Familial Hypercholesterolemia A Register Study From Norway」
「家族性高コレステロール血症における虚血性脳卒中および全脳血管疾患のリスク ノルウェーからの登録研究」(原文はここ)