糖尿病性神経障害と低コレステロール

ハリウッド映画の多くでは正義と悪がはっきりしていて、非常にわかりやすくストーリーが展開されます。娯楽作品なので、善悪が分かれていた方が何も考えず楽しめるというのは確かでしょう。

しかし、人間の体はそんなに単純ではないと思います。コレステロールを「善玉」と「悪玉」に分けたのはいつ、誰が言ったのかはよくわかりません。ただ、この非常に分かりやすいストーリーが多くの人の心をつかんでしまい、医師でさえこのストーリーを信じています。

最近も同年代の医師が「最近、悪玉コレステロールが高くなってさ…」というような話をしていました。もちろんLDLコレステロール値が上がったという意味だと思います。

しかし、人間にとってコレステロールは非常に重要なものであり、決して悪玉ではありません。それを運ぶLDLもすべてが悪者ではありません。LDLコレステロールを悪玉にするという単純化により様々な人にメリットをもたらすのでしょう。このような洗脳は本当にうまく行きました。LDLコレステロール悪玉説を信じている人は圧倒的に多いでしょう。

コレステロールは脳や神経細胞に不可欠な成分です。今回の研究では、2型糖尿病患者100人を対象とし、神経機能と神経障害の程度を測定しました。

MRI、神経伝導、および自覚症状のすべての測定値は、総コレステロール値およびLDLコレステロール値が低いほど悪く、値が高いほど良くなったのです。(図は原文より)

上の図はMRIと病変を画像処理したものです。赤いところが神経の病変部位です。Bは多発性神経障害なし(神経障害症状スコア[NSS] = 0、神経障害欠落スコア[NDS] = 5、総コレステロール[SC]レベル= 220mg/dL )。Cは中等度多発性神経障害(NSS = 4、NDS = 6、総SC = 167mg/dL)。Dは重症多発性神経障害(NSS = 6、NDS= 7、総SC = 40mg/dL)。E〜GはB〜Dにおける2型糖尿病3人の患者についての神経病変の3次元再構成処理をしたものです。Eは多発性神経障害なし(Bの患者)で神経病変はほとんどありません。Fは中等度多発性神経障害(Cの患者)で中程度の量の神経病変を認めます。Gは重症多発性神経障害(Dの患者)で広範囲の神経病変が明らかです。

上の図の横軸は、Aは病変の神経の負荷を示しています。負荷が多いと神経の伝達速度が遅くなります。Bは最大の病変の長さです。Cは平均の神経の断面積です。病変が多いと断面積が増加します。縦軸は総コレステロールです。このどのグラフも負の関連を示しています。つまり、コレステロール値が低下すると、神経の負荷が増加し、病変の長さが増加し、断面積が増加します。

上の図は画像所見と臨床および血液のデータとの相関を示しています。左から神経の病変部位の比率、病変部位の最大の長さ、断面積です。当然病変部位の比率が大きくなれば、病変の長さや断面積は大きくなり、最大の病変の長さが長くなれば、病変部位の比率や断面積は増加します。それ以外に相関が強いのは、総コレステロールとLDLコレステロールでした。負の相関です。つまり、総コレステロールやLDLコレステロール値が低くなると、病変部位の比率も長さも、断面積も増加するのです。

さらに対称性の糖尿病性多発性神経障害を来している人とそれがない人を比較すると、糖尿病性多発性神経障害の人では、神経における平均病変負荷は約20%、最大病変長は63mmであり、多発神経障害のない人では負荷は約10%で、最大病変長は50mmでした。

コレステロールの低下は神経の治癒や再生を妨げてしまう可能性があります。コレステロールは神経細胞にとって重要なので、それが十分に供給されないと神経の腫脹は増加し、神経の損傷および機能不全につながる可能性があるのです。

2型糖尿病も心血管疾患も糖質過剰症候群であることを考えると、両方の病気がお互いに合併してしまう可能性が高くなります。その際、2型糖尿病にスタチンが使われることもあるでしょう。しかし、そのスタチンによって神経障害が起こりやすくなる可能性もあるのです。

単純な善悪を分けたLDLコレステロール悪玉説しか信じていないと、悪影響を招く可能性もあります。人間の本来の体のメカニズムや代謝を無視した、数値だけを良くしようとする行為では、何らかの弊害が起きても不思議ではありません。

スタチンには次のような研究も存在します。(原文はここ

スタチンの使用者における特発性多発ニューロパチー(神経障害)の相対リスクを推定したものです。特発性とは原因不明という意味です。特発性多発ニューロパチーについて、確定、推定、可能性に分けられています。

その結果、特発性多発ニューロパチーはスタチンの使用により、全症例で3.7倍、確定症例で14.2倍起こる可能性が高くなったのです。現在スタチンを使っている場合、全症例で4.6、確定症例で16.1倍も起こる可能性が高くなりました。2年以上スタチンで治療された人では、確定した特発性多発ニューロパチーはなんと26.4倍も起こる可能性が高くなったのです。

これは本当に特発性(原因不明)と言って良いのでしょうか?私には医原性、薬剤性にしか思えません。

コレステロールを気にし過ぎてはよくありません。(「LDLコレステロール値は測定する意味がないかもしれない」「コレステロールを恐れ過ぎてはいけない LDLコレステロール値が低いほど死亡率が上がる!」「LDLコレステロールを低下させることの有益性の証拠はない!」など参照)

スタチンにはご注意を!

「Association of Serum Cholesterol Levels With Peripheral Nerve Damage in Patients With Type 2 Diabetes」

「2型糖尿病患者における血清コレステロール値と末梢神経障害との関連」(原文はここ

4 thoughts on “糖尿病性神経障害と低コレステロール

  1. 私はまさに洗脳されていました。

    FHということでコレステロールの多い食べ物を控えて、約20年ほどスタチンを飲み続けていました。

    好きな肉や卵はほぼ食べられず、糖質ばかり食べていました。体調もめちゃくちゃ悪く、身体中あちこち激痛で本当に辛かったです。多分病院に行ったら繊維筋痛症とかの診断ついたのかも?とか思います。

    今は薬をやめて、好きな肉や卵をたくさん食べられて、しかも痛みも無くなって、糖質制限万歳です(笑)

    1. ミホさん、コメントありがとうございます。

      痛みが無くなって良かったですね。スタチンで痛みを訴える方は意外と多いと思います。

  2. 初めまして。
    基準値を決める日本動脈硬化学会と製薬会社の利益相反があまりにも大きすぎるからですよ。
    それを追求し続けているのが、対立する日本脂質栄養学会です。
    元ジャーナリストの笠本進一さんのブログもぜひ読んでください。
    「地方を考える T and T 眉山研究所」 で 検索してみてください。
    ものすごく重厚な内容です。

    1. つきしまみなさん、コメントありがとうございます。

      情報をありがとうございます。今度読んでみます。

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