以前の記事「糖質制限とカロリー制限とLDLコレステロールなどのデータ変化 その1」の続きです。コメントおよび質問内容は「その1」を見てください。今回の記事は質問の答えになっているかどうかは微妙な内容ですが…(←三点リーダー症候群かも?)
今回は結構仮説を含んでいます。もちろん、LDLコレステロールが原因でアテローム性動脈硬化を起こすことさえも仮説ですが。
人間の全身のコレステロールは約100〜140gで、血中のリポタンパク質中のコレステロールはたった約7%です。胆汁には約10gが存在しているそうです。 全身のコレステロールの大部分はどこに存在するのでしょうか?最も多いのは細胞膜で、もちろんすべての細胞と組織に分布しており、細胞膜の脂質の30〜50%をコレステロールが占めています。細胞に存在する総コレステロールの60〜90%が細胞膜に存在すると言われています。細胞膜におけるコレステロールの重要な役割は、細胞膜の流動性を安定させることだと考えられています。またシグナル伝達機能もあるでしょう。
つまり、血中のコレステロールなんてごく一部でしかなく、それぞれの細胞にとってコレステロールの存在は非常に重要だと思われます。
食事からのコレステロール摂取量の上限は以前は成人男性で1日当たり750mg、成人女性で600 mgと設定されていました。腸から吸収されるのは食事由来だけでなく胆汁の再吸収の方が割合は多いでしょう。人間にとって不利益をもたらすものであれば、この再吸収を減らせば良いはずです。再吸収をするという仕組みを考えれば、人間にとっての重要さがうかがえます。ただ、現在の食事が狩猟採集時代と比較してコレステロール量が多いのかどうかです。それはよくわかりませんが、現代の方が多いのではないかと思います。
しかし、それにしても1日の食事などからの腸から吸収される外因性コレステロールは1g程度です。全身に存在する量の100分の1です。そう考えると、食事性のコレステロールはそれほど重要ではない気がします。
そして、肝臓をはじめ様々な組織、細胞でコレステロールはアセチルCoAから合成ができます。これも必要なければ合成を減らせば良いだけのことです。果たして、血中のLDLコレステロールは体内のコレステロール量を反映しているのでしょうか?そこはわかりません。
しかし、糖質制限などの大きな食事変化などによりLDLコレステロールは変動します。そうするとコレステロールは、細胞膜の安定性の変動により血中に出て行ったり、細胞に取り込まれたりしているのではないかと思われます。つまり、血中にコレステロールがプールされていて、何らかの状況により必要性が高まると細胞に取り込まれるのです。細胞膜は脂肪酸を含んだリン脂質が2重になった構造になっています。
脂肪酸はご存じのように飽和脂肪酸、一価不飽和脂肪酸、多価不飽和脂肪酸があり、膜の流動性に関連しています。そうすると細胞膜を構成する脂肪酸の変化が起きれば、それを支えるコレステロールの量も変化し、もし不要になったコレステロールが出てきたら、血中に放出されるのではないかと思われます。
糖質制限ではコレステロールの摂取量が多くなる場合があります。そうするとコレステロールの合成量は減少するでしょう。しかし、脂肪酸(中性脂肪)の合成量も減少しているので、アセチルCoAは余りまくっています。ケトン体を作ってもまだ余っているかもしれません。そうすると自然とコレステロールなり、脂肪酸なりがアセチルCoAから合成されてしまうのかもしれません。人によりケトン体がたくさんできる人、コレステロールができる人、脂肪酸ができる人と個人で違いがあるのかもしれません。
コレステロールができた場合、細胞内でそれ以上に必要なければ血中にプールされるのかもしれません。脂肪酸、中性脂肪ができた場合は皮下脂肪として蓄えられるかもしれません。そのような人は糖質制限でもなかなか痩せないのかもしれません。
さらに気温も関係しているかもしれません。人間は進化の中で氷河期など非常に寒い気候の中を生き延びてきました。寒い地域では中性脂肪やコレステロールが高い方が有利だったかもしれません。LDLコレステロール値には季節変動があると言われていて、現在でも冬の季節ではLDLコレステロールは高くなります。(ここ参照)ちなみに私は冬場の方が体重が増加します。
夏の検査データと冬の検査データを比較して冬の方が高くなったから、心血管疾患のリスクが上がった、と思うのは間違いかもしれません。確かに心筋梗塞は冬場に多いのですが、脳梗塞は夏場に多くなります。2020年10月まででは2019年より約1万4000人死者数が少なく、1月から7月までの間の心筋梗塞は5,000人ほど減少しています。
(図はここ参照)
恐らく、冬場はこれまで肺炎やインフルエンザ、その他の風邪が蔓延し、その炎症の影響で冠動脈に凝固系が亢進しやすくなったり血栓ができやすくなり、心筋梗塞が冬に多かったのだと思います。LDLコレステロールの季節変動とは関係ないでしょう。風邪や肺炎自体が大きく減少した2020年は恐らく心筋梗塞をはじめ心血管疾患の死亡者数は激減したと思います。
狩猟採集生活の食事は決して満足のいく、非常に健康的な食事であったかというとそうではないと思います。仕方がなくそのような食事をしてきました。狩猟採集生活で痩せていたからと言って、痩せていることが健康ではないでしょう。食するものが不足していて痩せざるを得なかったのです。しかし、その食事で進化したので、それに合わせて体のメカニズムができています。さらに人間の能力を引き出すには、狩猟採集生活のままの食事ではなく、さらに多くの栄養があった方が健康的だと思います。そして、もっとも多くあった方が良い栄養がタンパク質と脂質です。糖質は最低限しか手に入らなかったことが、現代では不利に働いていると思います。それなりに手に入っていた栄養素のタンパク質と脂質、かなり貴重で手に入りにくい栄養素の糖質では、豊富に手に入った場合の影響は大きく違うでしょう。
昔は狩猟や採集で体を動かしていたから痩せていたと考える人もいるかもしれませんが、恐らく食糧が手に入ればその後は、娯楽もない時代なので怠惰な生活を送っていたのではないでしょうか?つまり、動いてエネルギーを消費していたのではなく、なるべくエネルギーを節約して生活していた可能性が高いと思います。しかし、生きるために必要時には動いて食糧を何とか手に入れていたのが現実だと思います。
また、以前の記事「糖質制限とLDLコレステロール上昇5 ファスティングはLDLコレステロール値を上昇させる」で書いたように、断食の日数が長くなればなるほどLDLコレステロールは上昇します。そうすると飢餓との戦いであった時代ではLDLコレステロールが高いことが当たり前であった可能性があります。つまり、やはりLDLコレステロールが高いことそのものが悪いのではなく、代謝の状態がどのようになっていてLDLが増減しているかが重要であると考えられます。断食や糖質制限で増加したLDLと、糖質過剰摂取で小さくなったり、糖化などで変化して受容体に取り込まれずに増加したLDLでは根本的に異なると思います。
現在の私の考えは、皮下脂肪はある程度あった方が良いと思っています。肥満や過体重ではなく、程よい皮下脂肪(内臓脂肪ではない)は人間にとって有利に働くのではないかと思っています。それは、これほどの糖質過剰摂取の時代で、人間は脂肪を蓄え、重い病気にさえならなければ100歳まで生きるほど長寿になったことからです。健康に生きるか、病気を抱かえて生きるかは大きく違いますが、生きているかどうかで言えば糖質過剰摂取でも長生きです。
長寿のサーチュイン遺伝子が働きにくい糖質過剰摂取でもかなり長寿です。サーチュイン遺伝子の効果で長寿になるかどうかは人間ではわかっていません。逆にBMIが低すぎる人では肥満の人よりも死亡リスクは高いと言われています。(図はここより、その論文はここ)
皮下脂肪は体を温かく保ち、エネルギー源にもなり飢餓の心配がありません。さらに免疫機能にも重要だと思います。
ただ、私は死ぬまで健康で生きていたいと思っているので、最も健康的だと思う食事を選択しています。(アルコールは飲んでしまっていますが…また三点リーダー)
糖質制限をしているからと言って、痩せすぎることはお勧めしません。
そして、お答えしていなかったもう1点について。
カロリー制限中の摂取糖質量は42.2→51.4と増加していますが、逆に空腹時血糖値もHbA1cも低下しました。
カロリー制限も血糖値を改善するかもしれません(ただし、糖質制限併用の場合)。
とありますが、42.2のときのデータがないので何ともわかりません。糖質摂取量が9.2g減少していますが、少なくとも9月から1月のHbA1cの変動はありません。さらに9.2gの糖質量、吸収量が本当かどうかはわかりません。あくまで計算上の量でしょうから。そして、この低いレベルでの糖質量の変化はあまり大きな差が出ないと思います。
また、血糖値の低下はエネルギーの問題ではなく、もしかしたらシーフードに多く含まれるマグネシウムの影響があるのかもしれません。糖質制限をしても空腹時血糖値が高めの方は、一度マグネシウム摂取量を増加させることを試してみる価値はあるでしょう。
ちなみに私はこれを使っています。にがりだと量をいっぱい摂らなくてはならないので、濃縮タイプは摂取しやすいです。
「The homeoviscous adaptation to dietary lipids (HADL) model explains controversies over saturated fat, cholesterol, and cardiovascular disease risk」
「食事性脂質(HADL)モデルへの恒流動性適応は、飽和脂肪、コレステロール、および心血管疾患のリスクに関する論争を説明する」(原文はここ)