小さい頃、背が高くなりたくて牛乳をたくさん飲んでいました。しかし、結果的には今はちんちくりんのおじさんです。遺伝だとは思いますが、もう少し背が欲しいと若い頃には思っていました。
子供の頃は「成長」と言いますが、大人になるとその延長線上は「老化」や「がん化」になります。
以前の記事「食事においてタンパク質が違えばインスリン分泌も違う」で書いたように、人間いとって重要なタンパク質も、その源が何であるかによってインスリン分泌などが変化します。高インスリン血症や高IGF-1は有害であり、がんなどのリスクを高めます。
今回の研究では8歳の子供に肉を与えたときと、牛乳を与えたときのインスリン分泌などの違いを調べています。
24人の8歳の男の子に、53gのタンパク質を牛乳または肉として毎日摂取するようにしました。12人の男の子は1.5リットルのスキムミルクとして、他の12人の男の子は250gの低脂肪肉(何肉かは不明)として摂取しました。それ以外の食事は通常通り自由な食事です。期間は1週間です。
牛乳グループは1週間で平均550g体重が増加しました。(表は原文より改変)
牛乳グループ | 肉グループ | |||
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ベースライン | 7日目 | ベースライン | 7日目 | |
エネルギー(MJ /日) | 9.02±1.56 | 10.16±1.85 | 8.93±1.51 | 9.18±2.00 |
炭水化物(E%) | 51.4±3.57 | 51.9±4.08 | 56.6±4.65 | 46.7±7.94 |
脂質(E%) | 34.6±3.96 | 26.7±4.10 | 29.9±4.56 | 32.4±5.37 |
タンパク質(E%) | 13.1±2.09 | 20.6±1.67 | 12.7±0.76 | 19.9±3.37 |
タンパク質(g /日) | 68.6±9.95 | 121.4±17.2 | 65.3±11.4 | 105.6±33.8 |
牛乳(g /日) | 416±206 | 2024±44 | 356±155 | 236±160 |
肉(g /日) | 90.3±34.0 | 82.1±25.5 | 81.5±42.7 | 291±118 |
BCAA(分岐鎖アミノ酸)の合計はどちらの群もベースラインより増加し、差はありませんでした。
牛乳グループでは、空腹時インスリンとインスリン抵抗性がそれぞれ103%と75%有意に増加しました。しかし、肉グループでは、空腹時インスリンもインスリン抵抗性も増加しませんでした。ベータ細胞機能は両方のグループで86%(牛乳グループ)と42%(肉グループ)で有意に増加し、C-ペプチドは牛乳グループで26%、肉グループで8.5%有意に増加しました。 空腹時血糖値は、牛乳グループでは変化しませんでしたが、肉グループでは有意に減少しました。
つまり、牛乳をたくさん飲むと空腹時のインスリンが高くなり、インスリン抵抗性も高くなります。同じタンパク質でも牛乳のタンパク質は肉よりも大幅にインスリン分泌を促進してしまいます。さらに牛乳はIGF-1も大幅に増加させます。
牛乳のホエイプロテインがインスリン分泌を非常に増加させ、カゼインがIGF-1を非常に増加させると言われています。さらにアミノ酸のロイシンも多く含むためmTORが大きく非常に活性化します。インスリンとアミノ酸(ロイシン)の両方のシグナルが無いとmTORC1は十分に活性化できないと考えられています。牛乳はその両方のシグナルを大きく増加させるので、mTORは最大に活性化される可能性があります。
mTORの活性化は細胞の成長と増殖を促進し、オートファジーを抑制します。mTORもインスリンもIGF-1も成長期には非常に重要ですが、あまり活性化しすぎるとがん化を招く可能性があります。
子供の成長を考えることは親として当然ですが、毎日のように子供に大量に牛乳を与えることはよく考えた方が良いかもしれません。成長だけでなく肥満化を招いたり、インスリン抵抗性を増加させたり、そして場合によってはがんのリスクを高めるかもしれません。
牛乳は牛の赤ちゃんが生まれて牛として成長するための栄養です。牛に合わせたものです。たとえば、ラットのミルクのロイシン含有量は11g /L、猫のミルクのロイシン含有量は8.9 g/L、牛乳のロイシン含有量は3.3 g/L、人間の母乳のロイシン含有量はたった0.9 g/L です。それぞれの出生時体重が2倍になるのにはラットは4日、猫は10日、牛は40日ですが、人間のの新生児は180日後に2倍になります。(こことここ参照)
つまり、人間の成長スピードにとっては牛乳のロイシン量は多すぎて、それに対する反応も強すぎるのかもしれません。
最近、プロテイン人気が高まっています。多くのプロテインドリンクやプロテインバーには大量の糖質が含まれていますし、そうでなくてもプロテインドリンクに含まれるタンパク質はホエイプロテインであることが多いと思います。液体のホエイプロテインは大きくインスリン分泌を促進してしまう可能性があります。
人類の進化の中で牛乳のように他の生き物のミルクを飲むようになったのは、穀物などの糖質と同様に非常に最近のことです。狩猟採集時代では動物は獲物なので、乳を得ることなど不可能であったでしょう。ましてやタンパク質自体は発見されて80数年です。それがプロテインという商品として発売されて数十年です。つまり液体のタンパク質に対しては人間が十分に適応していない可能性があるのです。人間が適応しているタンパク質は主に肉(魚を含む)です。
糖質制限をしていない人が牛乳やプロテインまで大量に飲んでしまったら危険かもしれません。アスリートや元アスリートが白血病、悪性リンパ腫などになっていますが、もしかしたら牛乳やプロテインが関係しているかもしれません。(私はおおいに関係していると思います。)
タンパク質は肉や魚などから摂るべきだと考えます。
「High intakes of milk, but not meat, increase s-insulin and insulin resistance in 8-year-old boys」
「肉ではなく牛乳を大量に摂取すると、8歳の男児のインスリンおよびインスリン抵抗性が増加する」(原文はここ)
牛乳神話。
若年者は背が伸びる、老年者は骨が強くなるなどありました(まだ信望者多いですが)。
糖質制限的にも牛乳は意外と糖質多、チーズやバターなどの乳製品になると糖質ほぼゼロとのことで、最近は牛乳ではなく乳製品を摂るようになりました。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
牛乳で背が伸びるのは神話ではなく、実際にレスポンダーがいる可能性があります。
しかし、そのレスポンダーはもしかしたら、がんのリスクも高いかもしれません。
また、アスリートは激しい運動後すぐにタンパク質を補給することが重要だと考えている人が多いと思います。
しかし、それは激しいトレーニングでmTORが活性化されたうえに、さらにプロテインでmTORが過剰に活性化されてしまう可能性があります。
がんのリスク増加と引き換えに筋肉を手に入れるようなものです。
プロテインのメリットばかり強調するのは問題でしょう。
ご返信ありがとうございます。
牛乳伸長神話、あながち嘘でもなかったのですね。
私事ながら今年24歳の長男が、幼少~高校位まで牛乳1Lパックを毎日消費してました。
身長180cm超えました。 ただ、(癌リスクの可能性などの)副作用もあるかもしれないのですね。
鈴木 武彦さん、
メカニズムを考えると、神話ともいえないであろうと思います。
身長とがんのリスク増加については後日記事にします。
空腹時血糖値 85
HA1c 5.9
糖質をセーブしている割にHA1cの値がいつも高いのが気になっていました。
インスリン抵抗性が上がっているとしたら
ホエイプロテインが原因ということも考えられるでしょうか?
まーさん、コメントありがとうございます。
HbA1cだけでインスリン抵抗性を評価することは難しいので、このデータだけでコメントすることはできません。
しかし、液体のタンパク質を大量に摂取することが有益かどうかは不明です。人類は液体のタンパク質を摂取して進化していません。
糖質ほどではないかもしれませんが非常に不自然な栄養の摂取法です。
いつも勉強になります。私は朝は血糖値が高くなりやすいのですが、ゆで卵2個では血糖値はまったく上がらず、糖質が少ない国産の某おいしいホエイプロテインだけで血糖値が180を超えて驚いた経験があります。こんなに違うものかと…(夕方はそこまで極端に上がりませんが)
よっしーさん、コメントありがとうございます。
非常に面白い情報ありがとうございます。糖尿病の方はプロテイン要注意ですね。
特に朝はインスリン抵抗性が一番高いですから夕方と違いがあるのでしょうね。