医療の世界では、都合の悪いことは「パラドックス」としがちです。そもそも前提が間違っているとは思わないのがこの業界なのかもしれません。コレステロールは心臓に悪い、スタチンは心臓を助ける、というのは本当でしょうか?
今回の研究では、韓国で2009年に健康診断を受けた10,585,843人の成人のデータを使用し、最終的に9,778,014人を分析しました。平均年齢は47歳で、平均8.2年の追跡期間中に心房細動を発症したかどうかをスタチンの有無とともに調べています。867,336人(8.9%)がスタチンを服用していました。(図は原文より)
上の図は横軸がAとBが総コレステロール、CとDがLDLコレステロールで、縦軸は心房細動のリスクです。BとDはスタチン内服の有無で分けています。見て明らかなように、総コレステロールおよびLDLコレステロールが増加するにつれて心房細動のリスクは低下しています。そして、スタチンを使用している人よりも使用していない方がリスクが低くなっています。
コレステロールと心房細動の関係は、他の研究でも同様の結果が出ています。(この論文とこことこことここ参照)
スタチンはミトコンドリアに対して毒性があります。スタチンはCoQ10の合成を阻害するために、エネルギーであるATP産生を低下させます。ATPは正常な心筋機能や心臓の細胞の代謝や細胞が生きてゆく上で必須のものです。心臓の細胞膜の安定性にもコレステロールは重要でしょう。どのようなメカニズムがあるのかはっきりとはわかりませんが、コレステロールの低下は心房細動のリスクを増加させる可能性があります。
以前の記事「低コレステロールは心不全のリスクを高くする」「スタチンの心毒性」で書いたように、低コレステロールは心不全のリスクが高くなり、スタチンには心毒性があります。
もし、スタチンで心房細動のリスクを上げるとしたら、脳梗塞を増加させる可能性がありますし、抗血栓薬を処方することが可能になります。医療側にとっては素晴らしい薬ですね。様々な副作用で患者をつなぎとめることができます。患者にとっては恐ろしい薬です。スタチンを飲んでいる人は本当にそれが必要なのか、もう一度検討してください。
医療は不完全で不確かなものです。パラドックスと考える前に前提が間違っていないか考えるべきでしょう。
「Evaluation of the Paradoxical Association Between Lipid Levels and Incident Atrial Fibrillation According to Statin Usage: A Nationwide Cohort Study」
「スタチンの使用による脂質レベルと心房細動発生との間の逆説的な関連性の評価:全国コホート研究」(原文はここ)
無視はしていないが、取組む価値
ある問題ではないと
片付けてしまえる「パラドックス」、
便利な言葉ですね。
鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。
医療はパラドックスのオンパレードです。
根本が間違っていることに気付いてほしいですね。
冠動脈バイパス術の専門医として日本でもトップクラスの年間500件の手術をこなし98%の成功率を誇り、2012年には現上皇の明仁殿下の狭心症冠動脈バイパス手術を執刀したこともある心臓外科医である天野篤氏は、まったく逆のことを仰っています。
1・心臓病予防のために、中高年が最も重視しコントロールしていかなければならないのは「コレステロール」であり、特にLDLは炎症の火種として、心疾患、脳疾患、がんとの因果関係が強い。
2.スタチンは筋肉痛や関節痛などの副作用はあるものの非常に有効である。(天野氏自身も15年以上服用している)
天野氏の見解は、数多くの手術例からの現実と、患者の検査データを積み重ねたもので、説得力があると私は思います。
横須賀太郎さん、コメントありがとうございます。
糖質過剰摂取「なのに」コレステロールが高いのが悪いのでは?
つまり、この場合はコレステロールが高いことは結果であり原因ではないということです。
常々清水先生もご指摘のように、糖質制限者と(糖質過多の)普通人
では検査数値や薬の影響なども一括りには語れないのだと思います。
>つまり、この場合はコレステロールが高いことは結果であり原因ではないということです。
違います。詳細は天野氏の著書を読んでもらえば分かりますが、はっきりと「コレステロール(LDL)が原因である」と仰っています。数千例の手術を執刀し、冠動脈や動脈を観察した医師の言葉には説得力があり、裏付けがあります。逆に、血管内を見たこともない人が、糖質制限者は一括りにできないと言っても、何の説得力もありません。通信教育で空手を習っても、実戦で鍛えた空手家には絶対に勝てないのと同じことです。
自身の健康は「机上の空論」は勿論、
たとえどんな名医でも保証することは
できないでしょう。
実感を信じるしかないですね。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
この世界、発言力のある人ほどどこかに飼われていることが多いですから。
その天野という医師が
LDLコレステロールに関するこれまでの通説的見解を思い直して、いままでひょっとして原因と結果を取り違えていた可能性があること、前提それ自体を疑うべきだったかもしれない。なぜかといえば「すべては疑いうる」わけだから。
と、科学的精神の基本中の基本にたちかえって、正直に告白するようなことがあれば真の意味で立派な医師だと思います。
カルダノ栄太さん、コメントありがとうございます。
まあ、無理でしょう。スポンサー様かもしれませんから。