過度の持久運動による心臓血管への悪影響 その3 不整脈

あいかわらずサロマ湖の天気予報では、レースの日の最高気温31~32度です。昨日の札幌の朝では最低気温は11度くらいで長袖を着たくらいでしたから、そこから20度も上昇ということになります。暑さに適応していない状態で、果たしてどこまでできるのか?不安ですが、楽しみです。

その1」「その2」の続きです。

過度の持久運動は不整脈のリスクを増加させると言われています。特に心房細動が起こりやすいと言われています。

1998年の報告が有名のようです。(ここ参照)長期にわたる激しい運動を行っている人の代表として、日本ではあまりなじみのないトップレベルのベテランオリエンテーリング選手を対象としています。1984年に35~39歳、40~44歳、45~49歳、55~59歳のレースクラスからベテランランキングリストで上位 60人のオリエンテーリング選手、合計 300 人のランナーを選び、495人の対照群は35~59歳の男性です。みんな20歳の時点で完全に健康で、ベースライン時の平均年齢は、オリエンテーリング選手で47.5歳、対照群で49.6歳です。

一般集団と比較すると、オリエンテーリング選手の死亡率ははるかに低く(1.7%対8.5%)、1985年以降に報告された冠状動脈心疾患も低く(2.7%対7.5%)、心房細動の危険因子も少なかったのですが、臨床上明らかな器質的心疾患(肥大心,不全心,虚血心)のない心房細動である「孤立性心房細動」はオリエンテーリング選手228人中12人(5.3%)、対照群212人中2人(0.9%)で診断されました。オリエンテーリング選手の心房細動リスクは5.5倍にもなったのです。。孤立性心房細動の対照群2人も実は激しい運動も行っていたのでした。1995年末のオリエンテーリング選手における孤立性心房細動の年齢別有病率は、46~54歳で4.2%(95人中4人)、55~62歳で5.6%(72人中4人)、63~70歳で6.6%(61人中4人)でした。人口調査では、持続性または発作性の心房細動の平均有病率は、45~54歳で0.5%、55~64歳で約1%、65~74歳で4% だったそうなので、オリエンテーリング選手の有病率はかなり高い数値です。

不整脈外来を受診した1160人の患者の記録を調べた研究(ここ参照)では、2年間で週3時間以上定期的に運動している人という緩い定義ですが、一般集団の男性に比べて、定期的運動している人の方が63%対15%と、孤立性心房細動の患者に占める割合が高くなりました。

また、別の外来を受診した51人の孤立性心房細動患者の研究(ここ参照)では、一般集団の対照109人と比較して、現在スポーツを行っていると報告した孤立性心房細動患者の割合は31%で、 対照群14%よりも高く、現在スポーツを行っていることと心房細動可能性は3.13倍になりました。そして、生涯スポーツ時間が1500時間を超えることが、観察された関連の閾値と考えられ(本当に閾値かどうかは疑問ですが)、生涯スポーツ時間が1500時間を超える現在のスポーツ活動は、心房細動の可能性を2.87倍に、迷走神経が緊張して起きる孤立性心房細動の可能性は5.06倍にもなりました。

バルセロナマラソンに参加したマラソンランナー183人とほとんど運動しない290人の対照群を対象とした研究(ここ参照)では、運動不足の男性のうち2 人(0.69%)とランナーのうち9 人(4.92%)が6.4年の追跡調査中に孤立性心房細動を起こしました。持久力スポーツを行うことは孤立性心房細動のリスクを8.80倍にする計算になります。心房細動を起こしたランナーの心エコーでは測定された左房の大きさが、心房細動のないランナーよりも大きくなっていました。

明らかな原因の不明な心房細動がランナーに起きやすいという証拠が色々ありますが、やはり過度の持久運動は酸化ストレスの増加が非常に大きいのでしょう、そして全身の炎症も増加します。そして、その中でスポーツドリンクやカーボローディングなどの過剰な糖質摂取による血糖値の上昇などが大きな原因となり得ると考えています。

人類は人家の過程で、狩猟を行っているときに、非常に長い距離歩いたり、走ったりを繰り返していたでしょう。しかし、その持久運動の前にも後にも糖質は摂取していませんでした。ランナーだからと言って、持久運動だからと言って、糖質をため込もうと過剰に摂取してしまえば、その時は高血糖になります。運動後のリカバリーと考えて、スポーツドリンクをがぶ飲みしたり、大量の糖質を摂取すると、激しい運動後には一時的に筋肉のインスリン抵抗性が高まるので、通常よりも長い時間高血糖が持続する可能性があります。それらの繰り返しは積もり積もって、心臓の変化を起こし、不整脈のリスクとつながるのではないかと推測します。

ただでさえ心臓の負担の大きい過度な持久運動です。できる限り酸化ストレスや炎症を減らした方が良いでしょう。私はケトランで走ってきます。

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