もちろんかなり体調が悪い場合は別ですが、安静は有害です。特に高齢者になると、一度落ちた筋肉を戻すことは至難の業です。
今回の研究では、3日間、全く動かない生活をさせて、筋肉がどうなるか?という虐待的な実験を行っています。健康な成人男性12人(平均年齢32歳)が対象です。参加者をしたの写真の図のような、33度の水に浮かべた、究極のウォーターベッドのような状態でずっと過ごしてもらいました。トイレの使用と体重測定のために毎日水を抜く20分間を除いて、仰向けの姿勢で、四肢を不必要に動かさないように指示されました。辛すぎる3日間だったでしょう。(図は原文より)
3日間の完全な安静状態の前後で筋生検(外側広筋)をしました。
上の図のように筋線維の断面積(CSA)を測定しました。たった3日間で筋線維のCSAが有意に10.6%も減少しました。実験前で6283 μm 2、3日後5617 μm 2でした。
上の図は3日間の安静後の筋間脂肪組織(IMAT)沈着の変化を示しています。一般的に用いられる成熟脂肪細胞の2大マーカーであるペリリピンと脂肪酸結合タンパク質4(FABP4)の発現を測定しました。ペリリピンが80%増とFABP4が40%増とタンパク質発現レベルが著しく増加しました。IMAT脂肪細胞の断面積(CSA)は3日後に増加していました。
それ以外のIMATの発達のマーカーも増加していました。
つまり、わずか3日間のほとんど完全な不活動が、筋肉の低下と同時に筋間脂肪組織発達の主要マーカーの発現増加を引き起こす可能性があるのです。
筋肉への脂肪浸潤は筋肉のデコンディショニング(筋委縮や筋力の低下)の特徴です。老化や活動の減少、インスリン抵抗性などはさらに筋肉への脂肪浸潤を促進する可能性があります。
高齢者では、ちょっとした痛み、疲れで安静にしがちです。私は外来で、できる限り動いてください、と話をしています。そうしないと動けなくなるからです。今回の研究のように、不活動はすぐに筋肉の低下、脂肪浸潤をもたらし、余計に筋力が弱まり、更なる痛みや疲れ、インスリン抵抗性の増加などをもたらします。ときに年単位でほとんど動かない生活を続け、様々な痛みを訴えて受診される方がいます。
ほとんどの高齢者が様々な医師に受診しているにもかかわらず、ほとんどの医師は薬を処方するだけで、食事や運動について話はしないでしょう。整形外科でも痛みを感じたらすぐに運動などをストップするように勧める医師もいるでしょう。痛みが消えるまでじっとしていても、根本的には解決しないので動けばまた痛くなるでしょう。
私はランニングをするとき、ときどき足のいろんな場所に痛みを感じる場合がありますが、ほとんど無視して走ります。そうすると、そのうち痛みを感じなくなり、快適に走れるようになります。もし、痛みが悪化したら、その時に止めれば良いのですから。
人間の体は動くようにできています。動くのを止めたら、その筋肉や骨は不必要なものだと判断されてしまい、どんどん減っていきます。人類の進化の過程では、限られた栄養で生きていくには必要な場所に必要な栄養を送ることが重要だったからでしょう。自分の体と対話しましょう。自分の体の声を聴きましょう。
If you quit once it becomes a habit. Never quit!
1度途中でやめてしまうと癖になる。絶対にやめるな!(マイケルジョーダン)
自分の体を守るために、若いうちから運動習慣をつけて、年齢を重ねても、できる限りの運動をしましょう。(私がランニングを始めたのは40歳過ぎてからですけどね…)
「Short-term disuse promotes fatty acid infiltration into skeletal muscle」
「短期間の使用停止は骨格筋への脂肪酸の浸潤を促進する」(原文はここ)