以前の記事「80歳以上では収縮期血圧が低いと死亡率が高い」で書いたように、高齢者では収縮期血圧が120mmHgよりも血圧が低い場合、死亡率が高くなります。血圧もそうですが、医師は高齢者に対しても、コレステロールを下げろ、と薬を出してきます。高齢者がコレステロールを下げるメリットってあるのでしょうか?
今回の研究では、イギリスの80~105歳の99,758人のデータを分析しています。女性は63,630人、男性は36,128人、平均年齢は86歳、死亡者は29,200人でした。登録時にスタチン治療を受けていたのは41,164人でした。
上の図は、上がスタチンなし、下がスタチンありの場合の、総コレステロール値による生存率です。スタチンの有無にかかわらずコレステロール値が低いほど生存率は低下しています。
上の図のように、スタチンなしの場合、総コレステロールが4.5~5.4mmol/L(日本の単位で、174~209mg/dL)の人と比較して、総コレステロールが116mg/dL未満だと死亡率は1.41倍でした。スタチンありの場合でも、1.53倍でした。
上の図はスタチンの有無別で、赤が死亡した人、青が研究の期間内に生きていた人です。研究の終了または死亡時よりも何年も前から平均総コレステロール値が時間の経過とともに低下しています。研究期間中に死亡した人の方が、死亡しなかった人よりも研究のベースラインでも低めでした。人生の最後の12~24か月間では、コレステロールの低下は加速しました。
何も薬が変わらなくても、生活が変わらなくても、コレステロールが大幅な低下することは、人生の最終段階の特徴である可能性があり、コレステロール値の低下は死が近いことの指標となることが多いことを示唆しています。それでも多くの高齢者はスタチンを飲み続けています。コレステロールが高い方が死亡率が低いにも関わらず、何も考えず処方が継続されることも多いでしょう。
総コレステロール値が116mg/dL未満であったのは、ベースライン時にスタチンによる治療を受けていない人では、死亡するまでの人生の最後の3か月では、女性の11.3%、男性の23.3%もいたのに対し、死亡しなかった人では女性の3.6%、男性の8.0%しかいませんでした。
追跡期間の最後の3か月で、生存者と比較して死亡者が総コレステロール値が116mg/dL未満になる可能性は、スタチン治療なしでは3.33倍、スタチン治療ありでは1.88倍でした。
高齢になるとともに、自然とコレステロールは下がってくるようです。そして、コレステロールは免疫機能とも大きく関連しています。高齢者がコレステロールを下げる意味は全くありません。(若くても下げる意味はないですが)
逆に低コレステロールだと死亡率が高くなります。スタチンでコレステロールを下げれば、もしかしたら、スタチンを使わなかった場合よりも死が早まっている可能性もあります。
薬の断捨離も必要です。
「Trajectory of Total Cholesterol in the Last Years of Life Over Age 80 Years: Cohort Study of 99,758 Participants」
「80歳以上の人生の最後の数年間における総コレステロールの推移:99,758人の参加者を対象としたコホート研究」(原文はここ)
「コレステロールが高い方が死亡率が低いにも関わらず、何も考えず処方が継続されることも多いでしょう。」
→「薬の断捨離も必要です。」
健康のためにも、また経済的にも、
コレステロールに限らず、医薬品業界
の不安を煽るキーワードに
惑わされないようにしたいものです。
鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。
日本人は素直なのです。そして○○なのです。