最近はテレビでも心臓弁膜症についてのCMが流れています。弁膜症の中の大動脈弁狭窄症の原因としては、主に先天性のものと加齢性(?)のものがあります。大動脈弁が肥厚して硬くなり、動きが制限されて、進行すると石灰化し、心臓から全身に血液が送り出しにくくなってしまう病気です。失神、突然死も起こりうる病気です。
最近はカテーテルによる大動脈弁置換術の積極的に行われるようになったので、CMはその宣伝でしょう。
さて、一番大事なことは大動脈弁狭窄症にならないことです。加齢性というもののほとんどは、恐らく食事の間違いであり、ある程度抗うことは可能です。
今回の研究では、大動脈弁狭窄症と人体計測、代謝、炎症のバイオマーカーとの関連を分析しています。男性メタボリックシンドローム研究の参加者10,144人が対象で、平均10.8年にわたり大動脈弁狭窄の発症について追跡調査されました。ベースライン検査から大動脈弁狭窄発症の診断までの平均期間は6.4年でした。大動脈弁狭窄症と診断されたのは116人 (1.1%) でした。(図は原文より、表は原文より改変)
上の図は耐糖能による大動脈弁狭窄の発症者の割合です。正常耐糖能、耐糖能異常や空腹時血糖異常では1%、糖尿病では2.1%でした。
従来のリスク因子 | HR |
年齢 | 1.85 |
収縮期血圧 | 1.54 |
BMI | 1.31 |
腹囲 | 1.33 |
ウエスト/ヒップ比 | 1.38 |
身長 | 0.77 |
生体インピーダンス | |
体脂肪の割合 | 1.74 |
筋肉量の割合 | 0.80 |
除脂肪体重の割合 | 0.63 |
上の表はリスク因子による大動脈弁狭窄発症リスクです。年齢が高いのはやはりリスクが高く、1.85倍でした。収縮期血圧が高いのも1.54倍です。BMIが高いと1.31倍、腹囲が大きいと1.33倍。ウエスト/ヒップ比が大きのも1.38倍でした。
体脂肪率の増加も1.74倍で、当然ですね。年齢以外はすべて糖質過剰摂取で増加します。筋肉量や除脂肪体重が多いと負の関連ですね。
HR | |
---|---|
尿アルブミン | 1.24 |
尿中アルブミン排泄率 | 1.27 |
高感度CRP | 1.31 |
空腹時血糖値 | 1.18 |
HbA1c | 1.22 |
空腹時血漿インスリン | 1.44 |
OGTT 30分血漿インスリン | 1.43 |
OGTT 120分血漿インスリン | 1.38 |
空腹時血漿プロインスリン | 1.40 |
OGTT 30分血漿プロインスリン | 1.44 |
OGTT 120 分血漿プロインスリン | 1.39 |
血清Cペプチド | 1.47 |
松田index | 0.68 |
上の表は代謝に関連するパラメータです。尿中アルブミンが高いと1.24倍、1.27倍リスクが高くなります。炎症を表すCRPも1.31倍です。それ以降のパラメータは全て耐糖能に関するものです。HbA1cも1.22倍、空腹時のインスリンやOGTTでのインスリン、プロインスリンも1.4倍前後のリスク増加です。インスリン感受性を表す松田indexはもちろん負の関連です。
興味深いことに、大動脈弁狭窄症を発症した人のLDLコレステロール値は、発症していない人よりも低くなっていました。もちろん発症した人は発症していない人よりもスタチンを有意に多く使用しているので、LDLコレステロールが低くなったかもしれませんが、スタチンでは大動脈弁狭窄症は防げません。
インスリン抵抗性と高インスリン血症が、糖尿病、肥満、収縮期血圧などの他の心血管リスク因子とは無関係に大動脈弁狭窄症を予測することになります。つまり、インスリン抵抗性が大動脈弁狭窄症の発症における重要な因子であることが示唆されました。
大動脈弁狭窄では、胸痛や息切れ、動悸などの症状が現れるまでに何年ものタイムラグがあります。それらの自覚症状が現れた時には既に重症化していることが少なくありません。
まず必要なことは、普段から糖質制限をして、高血糖やインスリン過剰分泌を防ぐことです。
大動脈弁狭窄症も糖質過剰症候群です。
「Biomarkers reflecting insulin resistance increase the risk of aortic stenosis in a population-based study of 10,144 Finnish men」
「インスリン抵抗性を反映するバイオマーカーは、フィンランド人男性10,144人を対象とした人口ベースの研究で大動脈弁狭窄症のリスクを高めることがわかった」(原文はここ)