筋トレでインスリンを分泌するための糖質(炭水化物)は必要ない その2

以前の記事「筋トレでインスリンを分泌するための糖質(炭水化物)は必要ない その1」で筋トレ後のプロテイン摂取をするときに、インスリンを分泌させようという目的での糖質は必要でないことを書きました。今回は、そのことをさらに裏付ける研究です。

インスリンによる筋肉のタンパク質合成(MPS)や筋肉のタンパク質分解(MPB)の変化を調べた25の研究報告によるメタアナリシスがあります。(図は原文より)

上の図はインスリンの筋肉のタンパク質合成への効果で、全体としての重み付き平均の差は3.9でした。その中身を良く見てみるとアミノ酸の供給(タンパク質はアミノ酸からできているので、タンパク質を摂取するとアミノ酸が供給されます。)が十分に増加したものでは、筋肉のタンパク質合成は明らかに増加し、重み付き平均の差は13.44でした。しかし、アミノ酸の供給が減少した場合やベースラインのままの場合では筋肉のタンパク質合成は有意差なく、重み付き平均の差は1.57と2.00でした。

糖尿病のある人の場合アミノ酸の供給が維持されていても、インスリンに応答した筋肉のタンパク質合成は有意に減少し、重み付き平均の差は−6.67でした。つまり、インスリン抵抗性があったり、糖尿病であるとアミノ酸供給が維持されていても筋肉が上手く合成できないということです。

上の図はインスリンの筋肉のタンパク質分解への効果で、全体としての重み付き平均の差は−15.46でした。アミノ酸は影響しませんでした。

このメタアナリシスでは筋肉のタンパク質合成に対するインスリンの有意な効果を示しませんでした。しかし、筋肉へのアミノ酸供給が増加する場合にのみ、筋肉のタンパク質合成に対するインスリンの効果が有意になったのです。

食後のインスリン濃度の増加の範囲内では、筋肉のタンパク質合成に影響しないようです。

インスリンは、主として筋肉のタンパク質分解を低下させる効果を示しめすことにより、筋肉量を調節しています。アミノ酸の供給が減少するとさらにその筋肉のタンパク質分解低下効果は増強するようです。面白いことに、インスリンによる筋肉のタンパク質分解の低下が最大になるのは、インスリン濃度の非常に穏やかな上昇(約15µIU/mL)に応答して起こるようです。つまり、インスリンがたくさん分泌される状態、すなわち血糖値の上昇が起こると、筋肉のタンパク質分解の低下が減少してしまうのです。

前回の記事「その1」で、タンパク質のみの群の方がタンパク質+炭水化物群よりも筋肉の増加量が多かったのも頷けます。インスリンを分泌するための糖質(炭水化物)は必要ないばかりか、筋肉を増やす邪魔をしてしまうのです。

糖尿病ではアミノ酸の供給が維持されても筋肉のタンパク質合成に対するインスリンの正の効果は低下することが報告されています。インスリン治療を受けた糖尿病の人がアミノ酸の摂取量を増加させた場合、筋肉量の増加につながるかどうかは分かっていないようです。

私の推測は下のようなイメージです。

1日平均すると筋肉のタンパク質の合成量と分解量は釣り合っており、筋肉量は維持されています。タンパク質を維持量よりも多く摂取すると、合成量が増加し、分解量が減少するので、その差が筋肉の増加分になります。しかし、糖尿病などインスリン抵抗性があるとアミノ酸の供給が維持されていても、合成量は低下し、インスリンによる分解量の抑制は低下するので、筋肉の増加はわずかになってしまうと考えられます。

いずれにしても筋トレで筋肉を増加させたい場合、インスリンをたくさん出すことが重要なのではなく、タンパク質を十分に摂取することが重要なのです。そして、インスリン分泌はむしろ穏やかな上昇の方がタンパク質の分解低下効果を最大限に示し、それはタンパク質摂取のみで達成できます。逆に糖質を一緒に摂取してしまうと血糖値が上昇し、インスリンもたくさん分泌されて、タンパク質の分解低下効果が低下してしまうのです。さらに血糖値が上昇すると、AGE(終末糖化産物)が生成されます。そのAGEがくっついたタンパク質は質が悪く、また分解されにくくなります。インスリン抵抗性でインスリンがたくさん出ている状態では合成量が低下し、分解量の抑制効果が低下するということは筋肉のタンパク質の入れ替わりの回転が悪くなるともいえると思います。入れ替わり回転が落ち、残っている筋肉のタンパク質もAGEで分解されにくい質の悪いタンパク質となるので、どんどん筋肉が劣化すると思われます。以前の記事「運動は必ずしもインスリン抵抗性を低下させない」で書いたように、インスリン抵抗性は運動していても起こりえます。

また「ケトランはカーボローディングならぬTGローディング」で書いたように、糖質を大量に摂ると筋肉内の脂肪量が増加することもあります。グリコーゲンもたまり水分も一緒に蓄積しますが、余ったブドウ糖は脂肪に変換されて筋肉内に蓄積します。だから、糖質を一緒に摂取した方が筋肉が肥大しやすくなるのは確かなのかもしれません。そのことは「筋トレは1セットでも5セットでも得られる筋力は同じ」でも書きました。しかし、本物の筋肉、質の良い筋肉が増加することと、見かけ上筋肉が肥大することは別だと思います。

さらに、以前の記事「タンパク質摂取と、インスリンとグルカゴンの分泌」で書いたように、タンパク質と糖質同時摂取では、恐らくタンパク質の吸収が1時間程度阻害されていると考えられます。そうすると、プロテインに糖質が含まれている場合には、プロテイン摂取は運動後30分以内がゴールデンタイムだ!というのは非常に怪しいことになります。(ゴールデンタイムが本当に存在するかどうかは疑問ですが。)

プロテインを飲むならできる限り糖質が入っていないものを選んだ方が良いかもしれませんね。

「Role of insulin in the regulation of human skeletal muscle protein synthesis and breakdown: a systematic review and meta-analysis」

「人間の骨格筋タンパク質の合成と分解の制御におけるインスリンの役割:系統的レビューとメタアナリシス」(原文はここ

コメント

  1. 利府俊裕 より:

    「インスリン抵抗性でインスリンがたくさん出ている状態では合成量が低下し、分解量の抑制効果が低下するということは筋肉のタンパク質の入れ替わりの回転が悪くなるともいえると思います。入れ替わり回転が落ち、残っている筋肉のタンパク質もAGEで分解されにくい質の悪いタンパク質となるので、どんどん筋肉が劣化すると思われます。」

    ちょっとわかりにくかったので、質問します。

    これは、「インスリン抵抗性では、インスリンがたくさん出ているので、筋肉の合成量が低下し、筋肉が分解されやすくなる。」ということで良いでしょうか?

    だとすると、「筋肉のタンパク質の入れ替わりの回転が悪くなる」というのではなく、「筋肉の合成が減り、筋肉の総量も減り、AGE のくっついた質の悪いタンパク質の割合が増えていく」という理解で良いでしょうか?

    • Dr.Shimizu より:

      利府俊裕さん、コメントありがとうございます。

      国語力の無さを痛感します。いつもわかりにくくて申し訳ありません。
      インスリン抵抗性では筋肉の合成量が低下、分解は(インスリン抵抗性がない場合より)されやすくなると考えられ、
      筋肉が増加しにくいと考えられます。
      合成量が低下するので、筋肉の入れ替わりの回転が悪く、分解される筋肉もAGEがくっついていない質の良いタンパク質は分解されて、
      AGEのくっついた質の悪いタンパク質の割合が増えていくと考えられます。
      筋肉の総量が減っていくかどうかはわかりません。