スタチンを飲んでいるにもかかわらず、多くの人は冠動脈疾患のリスクが減少しません。実際にはスタチンの使用している人の冠動脈の状態は血糖値スパイクに大きな影響を受ける可能性があります。
今回の研究では、経皮的冠動脈形成術(PCI)を受けた人の中で、LDLコレステロール値がスタチン投与下で120mg/dL未満、または生活習慣管理を含む脂質異常症の他の治療下(スタチンなし)で100mg/dLであった20~80歳の方を対象としました。
フリースタイルリブレとは違う機種の持続的にグルコース測定できる、iPro2という機器で血糖値スパイクの状況を収集しました。そのときの食事はもちろん、 60%の炭水化物、15%〜20%のタンパク質、および20%〜25%の脂肪 という高糖質食です。
食後高血糖の指標である平均血糖変動幅(MAGE)と血管内超音波により評価し、そしてプラーク内の壊死性コアの体積百分率(%NC)および線維性被膜を有するアテロームThin-cap fibroatheroma(TCFA)の存在を評価しました。(図は原文より)
上の図は血管内超音波の画像とTCFAを表しています。
今のテクノロジーは凄いですね。超音波で冠動脈という細い血管の様子が非常に良くわかります。Aは縦方向の画像で、Bは血管の断面です。表はプラーク成分のそれぞれの割合を示しています。Cは Thin-cap fibroatheroma(TCFA)の代表例です。 動脈壁は 4 色(線維性組織:緑 色、線維脂質組織:黄緑色、壊死性コア:赤色、石灰化組織:白色)で示されます。 TCFAの定義は、上に重なる線維性成分がない壊死性コアが豊富な病変(壊死性コアである%NCが10%以上)かつ、血管内超音波の3つの連続したフレームにおけるプラーク面積が内腔の40%以上。白い矢印は、内腔境界と接触している壊死性コアを示しています。
上の図はAが全てのプラーク、Bが冠動脈疾患の責任病変のプラーク、Cは非責任病変のプラークです。左から順に壊死性コアの割合(%NC)、繊維性組織の割合、カルシウム成分の割合です。どれも同じような結果です。つまり、血糖値スパイクであるMAGEが大きいほど壊死性コアの割合は大きくなり、 線維性組織は少なくなり、カルシウム成分は多くなります。
全部で165の病変が70人の患者(40人の糖尿病と30人の非糖尿病)で評価されましたが、%NCはMAGEとよく相関していました。またMAGEがTCFA の存在の唯一の独立した予測因子でした。
上の図はAが糖尿病、Bが耐糖能異常(糖尿病予備軍)、Cは耐糖能が正常です。どれもMAGEが大きいほど%NCが大きくなります。
つまり、毎日の食後の血糖値スパイクは冠状動脈プラーク脆弱性に影響を与える可能性があるのです。ただ、このことはスタチンの使用の残存リスクだと考えられていますが、スタチンは関係あるのでしょうか?LDLコレステロールは関係あるのでしょうか?プラークの中にコレステロールがあることは確かですが、これは果たして血中のコレステロールを低下させれば減るものでしょうか?
以前の記事「LDLコレステロール値は役に立たない」で書いたように、冠動脈疾患の入院患者のLDLコレステロールは通常の日本人の分布と同じであり、LDLコレステロール値が低いからと言って冠動脈疾患が起こりにくいわけではありません。
だとすれば、「血糖値スパイクは急性冠症候群後の予後を悪くする」でも書いたように血糖値スパイクが大きく影響している可能性が高いと思われます。つまり、冠動脈の変化はコレステロールによる変化ではなく、血糖値による変化ではないでしょうか?
耐糖能が正常であっても、血糖値スパイクがあれば、壊死性プラークが増加しているのです。逆に考えれば血糖値スパイクを起こさないようにすれば、冠動脈が詰まる状況を回避できるのではないでしょうか?
糖質制限が最も重要な治療法でしょう。
「Effect of Daily Glucose Fluctuation on Coronary Plaque Vulnerability in Patients Pre-Treated With Lipid-Lowering Therapy: A Prospective Observational Study」
「脂質低下療法で治療した患者における冠動脈プラーク脆弱性に対する日々のグルコース変動の影響:前向き観察研究」(原文はここ)