選手の使い捨て 高校野球

今年の夏の高校野球は大阪桐蔭が春夏連覇で幕を閉じました。そして決勝に勝ち残った秋田の金足農高校の頑張りにマスコミをはじめ日本中の一部の人が大騒ぎになりました。

大会前や大会中の酷暑に対する批判はどこへ行ったのやら。ヒーローが誕生したことにより、そんな夏の酷暑の中の大会開催に対する議論なんて全くなかったものとしています。

金足農のピッチャーの吉田選手は地方大会から、甲子園の決勝の途中まで一人で投げました。その姿に感動を覚える人もいるようです。日本人はわざと無理をさせてまで感動が欲しい国民なのでしょうか?一人の若者の将来何てどうでもいいから、その場で感動さえさせてくれれば満足なんでしょうか?24時間テレビのマラソンも、同じように普段運動していない芸能人を無理やり24時間走らせて「感動」の押し売りをします。(「24時間テレビのマラソンの意味は?」参照)

高校野球のこうした一人のピッチャーに無理をさせて、無理矢理の感動を起こさせるのは、「感動ポルノ」のひとつなのかもしれません。

頑張ることが悪いと言っているわけではありません。しかし、将来のある若者に大きなケガのリスクを負わせておいて、それを「感動をありがとう!」と言っています。

金足農の吉田選手はこの短い大会の間に800球以上を投げました。地方の大会から数えればもっと球数は膨れ上がります。かなりの速球も投げています。

もちろん、球数制限をしているアメリカのピッチャーでも肩や肘の故障を起こします。しかし、大谷選手をはじめ、ダルビッシュ選手、田中選手といった高校野球で活躍し、かなり速い球を投げ、メジャーに行った選手がことごとく肘を故障するというのを見ると、やはりもっと高校時代までの制限が必要なのでは?と感じてしまいます。(「大谷翔平選手が肘を故障! 少年野球、高校野球から改革すべき?それともピッチャーは使い捨て?」参照)

日本では単一のスポーツを毎日のように行っているのも問題かもしれません。単一のスポーツを年間8カ月以上、週に16時間以上するとケガのリスクが高くなるというデータもあります。

若い野球少年たちを調べた研究によると、手術を受けたピッチャーは、対照群の5.5ヶ月と比較して、1年に平均8ヶ月の競技で行うような投球(つまり緩いピッチングではない)を行っていました。1年間に8か月以上、そのような強い投球を行っている場合には、そうでない場合に比べて約5倍ものケガのリスクがあります。現在の研究からのデータではピッチャーは3か月以上の投球の休息が必要とされています。

ケガをしたピッチャーが試合で平均して6インニングを投げたのに対して、対照群では4イニングでした。球数はケガの群では88球であり、対照群では66球でした。1試合あたり80球以上を投げた投手は、1試合当たり80球までしか投げない投手と比較して、手術を必要とするケガのリスクが4倍近くに増加しているというデータもあります。

守られているかどうかは別として、 現在のアメリカの野球の推奨は、14歳の投手に対する1試合当たりの球数は75球未満で、年間3000球未満です。

また、速球を投げるピッチャーほどケガのリスクが高いようです。ケガをしたピッチャーのスピードは88mph(約141km/h)であり、対照群では約83mph(約133km/h)であったそうです。85mph(約136km/h)以上のスピードのボールを投げるピッチャーは、手術を必要とするケガのリスクが約2.6倍に増加します。

さらに、腕の疲労があるにもかかわらずピッチングをすることが主要な危険因子だということも判明しています。ケガの群の52%は腕の疲労にも関わらず定期的に投球をしていました。(対照群では11%)腕の疲労が全くない人と比較すると、まれに疲労を感じる人で約4倍、いつも疲労を感じている人では36倍ものケガのリスクがあります。しかし、選手はポジション争いがあるので、決して疲労や痛みを訴えないでしょう。特に日本では未だに「根性」が重要視されるので、疲れたと言ったならばレギュラーをはずされてしまうかもしれません。だからこそ強制的な制限が必要なのです。

プロになった選手は、どのようにしようがその選手やチームの考えです。それでお金をもらって生活しているのですし、中には何億という大金を手に入れているのですから。しかし、高校生は所詮、ほとんどがプロの選手になれませんし、プロを目指すならなおさら将来があります。そのような野球少年に無理をさせて喜んでいるのは無責任な大人であり、マスコミです。

しかし、野球はたった一人ピッチャーというポジションの人だけに非常に重い負担がかかった、特殊な競技です。だからこそ、ルールが必要です。

スポーツをしたい人は中学生までは1年を通して2つ以上の異なったスポーツに参加させる。同じスポーツは8か月以上続けない。野球だけで言えば、以前も書いたように中学生まではピッチャーというポジションを廃止し、全員で順番に投げる。高校野球では少なくとも冬の期間4か月は完全にピッチングを休止しることを義務づける。(夏は酷暑なので夏に休止の方が良いかもしれませんね)球数制限は80球、5イニングまで。135km/h以上のスピードを計測する場合は球数60球、4イニングまで。1試合投げたら中4日休む。練習試合を含めて、1年間や1か月間の試合数の制限を設ける。練習も週休2日。高校野球の全国放送を止めたり、選手たちに取材やインタビューをすることを禁止し、無駄に注目度を上げることを止める。など、いかがでしょうか?

日本高校野球連盟に任せていたら、何もしないでしょう。スポーツ庁主導で抜本的な解決をしなければなりません。

監督やコーチ、マスコミ、高野連、無責任な応援者などの大人は、選手の健康がどうなろうが関係ありません。ある選手がケガをしても、つぶれても、また別の選手が出てきます。次の年はまた新たな選手が出てきます。そのときさえ活躍し、盛り上がればそれで良いのです。選手の健康やその選手の選手生命は全く気にしていません。もちろん、やっている選手たちは一生懸命ですから、気持ちとしてはケガしてでも頑張りたいと思うのも無理はありません。しかし、それを制御するのが大人の仕事だと思います。彼ら選手がプロであれば、何も言いません。しかし、所詮学校の部活です。学校の教育の中でやっていることです。スターやヒーローを誕生させる必要はありませんし、ピッチャー1人をヒーローにするようなことは逆に教育としては疑問です。

高校や中学の部活中に熱中症で死亡する生徒の4人に1人は野球部だそうです。それほどまでに少年たちを危険にさらして、ケガのリスクを負わせて、感動できる人はどんな人でしょうか?

「Risk factors for shoulder and elbow injuries in adolescent baseball pitchers」

「青少年の野球投手の肩及び肘の負傷の危険因子」(原文はここ

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