いまだにLDLコレステロール値は低い方が良いと思い込んでいる人がいます。そして、医師もLDLコレステロールが低いことには何も指摘しません。しかし、私は低LDLコレステロールが健康的だとは思いません。コレステロールは人間にとって重要なものですし、LDLが全て悪さをしているとも考えていません。LDLコレステロールが高い方が死亡率が低いというエビデンスが存在しています。(「コレステロールを恐れ過ぎてはいけない LDLコレステロール値が低いほど死亡率が上がる!」「非常に低いLDLコレステロールは死亡率や心疾患リスク低下に関連していない」など参照)
さらに、LDLは免疫の一部です。低LDLコレステロールが低いと感染やがんのリスクが上がります。(「LDLコレステロール値が低いと、驚くほど発熱、敗血症および悪性腫瘍の発生リスクが高くなるかもしれない」参照)
LDLコレステロール値を低下させるスタチンやナイアシンでは糖尿病発症リスクの増加が指摘されています。(「スタチンの使用は、はっきりとした糖尿病発症のリスク増加がある!」参照)
では、スタチンやナイアシンを使っていない状態で、LDLコレステロール値が低い人では糖尿病発症リスクは高くなるのでしょうか?
今回の研究では、60mg/dl以下の非常に低いLDLコレステロール値の8,943人と正常のLDLコレステロール値(90~130mg/dl)の人71,343人で2型糖尿病のリスクを比較しました。スタチンで治療されている人は除外されています。(図は原文より)
上の図は、低LDLコレステロールと2型糖尿病の関連を示しています。様々な調整をした場合で、通常のLDLグループと比較して低LDLグループでは2倍以上も2型糖尿病になる可能性が高くなりました。この関係は男性の方が強く2.43倍(女性は1.74倍)でした。
さらに、体重による違いを見てみると、通常の体重で2.18倍、過体重で2.17倍、肥満で2.00倍と、体重による差がありませんでした。非常に低いLDLの中でもかなり低い40mg/dl未満で 2.31倍、40~60mg/dlでは1.99倍でした。
つまり、いずれにしてもLDLコレステロール値が非常に低いことは体にとって良いとは言えません。糖尿病は血糖値を上げ、インスリン抵抗性を高くし、酸化ストレスを増加させるからです。
LDLはインスリン様作用があるとも考えられています。(「リポタンパク質のLDLにはインスリン様作用があるかもしれない」参照)
また、すい臓のβ細胞のコレステロール値は、インスリン分泌の調節に重要な役割を果たしていると考えられます。膵島細胞におけるコレステロール生合成を阻害した実験は、結果として生じる低レベルの細胞コレステロールがインスリン分泌障害と関連していることを示し、これらの効果はコレステロールの補充によって逆転しました。
糖質摂取はLDLコレステロール値を低下させることがあります。だから逆に糖質制限ではLDLコレステロール値が増加する人もかなりいます。このことが起きる人と起きない人の違いはよくわかりません。
低LDLコレステロールは要注意です。
「Relationship between very low low-density lipoprotein cholesterol concentrations not due to statin therapy and risk of type 2 diabetes: A US-based cross-sectional observational study using electronic health records」
「スタチン療法によるものではない非常に低いLDLコレステロール値と2型糖尿病のリスクとの関係:電子健康記録を使用した米国ベースの横断的観察研究」(原文はここ)
ノーベル賞の山中伸弥教授がスタチンを「コレステロールを下げる画期的な薬」と紹介していたことがあって、いまだに気になってます。
ノーベル賞受賞といえど、万能では勿論ないのでしょうね。
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
ノーベル賞を受賞したからと言って、全ての分野に精通しているとは思えません。
新型コロナウイルスに対する発言などを見ても、この方の専門外の意見は一般の医師と大差はないと思います。