エリートアスリートは血糖値の変動が大きいかもしれない

前回の記事「極端な運動はミトコンドリアの機能障害につながる可能性がある」では、極端な運動が耐糖能障害やミトコンドリアの機能障害につながる可能性があるのでは、ということを書きました。

一般的には、アスリートはインスリンの感受性が高いと考えられています。代表チームレベルの世界レベルのエリート持久力アスリートとレクリエーション活動はするが競技のアスリートではない人と、フリースタイルリブレを使って、血糖値(グルコース値)の変動を比較しました。(図は原文より)

対象となるのはアスリートもコントロールもほぼ20代の人です。アスリートもコントロールの人も通常のトレーニングと食事を維持している自由生活条件で、24時間のグルコース値を測定しました。ただ、フリースタイルリブレの値なので、ちょっと大きな変動時に過剰な変動を示していることは否めません。

上の図はAが1日のうちで高血糖を示す時間、Bが1日のうちで正常範囲のグルコース値を示す時間、Cは低血糖の時間です。Dは実際のグルコース値の推移で、赤がアスリート、黒がコントロールです。Dのグラフの真ん中の5.5の点線は、日本の値で考えればおよそ100のグルコース値です。

そうすると、1日のうちで、エリートアスリートの方が、高血糖や低血糖になっている時間が多いのがわかります。高血糖の範囲(144mg/dLより高い)の時間はエリートアスリートでは24時間あたり41分、コントロールでは22分でした。低血糖の範囲(72mg/dL未満)の時間はアスリートで115分、コントロールで34分でした。日中はコントロールと比較してグルコース値は高めで推移し、夜間寝ているときには低めで推移しています。

つまり、エリートアスリートはやはり耐糖能が低下している可能性があるのです。

私はフルマラソンの後に非常にインスリン抵抗性が高くなったと思われるデータを以前に示しました。(「フリースタイルリブレを使った人体実験その4 スポーツドリンクは危険なドリンクか?」参照)フルマラソンのゴール直後にポカリスエット500mlを飲んだところ、グルコース値はピークで198となり、ベースラインまで戻るのに5時間を要しました。恐らくこれは「ポストマラソンパラドックス」と言われるインスリン抵抗性の増加によるものだと思います。

非常に負荷の高い、過剰な運動をすると、グリコーゲンが減少しているにも関わらず、その後インスリン抵抗性がしばらく高くなる現象が起きると考えられています。

エリートアスリートは高負荷のトレーニングや頻繁の試合により、日々インスリン抵抗性が高まっている可能性があります。

また、運動は活性酸素の産生を増加させます。活性酸素の主要なターゲットが細胞膜の多価不飽和脂肪酸だと言われています。運動によって増加した活性酸素は細胞膜の多価不飽和脂肪酸を減少させてしまうようです。細胞膜の多価不飽和脂肪酸の減少はインスリン抵抗性と強くリンクしています。(ここ参照)

過剰な運動は一時的にもこのようなインスリン抵抗性を招く可能性があります。毎日過酷なトレーニングは、適応できればこのインスリン抵抗性は少なくなるかもしれませんが、適応できなければインスリン抵抗性が高いままでしょう。

また、極端な運動をしていなくても、運動が必ずしもインスリン感受性を高めるかどうかは疑問です。以前の「運動は必ずしもインスリン抵抗性を低下させない」でも書いたように、空腹時血糖は10人中3人のアスリートで、アメリカ糖尿病協会(ADA)の定義の前糖尿病状態の範囲にあったのです。食事が間違っていればアスリートと言えどインスリン抵抗性が高くなってしまう可能性があるのです。

糖質制限ではケトン体質になり、活性酸素の産生、炎症が減少すると思われますし、運動後にも糖質を摂取しないので、高血糖にはなりません。それにより様々な組織のダメージは最小限で済む可能性があります。

エリートアスリートは健康度外視で、結果を求めることは仕方がないでしょう。しかし、現役の間にも体は蝕まれる可能性があります。力士がその見本でしょう。(「相撲は世界一不健康なスポーツかもしれない」「不健康なアスリート」など参照)せめて、エリートを目指さない選手には無理な糖質過剰摂取を勧めないでほしいですね。(「食いトレはすぐに廃止を!」「「食いトレ」という名の虐待、パワハラ」参照)

 

「Excessive exercise training causes mitochondrial functional impairment and decreases glucose tolerance in healthy volunteers」

「過度の運動トレーニングは、ミトコンドリアの機能障害を引き起こし、健康なボランティアの耐糖能を低下させる」(原文はここ

「Postmarathon paradox: insulin resistance in the face of glycogen depletion」

「マラソン後パラドックス:グリコーゲン枯渇に直面したインスリン抵抗性」(原文はここ

7 thoughts on “エリートアスリートは血糖値の変動が大きいかもしれない

  1. ということは、糖尿病治療で専門医や栄養士が推奨している(糖質制限ではない)カロリー制限・運動療法は高血糖になるわ、インスリン抵抗性も上げてしまう可能性もあるわでいっそう危険、合併症製造療法、なのかもしれませんね。
    (更に、取り敢えず血糖値の数値を下げる薬剤処方も)。

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      運動療法程度ではインスリン抵抗性が上がることはないと思います。逆に適度な運動はインスリン感受性が上がると思います。

  2. 私は何度かトレーニング後に、糖質を摂取して血糖値の変動を調べた事がありますが、運動後数時間の間の糖質摂取では、血糖値は上がりませんでした。glud4が出てきて血糖を細胞内に取り込み上がらないではないからだと思っていました。もちろん私はエリートスポーツ選手ではありませんが。ですから激しいトレーニング後にたまに糖質摂取をしてしまったりしてるんですが…。

    1. かみさん、コメントありがとうございます。

      激しい運動というのは程度問題ですし、個人差も大きいでしょう。
      ただ血糖値があまり上がらなくても、インスリンがたっぷり出ていればあまりいいことではないと思います。

  3. エリートアスリート中のエリートアスリート、池江璃花子さん。
    復活の兆候、大変な努力と勿論才能も突出されていふのでしよう。
    (自身の才能に確信が持てることで、厳しい訓練も前向きに取り組めたのではないでしょうか)。

    大きなお世話、釈迦に説法でしょうが、是非食生活も更に研究して欲しいです。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      エリートアスリートは健康よりも結果ですから、これまでうまくいっていた調整での食事は変更しないでしょう。

  4. 清水先生返信ありがとうございます。
    運動後糖質摂取しても即座にG lud4が出てきて糖質を取り込むと思っていました。もしかして一時的に血糖値スパイクがあり、それに反応して追加インスリンが放出された後、細胞に取り込まれ、結果として血糖値が上がらない(ように見える)ということでしょうか?

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