糖尿病になると栄養指導でカロリー制限(エネルギー制限)と運動の増加を指示されるでしょう。しかし、糖尿病に使用している薬によっては体重が増加していまうこともあります。体重増加は、摂取エネルギーよりも消費エネルギーの方が少なくなると起こると考えられてきました。本当でしょうか?
今回の研究ではインスリン治療された2型糖尿病の患者の2年間の体重の増加の程度を分析しています。対象はインスリン療法を開始し、少なくとも6か月間継続した、2型糖尿病の人155,917人です。インスリン開始時の平均年齢は59歳で平均HbA1cは9.5、BMIは平均35でした。(図は原文より)
上の図はAがBMI別の2年間の体重の推移です。BはBMI別のHbA1cの推移です。Cは2年間のBMI別の体重変化量です。DはHbA1c1%減少当たりの体重の変化です。そうすると、BMIが増加するほど体重増加が低下しているのがわかります。正常のBMIの人は4kg程度増加し、過体重の人では2kg弱増加しています。BMIが35以上ではほとんど体重の変化がなく、BMI40以上では逆に体重が減少しています。
HbA1cの1%減少当たりでもBMIが低いグループは体重増加が大きくなっています。
はたして体重が増加した人たちは、それまでよりも食事、摂取エネルギーが増えたのでしょうか?運動、消費エネルギーが少なくなったのでしょうか?BMI40以上の人は運動、消費エネルギーを増やせたのでしょうか?食事、摂取エネルギーを正常体重の人よりも減らせたのでしょうか?もちろん、詳細はわかりません。
BMIが異常に高いグループではすでにインスリン抵抗性が限界となっていて、それ以上のインスリンによる脂肪蓄積はできないほどの状況なのでしょう。しかし、BMIが低ければまだまだ脂肪蓄積の余裕があり、インスリン治療で体重が増加したと考えられます。
体重増加は単なるインスリンの作用で起きたものであり、BMIが低い人ほど怠けたとは思えません。
しかし、糖尿病治療で、体重が低下しない場合、医師や栄養士は「もっとカロリー制限をちゃんとして、運動を増やしなさい!」とまるで患者さんの方に非があるかのように言うこともあるでしょう。
現在ではあまり使われなくなってきたSU製剤(スルホニル尿素薬)はインスリン分泌を促進する薬ですが、ネットの情報には次のように書かれています。
まずはアマリールを出している、サノフィのページには次のように書かれています。
SU薬を使う際には、食事療法・運動療法がきちんとできていることが特に重要となります。
食事療法・運動療法がきちんとできていなくても、SU薬の使い始めは血糖コントロールが改善します。しかし、長期になると過食や運動療法の不徹底から肥満が進んでしまい、その結果として血糖コントロールは再び不良となり、さらなる薬の増量や追加といった悪循環に陥ることがあります。
患者さん側はしっかりやっているつもりでも、肥満は過食や運動の不徹底であるというような書き方です。ただ、その下には、
SU薬によるインスリンの過剰な分泌によっても体重が増加しやすくなります。
こちらが正解です。インスリン分泌の増加で体重が増加するのです。
糖尿病ネットワークには次のようなQ&Aがあります。
Q.134 なぜSU薬を飲むと体重が増えることがあるのですか?
インスリンの自己分泌が増えることから、それまでは使われずに血液中にあふれていたブドウ糖(血糖)が細胞内に取り込まれるようになったり、空腹感が強くなって食べすぎてしまうこともあるため、体重が増えやすくなります。
太るとインスリンの効きが悪くなって、薬の効果が相殺されてしまいますし、動脈硬化性の合併症(心臓病や脳卒中など)の心配も増えます。薬を服用し始めても、食事療法や運動療法はしっかり続けるようにしましょう。
ここでも患者さん側のせいにする記述があります。
インスリン注射やSU製剤の副作用には体重増加があります。インスリンの作用によるものです。体重増加はエネルギー摂取量が増加したからでも、運動などをしないために消費エネルギーが減少したからでもありません。また、これらの薬を使うと基礎代謝が低下することもないでしょう。そもそも基礎代謝は一定ではなく様々な状況、食べるものの成分や質によっても大きく変化すると思われます。栄養の吸収も一定ではないでしょう。一方、カロリー制限食を続ければ基礎代謝が低下し、そのまま何年も低下したままである可能性が高くなります。(「集中的なカロリー制限と運動による無理やりな減量のその後」「カロリー制限と基礎代謝量」など参照)
エネルギー(カロリー)で体重の増減を評価することは無理があります。肥満は糖質過剰症候群です。分泌されるインスリンを減少させれば、体重は減少していきます。糖質や薬でインスリンを増やせば体重は増加します。体重減少の基本は糖質制限です。
「Weight gain in insulin-treated patients by body mass index category at treatment initiation: new evidence from real-world data in patients with type 2 diabetes」
「治療開始時のBMIカテゴリー別のインスリン治療患者の体重増加:2型糖尿病患者の実世界データからの新しい証拠」(原文はここ)
糖尿病標準治療は、患者の利益というより糖尿病薬の処方最優先の治療に見えます。
玉石混交ではありますが、最近youtubeお勉強系の動画に嵌ってます。
(下手な本購入より時短、安上がりです。)
鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。
糖尿病治療に限らず、様々な標準治療はエビデンスが必要で、その研究にはスポンサーがいる場合が多いので、
どのような治療法になるかは想像できます。