肥満は筋肉のインスリン抵抗性がなくてもインスリン分泌の増加と関連している

インスリン分泌増加は肥満をもたらします。以前の記事「インスリン増加が先か肥満が先か?」でも書いたように、肥満になったからインスリン抵抗性が増加してインスリン分泌が増えたわけではなく、インスリン分泌が先です。

今回の研究では、最初は16人の男性と女性(8人の痩せた人[3人の男性、5人の女性。28–56歳]と8人の肥満の人[3人の男性、5人の女性。30–58歳])を対象としています。BMI18.5以上25.0未満を痩せたグループ、BMI30.0以上45.0未満を肥満グループとしています。どちらも糖尿病または他の慢性疾患が無く、通常の空腹時血糖値は100mg/dL未満で、耐糖能は75gグルコース摂取後2時間の血糖値が140mg/dL未満と正常でした。インスリン感受性(インスリン刺激による筋肉のブドウ糖の取り込みで評価)にも差がありません。(図は原文より)

 

上の図はインスリン分泌や血糖値などを示しています。

Aは基礎インスリン分泌率(無脂肪体重と体表面積あたり)、Bは基礎インスリン濃度です。どちらも肥満の方が50%程度高くなっています。CとEはブドウ糖摂取後の血糖値の推移と曲線下面積を示しています。有意差はありませんが、痩せた方が高い傾向にあります。ではインスリン分泌はどうでしょうか?DとFはブドウ糖摂取後のインスリン分泌率の推移と曲線下面積を示しています。肥満の方がインスリン分泌は高くなりました。同様にGとIに示すように、ブドウ糖摂取後のインスリン濃度も肥満の方が高くなっています。体のサイズの違いを考えたら、肥満の方が無脂肪体重と体表面積あたりのブドウ糖量は少ないはずですが。

Hは血糖値に対するインスリン分泌率の比を示しています。これも肥満の方が高くなっています。Jはインスリンクリアランス率ですが差はありませんでした。

次のデータは対象が、肥満(BMI≥30.0)の6人の女性(46±5歳)です。この女性たちはカロリー制限食により少なくとも15%の体重減少を達成し、それにもかかわらず全身のインスリン感受性を改善しなかった人です。

上の図はカロリー制限食前とカロリー制限で体重が減少した後の違いを示しています。基礎インスリン分泌率および濃度は、体重減少前よりも後の方が約35%低くなりました。一方、空腹時の血糖値は減量の影響を受けませんでした。ブドウ糖摂取後の最初の30分間は、減量前後で血糖値に差はありませんでしたが、ブドウ糖摂取後の総曲線下面積は、減量前よりも大きくなりました。おそらく同じ総量のブドウ糖を摂取しても、体重が減少したために体のサイズに比べてより多くのブドウ糖を摂取したことになるからかもしれません。対照的に、ブドウ糖摂取の最初の30分間のインスリン分泌と濃度は、体重減少前よりも約30%低くなっていましたが、ブドウ糖摂取後の総インスリン分泌と濃度曲線下面積は、体重減少の前後で差がありませんでした。

これらの結果は、肥満の人のインスリン分泌の増加は、インスリン抵抗性を代償するためにインスリンを増加させるという単純なメカニズムではない可能性を示唆しています。インスリン抵抗性がない場合でも、肥満の人ではβ細胞のインスリン分泌が増加することを示しています。

肥満の人ではインスリン抵抗性がない場合でも、空腹時およびブドウ糖摂取後にインスリン分泌が増加し、さらに、体重減少は、インスリン感受性の変化を示さない人でさえ、インスリン分泌を減少させるようです。このメカニズムはよくわかりません。

通常の臨床ではインスリン抵抗性はHOMA-IRを見ています。これは主に肝臓のインスリン抵抗性を表しています。今回の研究でも空腹時血糖値は違いがなく、空腹時インスリン値が肥満の方が高いので、HOMA-IRは肥満の方が高いのですが、筋肉のインスリン抵抗性は違いがありません。筋肉の取り込みが問題なければ血糖値の変動はないようですが、逆に考えれば、筋肉のインスリン抵抗性が出てくるまでは糖質摂取による血糖値の異常な変動は認められないかもしれませんが、インスリン分泌量の増加はあるようです。

血糖値の変動だけを見ていると、インスリン分泌の増加を見落としてしまっている可能性があります。血糖値の変動が少ない=インスリン分泌量の増加が少ない、というわけではないということです。体重を減少させるだけでインスリン分泌量の減少も得られることから、肥満はインスリン分泌増加に直結していると思われます。もちろん、通常の人は筋肉のインスリン抵抗性は評価しないので、やはりインスリン抵抗性はHOMA-IRを基準に考えた方が良さそうです。

糖質制限で肥満を改善しましょう。

 

「Obesity Is Associated With Increased Basal and Postprandial β-Cell Insulin Secretion Even in the Absence of Insulin Resistance」

「肥満はインスリン抵抗性がなくても基礎および食後のβ細胞インスリン分泌の増加と関連している」(原文はここ

2 thoughts on “肥満は筋肉のインスリン抵抗性がなくてもインスリン分泌の増加と関連している

  1. 糖質は毒だったんだ・・・でもこんなこと言うと頭がおかしい人と思われるので言いませんが・・・。
    インスリンと内臓脂肪の悪循環を断つには糖質制限しかないんですね。
    タンパク質の重要性を鑑みれば糖質を避けるのが、もっとも健康的な肥満対策だと信じてずっと糖質制限を続けてます。

    新型コロナの自宅療養者へ配る食料がカップ麺、おかゆ、野菜ジュースなど糖質ばっかりで呆れてしまいますね。下手したら食べない方がいいんじゃないかなって思ってしまいます。
    脂肪になった分は、血糖値が下がった時、つまりエネルギー不足になったときに放出されるように出来ているし、人間は糖新生で血糖値を上げることができるんだから

    1. 匿名希望さん、コメントありがとうございます。

      特に果糖が内臓脂肪を増やします。
      自宅療養者に向けて一部の医師が自ら、糖質たっぷりの食事、ポカリスエットなどを配っています。
      本人は良いことをやっているつもりでしょうが、血糖値を上げることが感染者にどのような影響があるのか、
      ちょっと考えてほしいですね。

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