少量の肝臓の脂肪でもインスリン抵抗性と心血管疾患のリスク増加につながる

非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は日本でも増加しています。しかし、多くの人、しかも多くの医師もあまり気にしていないように見えます。明らかな脂肪肝でない限り、ほとんど指摘を受けていません。現在、肝臓の肝細胞の5%以上の細胞の中に脂肪が溜まっている状態を脂肪肝というとされています。脂肪肝を判別する最も簡便な方法は、腹部超音波検査(腹部エコー検査)です。エコーでは正常の肝臓と比べて脂肪肝では肝臓は白く輝いて見えます。また、腎臓と比較しても白く見えます。もっと少ない脂肪だとエコーでは判別は難しいでしょう。

しかし、肝細胞の5%以上の細胞の中に脂肪が溜まっているかどうかで脂肪肝を判別して本当に良いのでしょうか?

今回の研究では肝臓の中性脂肪が5%(この研究では欧米の基準である5.56%)よりもはるかに少ない、1.85%を超えるかどうかで様々なパラメータの違いを分析しています。肝臓脂肪含有量が1.85〜5.56%のグループと1.85%未満のグループを比較しています。対象はアジア系インド人、または非アジア系インド人です。脂肪含有量の1.85%という数値は、対象となった非アジア系インド人BMI25未満の全ての人1,506人の95パーセンタイル(低い方から数えて95%の人がその範囲に入る数値)が1.85%だったからです。肝臓脂肪含有量はエコーではわからないので、磁気共鳴分光法(MRS)という検査で測定しています。(図は原文より)

上の図は肝臓脂肪含有量が1.85%未満と1.85〜5.56%のグループとの様々なパラメータです。1.85%の群と比較して1.85〜5.56%群では、BMIが高く、中性脂肪値が高く、総コレステロールおよびLDLコレステロールが高く、HDLコレステロールが低く、尿酸値が高く、空腹時インスリン値が高く、インスリン抵抗性を示すHOMA-IRが高く、インスリン感受性を示すISIが低く、体脂肪率が高くなっていました。

つまり、1.85%を超える肝臓脂肪含有量がインスリン抵抗性と心血管疾患のリスクに関連していることを示しています。ちなみに今回の研究で痩せた人の肝臓脂肪含有量の中央値は0.35%でした。つまり、肝臓に脂肪が1%程度の少しでも蓄積していることがすでに異常なのかもしれません。

エコー検査では恐らくわからない程度の脂肪肝でさえ、すでにインスリン抵抗性が増加して、様々なリスク因子が増加してしまっています。もちろん、全ての人にこの研究のような検査が行われることはないので、ある程度血液検査で予測しなければなりません。

以前の記事「ALT(GPT)の上限値は現在の基準値よりももっと低くすべき」「肝機能検査のALT(GPT)がちょっと上がっていてもご注意を」で書いたように、私はALT20以下をお勧めします。

ALTが20を上回るようなら、すでに肝臓に脂肪が蓄積している可能性が高くなっていると考えます。

脂肪肝も糖質過剰症候群です。脂肪肝の予防には糖質制限です。

 

「Ethnic and sex differences in hepatic lipid content and related cardiometabolic parameters in lean individuals」

「痩せた人における肝脂肪含有量および関連する心臓代謝パラメーターの民族および性差」(原文はここ

2 thoughts on “少量の肝臓の脂肪でもインスリン抵抗性と心血管疾患のリスク増加につながる

  1. ばじめまして。最近毎日のようにブログを拝読しています。

    糖質制限を始めて11か月経過し、肝機能の軽度高値(ALT39)となりました。
    体感的には「ほっておこうか」と思いましたが、この記事を読みました。それで、対策してみることにしまして、
    結果が分かりましたので報告を。

    結論としては、3か月ほどエネルギー・サプリ(朝30g飲むなどオリーブ油の増量55g/day)をとって検診してみたところ、
    肝機能は改善するも(ALT17)、中性脂肪が上がりTG/HDL-C比が0.42から1.20へ。
    本来ならサプリの量を調整すべきかと思いますが、努力が報われる気がしないので、
    糖質制限の際は軽度高値の体質とみてやはりほっておこうかと・・・

     細かい数値は、以下のとおり:
    ALT, AST, γGT, BMI, 空腹時血糖, HbA1c, TG, HDL, LDL, TG/HDL
    2022.07月 17, 27, 20, 17.0, 93, 5.1%, 95, 79, 115, 1.20
    (糖質制限24か月。ここ18か月は酒量ほぼ一定)
    2021.06月 39, 48, 35, 16.6, 106, 5.0%, 44, 105, 122, 0.42
    (糖質制限11か月。PFC=17:57:26, C=92g/dayくらい)
    2020.10月 18, 26, 20, 18.2, 91, 5.2%, 49, 92, 103, 0.53
    (糖質制限3か月)
    2019.10月 11, 19, 21, 18.5, 107, 5.4%, 50, 77, 135, 0.65
    (糖質制限以前)

     肝機能の軽度高値の原因については、当初このあたりと想定:
    (1)想定内の肝機能活性化で気にしなくていい説(江部氏の言うところの、エネルギー摂取不足でやせ過ぎの際、
      空腹時に肝細胞が消化される説が根拠)
    (2)糖質まだ多すぎる説(量が中途半端で代謝が上手くいかず脂肪肝?。やせ過ぎでない場合、
      このパターンの江部氏の助言もあったはず)
    (3)酒に弱くなった説(体重1割ほど落ちたので、酒毒過多の脂肪肝?)

     現在のところ、食べる量がカツカツ(エネルギー摂取不足気味。糖質制限だと食べる量が自然と減ってくるような)で
    脂肪にも筋肉にも余りがない(やせ過ぎ)場合(野生動物ならよくいそうな状態かな)において、
    遺伝子が想定している食性(ヒトは高たんぱく食かな)なら、
    再生能力の高い大きな臓器(肝臓。ヒトだけでなく哺乳類一般でいえるらしいから、酒とは無関係で、恒温性と関係していそうかな)を
    空腹時のエネルギー源とする(アミノ酸からの糖新生の亢進かな)のは、理にかなっているのではないと考えています。

    1. vinceroさん、コメントありがとうございます。

      まずは、肝機能に関して単にアルコールが多いのかもしれません。AST>ALTですし。
      お酒の量は一定でも、体は変化しますから多少の変動はあるでしょう。
      中性脂肪は、よくわからないエネルギー・サプリが悪さをしている可能性はあります。
      また、中性脂肪値には、前日のアルコール摂取や絶食時間が影響する可能性があります。
      以前の記事「糖質制限をしても中性脂肪値が低下しない原因の一つはアルコールである」を参照してみてください。
      検査の前日はお酒をやめて、絶食時間を14時間以上にするように早めの夕食にすると良いと思います。

      エネルギー摂取不足でやせ過ぎの際、空腹時に肝細胞が消化されるというのは、よほどタンパク質が少なければ起きるのかもしれませんが、
      どれくらい摂取しているのかわかりませんので、何とも言えません。
      いずれにしてもちょっと痩せすぎなのは確かです。

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