研究には様々なものがあり、あることを肯定するものもあれば、同時に否定するものも存在します。薬であれば効果があるという研究もあれば、効果なしというものもあるのですが、ほとんどは製薬会社が資金提供をしているので、結果は自ずと薬肯定的は論文になります。企業にとって都合が悪い研究は世に出ないでしょう。このような研究をたくさん集めてメタアナリシスをしても、正しい答えは得られないでしょう。

食事に関する研究も同様で、何かを食べると病気になるという結果のものもあれば、関連なしというものもあり、混乱するでしょう。食事に関連する研究では、長期介入が困難なので、どうしても観察研究が主になってしまいます。そして、何をどれだけ食べたかは非常に質の低い食事アンケートに頼らざるを得ません。だから、食事に関する研究は信頼度が低くなります。

でも、世の中で論文を出したい研究者は、様々に手を変え品を変え、何とか不健康な食材を探し出したいようです。その不健康な食材の代表は赤肉であり、飽和脂肪酸であり、コレステロールであり、そして今回の「塩」です。

ある方から、今回の研究について見解を記事にしてほしいとの依頼があり、取り上げました。私にはピンとこない研究ですが、見ていきましょう。今回の研究は食事のときに、食品に塩を加える頻度(調理に使用される塩は含まない)と早期死亡率(75歳未満で発生した死亡)と平均余命の関連を分析しています。

まずは、だいたい食事のときに料理に塩を加えますか?調理に使用される塩ではなく、皿に乗った料理に再度、塩を振ります?私は焼肉を主に塩で食べるので、焼肉のときは確かに塩たっぷりですが、通常の調理された料理にはまず、塩を振りません。今回の研究はイギリスのものなので、日本とイギリスの食習慣の違いがあるので、よくわかりません。

まあ、それはそれでいいでしょう。食品に塩を振る頻度を、「あなたは食べ物に塩を加えますか? (調理に使用する塩は含めないでください)」と質問し、決して/まれに、時々、たいてい、常に、とに分けて答えてもらいました。めちゃくちゃアバウトな質問です。

イギリスのバイオバンクからの合計501379人が対象です。食品に塩を加える頻度によって参加者の特徴を示すと、食品に塩を加える頻度が低い参加者と比較して、頻度が高い参加者は男性である可能性が高く、より高いBMIと貧困の指数を持ち、健康的なライフスタイル(適度な飲酒、現在喫煙していない、定期的な身体活動)をする可能性が低くなり、糖尿病と心血管疾患の有病率は高くなりました。逆に高血圧と慢性腎臓病の有病率は低くなりました。食事要因については、食品に塩を加える頻度が高いほど、赤肉や加工肉の摂取量は多くなりますが、野菜、果物、魚の摂取量は少なくなりました。(図は原文より)

 

上の図はAが食品に塩を添加する頻度によってスポット尿(随時尿)中ナトリウム(赤)、スポット尿中カリウムの濃度(青)、Bが推定24時間のナトリウム排泄量です。食品に塩を加える頻度が高いほどスポット尿中ナトリウムが高く、スポット尿中カリウムが低くなっています。そして24時間のナトリウム排泄量も同様です。しかし、24時間ナトリウム排泄量の違いを見てみましょう。最も塩を加える頻度が少ないグループで3.34、最も高いグループでも3.50gであり、その差は0.16gです。食塩に換算すると0.4gでしかありません。スモークサーモン1枚(10g)程度の違いです。こんなわずかな違いは塩を振るかどうかではなく、それ以外の料理に大きく左右されてしまいます。

75歳未満で発生した死亡する早期死亡のリスクは、食品に塩を添加する頻度が最も少ないグループを1とすると、「たいてい」グループは1.07、最も頻度の高い「常に」グループは1.28でした。

 

上の図は野菜と果物の総摂取量(A)および尿中カリウム(B)と、全原因による早期死亡のリスクと塩の添加頻度との関連です。野菜と果物の総摂取量が最も多いグループでは、食塩を加える頻度とは関連が認められません。同様に、尿中カリウムが高いグループでは食塩を加える頻度とは関連が認められません。つまり、食塩を加える頻度が影響するグループとそうでないグループが存在し、恐らくはカリウム摂取量が少ない場合にはナトリウム摂取量が関係するのでしょう。

上の図は男女別、45歳以降の累積生存期間の推定値です。常に添加するグループは赤、たいていは黄色、時々は青です。食品に塩を決して/めったに加えないグループと比較した平均余命は50歳のとき、食品に常に塩を加える女性の平均余命は平均1.50歳低く、常に塩を加える男性の平均余命は平均2.28歳低くなりました。60歳での平均余命は、女性と男性でそれぞれ1.37歳と2.04歳低くなりました。

 

今回の研究でも、食事に関する研究では常に問題視される、背景、特徴の違う集団を比較してしまっています。つまり、ある健康的と考えられている食材をたくさん摂る集団は、他にも健康的である食習慣、生活習慣などを持っていることが多いのです。全く背景や特徴も同じで、その食材だけを多く摂っているか少なく摂っているか、なんていう観察研究は存在しません。もちろん調整はされますが、数字遊びに過ぎないでしょう。

一般的な考えでは、塩分の摂り過ぎが様々なリスクを増加させ、問題視されています。よく塩分の摂り過ぎは血中の塩分濃度を増加させ、それを薄めようと血管内に水分が引き込まれ、血液量が増加して、血圧が高くなるなどという説明がされます。しかし、高血圧の人が血圧が正常の人よりも血液量が増加しているわけではありません。夏になれば、老若男女問わず水分摂取、塩分摂取の大合唱です。高齢者は高血圧の割合が高いのに、体の水分量が少ないとも言われています。矛盾しています。しかし、人間の体はホメオスタシスが整っていて、塩分を摂取しすぎれば、尿中に排出するだけです。血中のナトリウムは通常の生活ではほとんど変動しません。

糖質制限では一般的に尿中へのナトリウム排出が増加します。ナトリウム排出増加がリスク増加に直接つながっているとは思えません。食塩に感受性がある人もいるようですが、私は「high fructose-induced salt-sensitive hypertension」(高果糖誘発性食塩感受性高血圧)という言葉があるように、果糖が食塩感受性高血圧を誘発していると思っています。(「当然高血圧も糖質過剰症候群」参照)

塩分は今回のようなレベルの低い論文がいくつもあり、それを寄せ集めても本来は十分なエビデンスには成りえません。しかし、塩分制限は一般的に浸透し、医師もそれに疑問を持ちません。このようなレベルの研究で良いのであれば、糖質制限の有効性などはもっともっと医師が強く推奨していいものだと思います。現実にはそのようになっていません。糖質の有害性を、塩、赤肉、脂質などにすべて被せているように見えます。

エビデンスは作り上げて、論文にしてしまえば、勝手に独り歩きしてくれます。以前の記事「糖質を制限すると寿命が縮まる? 冗談のような研究」で書いたように、一流の医学雑誌と言われている「Lancet」にとんでもない研究が掲載されました。しかし、この論文はかなり大手を振って独り歩きしています。この論文を根拠に糖質制限を否定する人は、中身を読んでいないか、理解できるほどの知識がないか、騙そうとしているかのどれかでしょう。

塩は工業製品の塩化ナトリウムではなく、できる限り自然のものから作られた、様々なミネラルを含んだ塩の方が私は良いと思います。

何を信じるかはそれぞれの判断です。

 

「Adding salt to foods and hazard of premature mortality」

「食品への塩の添加と早期死亡の危険性」(原文はここ

6 thoughts on “食品への塩の添加頻度と早期死亡の危険性”
  1. よく、工業製食品は体に良くなく、自然由来のものが良いと言われますが、それは本当でしょうか?
    地球上に存在するすべての物質は、約100ある元素の中からの組み合わせで構成されているそうです。
    それは工業製食品であっても、自然由来のものでも同じです。
    そう考えると、一概には言えないのではないかと思っています。

    1. 笠原さん、コメントありがとうございます。

      もちろん一概には言えないこともあるでしょう。
      しかし、単品の物質をいろいろ組み合わせて作り上げた工業製品と、自然のものが全く同じとは私は思っていません。
      すべてご自身の判断で良いと思います。

  2. 「しかし、人間の体はホメオスタシスが整っていて、塩分を摂取しすぎれば、尿中に排出するだけです。
    血中のナトリウムは通常の生活ではほとんど変動しません。」
    冷静に考えれば、(特に冷静でなくても)正論。
    しかし、塩分=高血圧の元凶、さらに高血圧は脳卒中や心筋梗塞の元凶という
    「常識」が罷り通っていますね。
    逆に食品や飲料に大量に含まれている糖質(特に)果糖こそ疾患の元凶、という「真実」は認識されにくいです。

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      塩分の摂り過ぎが高血圧の原因というのであれば、糖質制限で塩分制限もせずに、
      多くの人が血圧が下がるのはなぜなのか、説明してほしいですね。

  3. 江部先生がおっしゃるように「糖質制限では、塩分制限は必要なし」に賛同します。
    私はプチ糖質制限ですが、数年前まで130くらいだった血圧が100代くらい下がり、朝はしんどい感じで体調が悪かったのが続いていました。マグネシウムを摂るようになった影響もあると思います。
    最近は、意識的に塩分を増やす(くるみ、ピーナッツと一緒に塩も、など)ようにして、朝の血圧も120代に上がり体調が良くなりました。
    糖質制限する人は、減塩するのはやめた方がよいと思ってます。やるなら体調と相談しながらですね。

    1. いくさん、コメントありがとうございます。

      江部先生にも「糖質制限では塩分制限必要なし」を言っていただけるようになり、心強く感じました。
      以前の記事「糖質制限で倦怠感やエネルギー切れを感じる場合」で書いたように
      糖質制限で倦怠感やエネルギー切れを感じる場合、多くはエネルギー摂取量不足か、塩分不足だと思います。

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