妊娠中の鉄サプリの使用は慎重に その3 1型糖尿病

以前の記事「その1」「その2」では、有害な妊娠転帰、妊娠糖尿病の可能性について書きました。今回は生まれてきた子供の1型糖尿病発症のリスクです。

ヘモクロマトーシスという病気でなくても、鉄の貯蔵量を表すフェリチン増加は健康に見える女性の2型糖尿病のリスクを増加させるということは、以前の記事「明らかに健康そうな女性でも鉄の体内貯蔵量の増加は糖尿病のリスクを増加させる」でも書きました。鉄のサプリが妊娠時ではない女性の糖尿病および妊娠糖尿病だけでなく、胎児に影響を与え、そして生まれてきた子供に1型糖尿病のリスクになる可能性があります。

今回の研究では、ノルウェーで94,209の妊娠のうち、373人の子供 (女児188人、50.4%) が 1型糖尿病と診断されました。出生から追跡調査終了までの期間の中央値は11.5年でした。妊娠中のある時点で、94,209の妊娠の64%で鉄のサプリメントが使用されており、妊娠週数の増加に伴い、より使用されていました 。

使用者の割合は、妊娠中の任意の時点で貧血と診断された88%、またはヘモグロビンが10.5 mg/dL 未満では80%、と最も高かったのですが、正常なヘモグロビン12.5 mg/dL 以上の妊婦の半数以上(57%)が、鉄サプリを使用していました。鉄サプリメントの使用者は、喫煙する可能性が低く、年齢と教育が高く、妊娠前の(BMI)が低い傾向がありました。(図は原文より)

 

上の図は妊娠中の鉄サプリ暴露と生まれた子供の1型糖尿病のリスクです。母親が鉄サプリを飲んでいた子供の1型糖尿病の発生率は36.8/100,000/年、鉄サプリを使用していない子供の発生率は28.6/100,000/年でした。鉄サプリ群の方が33%リスクが高いことになります。妊娠17 週の前にのみ鉄サプリを使用した場合リスクが最も高く1.75倍でした。

別のデンマークの研究では、1991年から2005年までに16歳未満で1型糖尿病と診断された199人の子供と、生年月日が一致した199人の対照の新生児の血液サンプルを使った研究があります。(ここ参照)その結果は、新生児の血液の鉄の含有量が2倍になると、1型糖尿病の発症リスクは2.55倍になっていました。これは直接妊婦の鉄サプリとの関連を調べたものではありませんが、鉄サプリ摂取の増加は新生児の鉄を増加させる可能性があるでしょう。

さらに、別の研究では、乳児期の最初の4か月間の鉄摂取量と1型糖尿病の発症を分析した研究があります。(ここ参照)1歳から6歳の間に1型糖尿病を発症した128人と対照67人の子供の親から、生後から4か月の乳児の摂食の種類に関するデータを収集しました。食事アンケートですからデータの質は低いですが、粉ミルクの種類により鉄摂取量の推定はある程度可能でしょう。対象の子供は1型糖尿病の兄弟で糖尿病ではない場合は年齢が合えば対象に含まれました。

生後4か月の総鉄摂取量の中央値は、1 型糖尿病で1159mg、対照で466mgと大きく異なっていました。鉄摂取量が540mg増加するごとに、1型糖尿病の可能性は2倍になっていました。同じ親から生まれた兄弟でも同様で、鉄の539㎎の増加で1型糖尿病の可能性は2.26倍になっていました。ラクトフェリンに守られていない状態の鉄は危険なのかもしれません。

人類は進化の過程で、鉄の塊を口に入れたことはないでしょう。鉄はあくまで肉などに含まれる成分でしかありません。食品から得られる鉄と、鉄の塊のサプリでは人体に対する影響は違う可能性があります。

胎児でも新生児でも、もしかしたら膵臓のβ細胞が鉄に対して脆弱なのかもしれませんし、鉄が免疫に作用しているのかもしれません。母子の妊娠時から乳児期の鉄の摂取の仕方は慎重に考えるべきでしょう。

 

「Prenatal iron exposure and childhood type 1 diabetes」

「出生前の鉄曝露と小児期の 1 型糖尿病」(原文はここ

3 thoughts on “妊娠中の鉄サプリの使用は慎重に その3 1型糖尿病

  1. 医薬品や食品は勿論の事、サプリメントや特定保健食品など体内に入れる物は安全性の検査を経て販売されると思うのですが、
    検査で測ることのできないリスクも有りそうですね。

    1. 鈴木 武彦さん、コメントありがとうございます。

      安全性の検査?してますかね?
      してたとしても薬剤よりはかなり甘い検査だと思います。

  2. 確かに「ジャンクフード」が
    蔓延している現状では、
    日々、自己判断能力が試されますね。

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