糖質制限では運動強度がどれくらい増加すると糖質をメインエネルギー源とするのか? その2

今回は以前の記事「糖質制限では運動強度がどれくらい増加すると糖質をメインエネルギー源とするのか?」の続きです。前回の記事でも示した、エネルギー源として下の図のようなことが本当であれば、安静時のエネルギー源は全て脂肪ということになり、糖質は安静時のエネルギー源ではないということになります。(図は原文より)

ただ、実際の人間のエネルギー源は上の図のような仮説とは異なるようです。

上の図は持久力トレーニングを受けている30歳前後の61人の男女の安静時呼吸交換比 (RER) です。呼吸商とほぼ一緒です。脂肪のみが燃焼すると0.7に、糖質のみが燃焼すると1.0になります。そうすると、平均は0.82くらいですので、安静時のエネルギー源の約37% がブドウ糖の酸化に由来しているのです。左端のおよそ3%の人ではRERが0.70、つまり100%の脂肪をエネルギー源にしています。つまり、一般的な糖質過剰摂取でトレーニングをしていても、ほとんどの人は安静時のエネルギー源は脂肪だけでなく、かなりの割合で糖質をエネルギー源としてしまっています。RERが0.9を超えている人もいるので、糖質が70~80%のエネルギー源だという人もいるということです。

RERが0.83の健康な女性で、6 日間食事の炭水化物含有量を44.5%から54.4%に増加させただけで、RERは0.86に増加しました。つまり、普段の食事によって容易にエネルギー源は変化し、糖質摂取量が多ければ安静時でさえ多くの糖質がエネルギー源となると考えられます。

上の図のような安静時でさえ糖質がかなりのエネルギー源になっている場合(図ではおよそ30%)脂肪と糖質のエネルギー源の割合が逆転するクロスオーバーポイントはVo2maxの30~40%程度ということもあり得ます。さらにその上の図で述べたように、RERが0.9を超えている人ような人は1日中ずっとメインエネルギーは糖質であり、なかなか脂肪がエネルギー源とならない人もいると考えられます。低中強度の運動をすると脂肪の燃焼がブドウ糖の燃焼を上回る、いわゆる「脂肪燃焼ゾーン」があるかのように一般的に思われていますが、それは食事によって、ほとんどのゾーンが脂肪燃焼ゾーンの人もいれば、脂肪燃焼ゾーンが無い人もいると思われます。

脂肪の酸化は安静時の人間のエネルギー需要を完全にカバーできると考えられるので、安静時のブドウ糖の酸化はエネルギー供給以外の目的を果たすということかもしれません。それとも、ある意味糖質過剰摂取への適応として、ミトコンドリアの機能低下やインスリンの増加による脂肪分解抑制が起きているのかもしれません。

糖質制限は脂肪酸化と血中ケトン体を増加させ、食後のブドウ糖の酸化を低下させますが、それはインスリン濃度が非常に低い場合であり、脂肪の酸化は生理学的範囲内のインスリンの小さな変化に非常に敏感であり、その影響は急速であり、広範囲にわたる生化学的変化をもたらすでしょう。

「ブドウ糖は重要なエネルギー源」と言い続けている医師や栄養士がいますが、エネルギー源にできることと、エネルギー源にして良いかどうかは別問題です。糖質をエネルギー源にすればするほど酸化ストレスが増加し、人体には有害です。

アスリートのパフォーマンスだけで見れば、もしかしたら糖質をエネルギー源にした方が有利な人、競技もあるでしょう。しかし、それは健康とは別の問題です。

以前の記事「運動するために糖質過剰摂取は必要ない」で書いたように、アスリートであっても高炭水化物食では30%の人が平均グルコースおよびグルコース中央値が100を超え、平均グルコース値が100を超えていた30%は空腹時でも100を超えていました。つまり、前糖尿病の状態です。

また「運動中のスポーツドリンクは脂肪の燃焼を大きく減らす」で書いたように、運動時のスポーツドリンクや運動前の食事などの糖質で脂肪をエネルギー源にする能力を大幅に低下させてしまいます。

人間の初期設定は安静時も運動時も脂肪がメインエネルギーです。緊急時に初めて糖質がエネルギー源になると思われます。

そう考えるとマラソンの前のカーボローディングは非常に有害ですね。

 

「Low carbohydrate high fat ketogenic diets on the exercise crossover point and glucose homeostasis」

「運動のクロスオーバーポイントとグルコース恒常性に関する低炭水化物高脂質ケトジェニックダイエット」(原文はここ

4 thoughts on “糖質制限では運動強度がどれくらい増加すると糖質をメインエネルギー源とするのか? その2

  1. いつも大変興味深い論文ありがとうございます。

    私は糖質制限して、7年弱です。マラソンは、サブ4レベルです。カーボローディングは、したことがなく、マラソン当日も、ゆで卵3個食べるのが、ルーティンです。エイドもスポーツドリンクすら摂らず、主に「水」のみです。30キロ以降の後半極端にペースダウンすることがないのは、糖質制限のおかげかなあ、と思っています。

    さて、最近1500mなどの中距離の記録会などに出ることがあるのですが、ものすごく遅いです。6分半近くかかります。実力か?それとも、糖質制限が原因か?などと、考えたりします。(だからと言って糖質を摂るつもりはない。)

    短距離・短時間・高強度競技ほど、パフォーマンスを発揮するには、糖質を摂った方がいいと、考えてよろしいのでしょうか?

    1. 三世 敏彦さん、コメントありがとうございます。

      ほとんどピークに近い強度で最後まで走るので、中距離は一番影響があるかもしれませんね。
      脂肪では間に合わない可能性がありますね。
      脂肪と糖質のエネルギー源の切り替えは食事差、個人差が大きいとは思います。

  2. 一瞬で勝負を決する相撲は
    究極の糖質エネルギーメイン競技
    なのでは?

    引退した力士が短命なのも
    もしかしたら関係あるのでしょうか。

    1. 鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。

      相撲ほど不健康な競技はあまり無いと思います。

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