HDLコレステロールはいわゆる「善玉」と言われています。もちろんその一方で「悪玉」はLDLコレステロールです。しかし、コレステロールはどちらも同じですし、悪いものでは決してありません。コレステロールを運ぶHDL、LDLなどの質の方が重要であり、量の問題ではありません。
糖質過剰摂取やメタボリックシンドロームでは多くはHDLコレステロールが低下しますが、HDLの機能はどうなのでしょうか?
今回の研究では39人のメタボの人を対象に10週間のウォーキング/ランニングトレーニングでHDLがどうなるか調べました。トレーニングは週5、継続時間は約30分から60分まで徐々に増加し、トレーニング強度は10週目の終わりまでに最大心拍数の60~70%まで徐々に増加しました。食事は自由です。(図は原文より、表は原文より改変)
コントロール | トレーニング | |||
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ベースライン | 10週間 | ベースライン | 10週間 | |
年齢 (y) | 60.55±1.38 | 59.08±0.81 | ||
体重(kg) | 72.00±2.66 | 73.45±10.34 | 71.35±1.65 | 70.2±8.28 |
BMI (kg/m 2 ) | 28.32±0.87 | 28.88±3.45 | 28.59±0.58 | 28.09±2.44 |
腹囲(cm) | 104.4±3.17 | 104.5±11.25 | 101.8±2.92 | 98.1±6.55 |
最高血圧 (mmHg) | 140.2±5.17 | 140.5±19.89 | 143.6±3.52 | 138.8±17.90 |
拡張期血圧 (mmHg) | 84.82±2.37 | 83.45±9.73 | 86.09±1.48 | 84.04±9.67 |
総コレステロール (mmol/L) | 5.17±1.06 | 5.22±1.19 | 5.04±1.07 | 5.11±0.97 |
中性脂肪 (mmol/L) | 2.56±1.82 | 2.82±1.53 | 2.39±1.30 | 2.24±1.02 |
HDL-C (mmol/L) | 1.27±0.12 | 1.22±0.32 | 1.25±0.27 | 1.35±0.33 |
LDL-C (mmol/L) | 2.74±0.28 | 2.73±0.80 | 2.80±0.83 | 2.68±0.53 |
血糖値 (mmol/L) | 7.55±0.77 | 8.59±3.36 | 8.18±2.48 | 7.76±2.46 |
RbaPWV | 1590±62.2 | 1571±141.9 | 1603±67.9 | 1559±103.3 |
LbaPWV | 1547±70.5 | 1593±130.3 | 1641±66.3 | 1609±91.7 |
上の表は10週間での変化です。トレーニング群ではやや様々な改善傾向を示しましたが、有意な改善はありませんでした。
上の図のA、Bに示すようにPON1(パラオキソナーゼ1)の活性が10週のトレーニング群で増加しています。PON1は抗酸化作用を担っており、PON1の活性が低下してしまうとHDLは抗酸化作用を発揮できなくなり、機能障害を起こすと考えられます。トレーニングで明らかにPON1活性が大きく増加しました。
図のC、D、Eで示すように、酸化ストレスのマーカーであるマロンジアルデヒド(MDA)はトレーニングで顕著に減少し、HDLでもLDLでも認められました。
ただしスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)の活性に変化はありませんでした。
上の図のようにマクロファージからのコレステロール流出能力に影響はありませんでした。
さらに、トレーニング群のメタボでのHDLでは腫瘍壊死因子α(TNF-α)誘発損傷から内皮細胞を保護し、単球走化性タンパク質1レベルと血管細胞接着分子1発現を顕著に減少させ、内皮の一酸化窒素合成酵素を活性化することにより一酸化窒素産生を明らかに増加させました。
つまり、10週の有酸素運動によるトレーニングでさえHDLの抗炎症作用の低下を逆転し、HDLの機能が改善するのです。
単純な血液検査のデータの数値ばかりではなく、質を重視する必要があります。
以前の記事「HDLの糖化は機能障害を起こす」で書いたように、糖質過剰摂取ではHDLが糖化し機能障害を起こします。糖質過剰摂取の人は糖質制限と運動でHDLの本来の機能を取り戻しましょう。
「Walk-run training improves the anti-inflammation properties of high-density lipoprotein in patients with metabolic syndrome」
「ウォークラントレーニングはメタボリックシンドローム患者のHDLの抗炎症特性を改善する」(原文はここ)
健康診断の数値に一喜一憂せず、ましてや健診直前に帳尻合わせの禁酒禁煙ダイエット
などに励む事無く、糖質制限や有酸素運動などを当たり前の習慣にしたいですね。