糖尿病でも前糖尿病より正常を目指そう

糖尿病のHbA1cは6.5以上であり、前糖尿病(糖尿病予備群)は6以上6.5未満です。5.6以上6未満は正常高値と言われているものです。HbA1cだけで糖尿病の診断はできませんが、できれば、もちろんですが5.6未満が望ましいでしょう。

糖尿病学会のHbA1cの目標値は次の図のようです。(図はここここより)

日本糖尿病学会の熊本宣言2013 ―あなたとあなたの大切な人のために Keep your A1c below 7%―で、多くの糖尿病患者さんにおける血糖管理目標値をHbA1c7%未満としています。6%を目指すのは食事と運動で達成できるか、薬でも低血糖などを起こさない場合としています。薬を使わなければまず低血糖にはなりませんが。日本糖尿病学会の目標値はユルユルで、多くの人の目標値は前糖尿病のレベルさえも目指していません。「寛解」なんて鼻から頭にない感じです。つまり、日本糖尿病学会は糖尿病を治すつもりがありません。さらに高齢者となるともっと目標はユルユルです。

どうしてそうなるかというと、標準治療で寛解はほとんど達成できないことがわかっているからです。(「糖尿病の標準治療では患者の寛解はせいぜい100人に1人」など参照)

本当にそんな低い目標で良いのでしょうか?

今回の研究では前糖尿病の人がその後どうなるかによって、心血管疾患や死亡リスクがどう変わるかを分析しています。 前糖尿病の人45,782人(男性62.9%、アジア人100%、平均年齢44.6歳)が対象で、3年間で1,786人(3.9%)が糖尿病を発症し、17,021人(37.2%)が正常血糖に戻りました。追跡期間は8年です。(図は原文より)

上の図は1000人年あたりの死亡率です。糖尿病に進行する方がやはり死亡率は高くなっています。

上の図のように全原因死亡は前糖尿病のまま維持した人よりも1.5倍の死亡リスク増加で、心血管疾患死亡は1.61倍です。

もう一つ他の研究を見てみましょう。心筋梗塞や脳卒中を患っていなかった前糖尿病の14,231人(平均年齢58.08歳)が対象で、2年間でどう変わったかにより、その後のリスクを調べています。追跡期間は8.75年です。2年後には、44.92%が正常血糖になり、41.78%が前糖尿病を継続し、13.29%が糖尿病に進行しました。(図は原文より、表は原文より改変)

変数前糖尿病の変化
糖尿病への進行前糖尿病維持正常血糖
心筋梗塞
発生率、1000人年当たり1.971.290.78
モデル310.90 (0.60–1.32)0.62 (0.40–0.97)
脳卒中
発生率、1000人年当たり6.474.813.93
モデル310.91 (0.74–1.12)0.79 (0.63 ~ 0.98)
  虚血性脳卒中
  発生率、1000人年当たり5.914.133.26
  モデル310.86 (0.68–1.07)0.72 (0.56–0.91)
  出血性脳卒中
  発生率、1000人年当たり0.810.660.63
  モデル310.98 (0.55 ~ 1.76)0.96 (0.53–1.76)
心血管疾患
発生率、1000人年当たり8.216.084.71
モデル310.93 (0.77–1.12)0.78 (0.64 ~ 0.96)
全原因死亡率
発生率、1000人年当たり8.406.285.34
モデル310.91 (0.76–1.10)0.82 (0.68 ~ 0.99)

上の表は心血管疾患、全原因死亡のリスクを示しています。糖尿病へ進行した人と比較すると、正常血糖になるとリスクは心筋梗塞で0.62倍、脳卒中で0.79倍、虚血性脳卒中で0.72倍、心血管疾患で0.78倍、全原因死亡で0.82倍でした。

 

上の図は時間経過と累積発生率です。青が糖尿病へ進行した人、赤が正常血糖へ改善した人、緑は前糖尿病維持の人です。どれも正常血糖になった人よりも前糖尿病維持、糖尿病へ進行と発生率が高まっています。

つまり、当たり前ですができる限り正常血糖になった方が良いのです。目指すは正常血糖になり、寛解を目指すべきなのです。7%未満というのはまだ糖尿病の範疇に入っている場合も多いでしょう。前糖尿病のレベルさえも目指さないのは治療と言えるのでしょうか?

以前の記事「2型糖尿病の寛解には薬ではなく糖質制限」で書いたように、寛解を目指すのであれば糖質制限です。あえて緩いハードルにするのは、糖尿病の人を糖尿病のままでいさせる戦略でしょう。ずっと患者のままであってほしいのでしょう。

早い段階で糖質制限を始めれば、寛解は全く難しくありません。糖尿病は糖質過剰症候群なのですから、糖質過剰摂取のままでは良くなりません。

 

「Risk of Death Associated With Reversion From Prediabetes to Normoglycemia and the Role of Modifiable Risk Factors」

「前糖尿病から正常血糖への復帰に伴う死亡のリスクと修正可能な危険因子の役割」(原文はここ

「Reversion From Pre–Diabetes Mellitus to Normoglycemia and Risk of Cardiovascular Disease and All‐Cause Mortality in a Chinese Population: A Prospective Cohort Study」

「中国人における前糖尿病から正常血糖への復帰と心血管疾患と全死因死亡のリスク:前向きコホート研究」(原文はここ

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