プロトンポンプ阻害薬(PPI)による筋肉の障害

筋肉の障害の副作用はスタチンの専売特許(表現が古い?)だと思いましたが、どうやらもう一つのマッチポンプ薬にもその副作用はあるようです。

まずはある研究を見てみましょう。(ここ参照)WHOの副作用データベースであるVigibaseを⽤いて、プロトンポンプ阻害薬(PPI)の症例報告を検索しました。

データベースには筋⾁痛の症例報告が868件含まれていましたが、「筋⾁痛」は様々な病態に関連する⾮特異的な⽤語であるため、本研究では「筋⾁痛」をさらなる分析から除外しました。

PPIによる様々な筋肉の障害(ミオパチー)の報告は合計292件あり、薬剤の投与中止により69例が回復し、15例で薬剤の投与再開後に再発が見られました。292例のうち3分の1ではPPIが単独投与薬剤であり、併用薬が使用された報告の57%では、報告者がPPIを疑った唯一の薬剤でした。

27件の症例で、筋炎または多発性筋炎が報告されました。横紋筋融解症は35件報告されました。これらの症例のうち9件では PPI が中止され、反応は治まりました。1件の患者でPPIが再開されましたが、反応は再発しませんでした。発現までの時間は横紋筋融解症の17件で示され、9件では横紋筋融解症が投与開始後1週間で発現し、3件では投与開始後14日から3か月の間に発現しました。これらの患者のうち12件では、スタチンが併用されていました。

症例報告では、横紋筋融解症として発症した多発性筋炎(ここ参照)、PPI治療後のスタチン関連多発性筋炎(ここ参照)、PPI誘発性皮膚筋炎の報告(ここ参照)があります。PPIは自己免疫にも影響があるようですね。以前の記事「PPI(プロトンポンプ阻害薬)は自己免疫疾患のリスクを上げる」で書いたように、PPIによる炎症性筋疾患(皮膚筋炎および多発性筋炎) リスクは37.40倍にもなる報告があります。

イタリアのデータベースの研究(ここ参照)では、PPIに関連する筋肉の有害事象の報告オッズ比(ROR)は1.484倍で、PPIと横紋筋融解症の関連性のRORは1.667倍でした。

日本医薬品有害事象報告(JADER)データベースを用いた研究(ここ参照)も見てみましょう。PPIと横紋筋融解症の関連性の報告オッズ比(ROR)は、スタチンまたはフィブラート系薬剤を併用していない場合でも、エソメプラゾール、オメプラゾール、ラベプラゾールで高く、スタチンなしで見ると、エソメプラゾールで3.14倍、オメプラゾールで7.10倍、ラベプラゾールで2.82倍でした。横紋筋融解症発現までの期間の中央値はPPIによって異なり、6.5日から127日の範囲でした。

アメリカFDA有害事象報告システム(FAERS)データベースを使用した研究(ここ参照)も見てみましょう。PPIと横紋筋融解症の関連性の、スタチン系薬剤を含まない報告におけるRORは2.5、スタチン系薬剤を含む報告におけるRORは2でした。

いずれにしても、筋肉の障害はスタチンが有名ですが、PPIも注意した方が良いでしょう。できる限り手を出さない方が良い薬です。

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