スタチンでLDLコレステロール値の低い心不全患者の方が死亡率が高い

スタチンは心臓の冠動脈疾患の予防や治療に依然としてよく使われています。私はその効果には疑問を持っています。しかし、心不全を有する患者にとっては効果がないというよりも危険である可能性があるのです。

この研究では、平均左室駆出率(LVEF)35%、平均NYHAスコア2.7を有する進行性の心不全患者305人を対象としました。左室駆出率30~40%は中等度の心不全です。

NYHAのスコアは、

1度:心疾患はあるが身体活動に制限はない。
日常的な身体活動では著しい疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じない。
2度:軽度の身体活動の制限がある。安静時には無症状。
日常的な身体活動で疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じる。
3度:高度な身体活動の制限がある。安静時には無症状。
日常的な身体活動以下の労作で疲労、動悸、呼吸困難あるいは狭心痛を生じる。
4度:心疾患のためいかなる身体活動も制限される。
心不全症状や狭心痛が安静時にも存在する。わずかな労作でこれらの症状は増悪する。

ですので、平均NYHA2.7だとすると2度よりも3度に近い人の方が多いと思われます。つまり、「高度な身体活動の制限がある」状態に近い状態だったということになります。

これらの患者を平均して11.3年経過観察し、経過観察中の死亡率は43%でした。心不全である期間は15ヶ月から20.5年の範囲でした。

患者はLDLコレステロール値110mg/dl以下の群(低LDL群)または110mg/dlより多い群(高LDL群)に分けられました。(図は原文より)

上の図は縦軸は低LDL群と高LDL群の生存率で横軸は経過年数です。実線は高LDL群で破線が低LDL群です。明らかに低LDL群の方が死亡率が高いことがわかります。

上の図の(a)は年齢、性別、左室駆出率、NYHAクラスなどで調整した70歳以下の患者の生存率(b)70歳より高齢者の生存率です。70歳以下では大きく生存率の違いがあることがわかります。70歳以下では低LDL群の方が明らかに死亡率が高いのです。

上の図はスタチンの治療を行ってLDLコレステロール値が110以下の群とスタチンの治療を受けていないLDLコレステロール値が110より多い高LDL群との比較です。(a)は70歳以下、(b)は70歳より高齢者です。スタチンの治療を受けた方が死亡率が高いのがわかります。しかも、全体の70歳より高齢者では低LDL群と高LDL群とでは差が無かったのに、スタチンを使っているかどうかで比較すると、明らかな差が出てきました。

LDLコレステロール値と死亡率との負の関連は、スタチンで治療された心不全患者の間で最も顕著だったのです。

そう考えると、心不全の患者にスタチンを処方することは無駄であるというよりも有害なのです。さらに言えば禁忌です。冠動脈疾患でもその生存の行方を左右する大きな要因は心臓の動きの障害(ポンプ不全)です。つまり心不全が大きなカギになると考えられます。

スタチンはミトコンドリア毒性を持っています。心臓のような重要な臓器は解糖系だけでATPを得ることはもちろん無理であり、ミトコンドリアのTCA回路で大量のATP産生が必要です。心不全ではすでに心臓がヘロヘロの状態です。ミトコンドリアも低下している可能性があります。そこに追い打ちをかけるようにミトコンドリア毒性を持つスタチンを投与すれば、さらに心臓のATPは減少してしまい、余計にヘロヘロになってしまうのは当然なのです。(図はこの論文より)

上の図は心臓が何を使ってATPというエネルギーを産生しているかを表しています。

外側の濃い青色は血液循環するエネルギー源の生理学的範囲を表し、内側の薄い青色のパーセンテージは、生理学的条件下におけるATP産生のために心臓がそれぞれのエネルギー源にどれくらい依存しているかの予想される割合を表しています。最も多いのは脂肪酸(Fatty acids)で次がブドウ糖(Glucose)です。脂肪酸の方がブドウ糖よりも2倍またはそれ以上心臓のエネルギー源になっているのです。心臓が脂肪酸をメインのエネルギー源にしているのは当然のことであり、ブドウ糖のようにいつ増加するかわからないものをあてにするわけにはいきません。進化の過程では糖質摂取はほとんどなかったことを考えれば、いつでも体の中にあって使用可能な脂肪酸をメインにするのは当たり前なのです。もしも非常にブドウ糖への依存が強ければ、低血糖になった時冷や汗が出るどころか、そのまま死んでしまいます。そうならないように心臓は脂肪酸を好んでエネルギー源にするのです。

その次のエネルギー源は乳酸(Lactate)およびケトン体(Keton)です。ただし、乳酸およびケトン体の割合は、運動中や糖質制限などの食事によって上昇すると、ここで推定される割合よりももっと多くなり、心臓の代謝にさらに影響を与える可能性があります。

どのエネルギー源を使用するにしても、ATP産生を行うのはミトコンドリアです。スタチンはミトコンドリアの電子伝達系に重要なユビキノン(CoQ10)を低下させます。(「糖質制限にスタチンの併用は危険ではないか?」参照)

上の図は70歳以下の心不全患者の各因子と死亡率の関係を表しています。LDLコレステロール値が110以下であることは最も死亡率を増加させ、4倍以上のリスクになっています。70歳以上を含めると1.5倍程度のリスク上昇です。

この結果は以前の記事「コレステロール値に一喜一憂しないために」や「コレステロールを恐れ過ぎてはいけない LDLコレステロール値が低いほど死亡率が上がる!」などに書いた結果と合致しています。LDLコレステロールは低いほど死亡率は上昇するのです。

さらに「中性脂肪は心不全と強い関連があるが、LDLコレステロールには関連しない!」で書いたように、心不全はLDLコレステロールとは関連せず、中性脂肪値と強い関連性が認められるという研究もあります。中性脂肪値を上昇させるのは糖質過剰摂取です。

スタチンなど飲むよりも、糖質制限でしょう。ミトコンドリアをいじめると痛い目に会います。

「A longitudinal 20 years of follow up showed a decrease in the survival of heart failure patients who maintained low LDL cholesterol levels」

「20年後のフォローアップでは、低LDLコレステロール値を維持した心不全患者の生存率の低下が示された」(原文はここ