飽和脂肪酸を減らしてコレステロールが減少すると死亡リスクが高くなる

飽和脂肪酸を減らせ、コレステロールを減らせ、というメッセージがずっと叫ばれています。一度洗脳されてしまった人は、それが正しいかどうかを考えなくなり、疑わなくなります。食事に関するランダム化比較試験はなかなか難しく、あまり行われていません。

かなり以前(1968-73年)に行われた、ランダム化比較試験であるミネソタ冠動脈実験(MCE)は、飽和脂肪酸をリノール酸の多い植物油に置き換えることによるコレステロール低下実験で、最大で恐らく最も厳密に実施された食事療法試験です。20〜97歳の9,423人の女性と男性のランダム化された集団で行われました。

しかし、その分析はちゃんと公開されておらず、その生データを分析した研究があります。(この元の研究は悪名高いアンセルキーズがやったのですが、都合が悪いのかちゃんと公開しなかったのです。)(図は原文より、表は原文より改変)

上の図はリノールさんと飽和脂肪酸の割合を示しています。左からベースライン、真ん中がコントロール、右側が食事介入です。介入した食事ではリノール酸が約3.4%から13.2%へ280%以上増加しました。逆に飽和脂肪酸は約18.5%から9.2%へ約50%減少しました。

介入群と対照群における血清コレステロールの予測および観察された変化は次の通りです

観察された食事の変化血清コレステロールの変化
リノール酸(変化率)飽和脂肪酸(変化率)Keysの方程式に基づいて予測MCEで観察
介入食288−51-18.1%-13.8%
コントロール38-1−1.1%−1.0%

*Keys の式:⊿血清総コレステロール(mg/dL)=2.7×⊿S-1.35×⊿P+1.5×⊿ (C)
⊿S:飽和脂肪酸摂取量の変化量(% エネルギー)
⊿P:多価不飽和脂肪酸摂取量の変化量(% エネルギー)
⊿(C):コレステロール摂取量(mg/1,000 kcal)の変化量
⊿C:コレステロール摂取量(mg/1,000 kcal)の変化量

介入群では予想に近いコレステロールの減少が得られました。1年以上この介入食を続けた2,355人について分析しました。

上の図は全原因の死亡率です。青い線が介入群、赤い線がコントロールです。全体では食事介入の利益が得られませんでした。それどころか65歳以上では介入群の方が死亡率が高くなっているように思えます。

上の図は左が介入群、真ん中がコントロール、右が両方合わせたものです。グラフの横軸はコレステロールの変化量で、右に行くほどコレステロールが低下していることを示しています。一番上の図が参加者の人数、次が死亡した人数、次が死亡した割合、一番下が死亡率です。そうすると、コレステロールが低下するほど死亡率が増加しているのがわかります。

介入コントロール両方のグループ
HR(95%CI)
1.22(1.04〜1.44)1.28(1.09〜1.51)1.22(1.14〜1.32)
65歳未満の参加者
HR(95%CI)
0.92(0.61〜1.37)1.12(0.79〜1.57)1.01(0.88〜1.16)
65歳以上の参加者
HR(95%CI)
1.42(1.22〜1.67)1.39(1.10〜1.76)1.35(1.18〜1.54)

上の表は血清コレステロールの30mg/dL減少ごとのリスク比を示しています。コレステロールが30減少すると、介入群では22%死亡率が増加し、65歳以上では42%も増加していました。このことは対照群でも同様であり、血清コレステロールの低下と死亡リスクの増加との間に強い関連性があると考えられます。

この結果により、もちろんリノール酸が悪さをしたと考えることもできます。実際にオメガ6を豊富に含むサラダ油、植物油は不健康だと考えられています。しかしこれもちゃんとしたエビデンスはありません。

世の中の推奨はあくまで、飽和脂肪酸およびコレステロールを減らすことが重要だということ一辺倒です。

50%も飽和脂肪酸の割合を減少させて、コレステロールも14%低下させても、死亡率に何ら利益は無く、それどころかコレステロールが低下するほど死亡率が増加するという、この研究の分析は無視できないでしょう。

以前の記事「飽和脂肪酸は心血管疾患を増加させるか?」「飽和脂肪酸は心血管疾患のリスクには関係しない」「飽和脂肪酸は心臓に悪くない」で書いたように、飽和脂肪酸は心血管疾患のリスクとは関係ないと思います。

さらに糖質制限では脂質摂取量も大きく増加しますし、飽和脂肪酸も多く摂ります。さらにどうしてもオメガ6も増加するでしょう。「アラキドン酸は本当に炎症を促進するのか?」でも書いたように、糖質制限食ではアラキドン酸の割合は増加し、オメガ6/オメガ3の比も増加、つまりオメガ6が増加し、アラキドン酸/EPA比も増加する場合も多いでしょう。それにもかかわらず炎症マーカーは減少しています。つまり、糖質過剰摂取状態での定説は糖質制限では当てはまらないと言えます。さらに、糖質過剰摂取状態で「悪」と思われていることは、実際には糖質過剰による「悪」だと考えられます。

心血管疾患は糖質過剰症候群です。飽和脂肪酸やコレステロールは濡れ衣を着せられただけでしょう。

 

「Re-evaluation of the traditional diet-heart hypothesis: analysis of recovered data from Minnesota Coronary Experiment (1968-73)」

「従来のダイエット心臓仮説の再評価:ミネソタ冠動脈実験(1968-73)から回復されたデータの分析」(原文はここ

4 thoughts on “飽和脂肪酸を減らしてコレステロールが減少すると死亡リスクが高くなる

  1. 清水先生、こんばんは。
    今回ご紹介していただいた文献の結果がこれまでなぜ評価されてこなかったのか不思議です。
    3月に血液検査をしましたが、TG 57、HDL 102、LDL 261 mg/dLでした。少し糖質制限を緩め、1日に1回、50 g程度のもち麦を食べていましたが、脂質のデータは変わっていませんでした。

    1. じょんさん、コメントありがとうございます。

      もち麦50gではそれほど変化がなかったのですね。データありがとうございます。
      その1回のもち麦のときの食後血糖値が気になりますが・・・

  2. 以前の75OGTTでは、
    空腹時血糖値が94 mg/dL、インスリンが3μU/mL
    120分までで血糖値の最高値が122 mg/dL、インスリンが20μU/mLでしたので、もち麦を50 g程度、食べたとしても、それほど血糖値は上昇していないと思っています。

    1. じょんさん、コメントありがとうございます。

      素晴らしい数値ですね。糖質制限をしている現在だと、もう少し耐糖能は悪いかもしれませんが心配ないですね。

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