ケトン食は脳の悪性腫瘍の神経膠芽腫(グリオブラストーマ)の生存率を圧倒的に高める

グリオブラストーマ(膠芽腫)は、脳腫瘍の中でも最も悪性度の高い悪性腫瘍の一つです。発症からの生存期間中央値は約1年程度であり、2年生存率30%以下、5年生存率8%以下とされます。(ここ参照)

今回の研究では、34歳から75歳のグリオブラストーマの患者18人を対象に、ケトン食の効果について調査しています。6か月を超えてケトン食を遵守するという目標を設定し、生存期間が少なくとも3年に達した場合、ケトン食と治療の組み合わせが成功したとみなしました。

1:1の食事(脂肪:タンパク質+炭水化物)から始め、ケトン血症と血糖値をモニタリングしながら、徐々に比率を増やして3:1の比率に到達し、ケトン値> 3.5 mM/L、グルコース値< 80 mg/dLを目指しました。到達した最高のケトン体比率は約2.5:1でした。これは、成人の場合、毎日のタンパク質所要量を満たしながらより高いケトン体比率を達成することは困難であるためです。食事は下の図の例のように地中海式ダイエットパターンです。(図は原文より)

ケトン食を始める前とその後3か月ごとに、ECOG(Eastern Cooperative Oncology Group)スケールに従って臨床評価を受けました。このスケールは、患者の病気がどのように進行しているか、病気が日常生活能力にどのように影響しているかを評価し、適切な治療と予後を決定することを目的としています。グレード0は、患者が完全に活動的で、病気になる前のパフォーマンスを制限なく実行できることを意味し、グレード4は、患者が完全に障害を負い、セルフケアを一切行えず、ベッドまたは椅子から動かないことを意味し、グレード5では、患者は死亡しています。グレード2と3は中間です。

研究に参加した18人の患者のうち、6人が 6か月以上、下の図のようにケトン食を遵守しました。

症例1:41歳の男性。2016年12月に脳MRI検査の結果、左側頭葉のグリオブラストーマと診断されました。主症状は持続的な頭痛と徐々に起こる言葉の検索困難(失名詞失語症)でした。2017年1月に外科的切除を受け、続いて30回の放射線療法(60 Gy)と化学療法を受けました。2017年3月、患者は補助療法として1.4:1ケトン食を開始しました。血中ケトン体と血糖値は毎日自己測定されました。患者はケトン食を開始した最初の週に適切なケトーシスを達成し、観察期間を通して高いケトン値(3~4 mmol/L)と適切な血糖値(60~90 mg/dL)を維持したました。診断から79ヵ月後の追跡調査の脳MRIでは、腫瘍の再発の証拠は見られませんでした。患者は軽度の失名詞が残っていると報告していますが、現在は教師として働いており、最新のECOGグレードは0です。

症例2:59歳の男性。小学校教師で、全身状態は非常に良好で、痩せていて運動能力の高いマラソンランナーです。2020年5月23日、56歳の時に、持続的な頭痛と突然の左半身麻痺、混乱、嘔吐のため入院しました。脳MRIでは、右側頭頭頂部に直径53 mmの大きな不均一な腫瘤が見られ、グリオブラストーマを強く示唆していました。 2020年6月5日、腫瘍の全摘出手術を受けました。組織学的検査でグリオブラストーマが確認され、化学療法を行い退院しました。2020年6月28日、下肢深部静脈血栓症(DVT)を発症し、8か月間ヘパリン治療を行いました。その後、30サイクルの放射線治療を受け、 2020年8月19日に、ケトン体比率が2:1を超えた、1日の総カロリー摂取量が2,150 kcalの古典的なケトン食療法が実施されました。患者は食事療法開始後1週目には十分なケトーシスを達成し、血中ケトン値は2.9~5 mmol/L、朝の血糖値は約72~75 mg/dLでした。栄養性ケトーシスは現在まで維持されています。MRIでは43か月の観察期間を通じて再発の証拠は見られませんでした。患者は完全に歩行可能で、現在も小学校教師として働いており、最新のECOGグレードは0です。

症例3:65歳の女性。2021年4月にグリオブラストーマと診断されました。彼女の主症状は失名詞失語でした。脳MRIでは、左側頭葉に不均一な信号と大きな血管性浮腫に囲まれた不規則な増強を伴う占拠性病変が顕著であり、グリオブラストーマと一致していました。組織病理学的検査で、グリオブラストーマが確認されました。彼女は手術(腫瘍の全摘出)に続いて放射線療法と維持化学療法を毎月5日間受けました。ケトン比> 2:1、1日の総カロリー摂取量1,500 kcal/日のケトン食を同年7月に導入しました。 6ヵ月後、患者は食事制限がきついと感じたため、食事療法を中止することを決めました。2022年4月、ケトン食中止から4ヵ月後、グリオブラストーマが再発したため、定位放射線手術(サイバーナイフ)を受けました。また、第2選択化学療法を開始し、現在まで継続しています。再発後、ケトン食による食事療法を再開することに同意し、遵守状況が改善された。血糖値は75~85 mg/dL、ケトン体は2~3 mmol/Lに維持された。現在のECOGグレードは0です。

症例4:63歳の男性。2018年2月に最初のてんかん発作の後にグリオブラストーマと診断されました。右上肢と下肢を含む焦点発作のエピソードを経験しました。軽度の右側片麻痺が認められました。脳MRIでは、中央結節と周囲の血管性浮腫を伴う、左頭頂葉に大きな不均一に増強する腫瘍が脳梁を通って反対側に広がっていることが明らかになりました。組織病理学的検査によりグリオブラストーマが確認されました。腫瘍が脳梁に浸潤し、正中線を越えて広がっているため、手術不能と判断されました。化学療法とともに、放射線療法を受けました。2018年4月に放射線療法直前に3:1ケトン食を開始しました。ケトン食療法では追跡期間を通じてケトーシス(ケトン値3〜4 mmol/L)と低血糖値(70〜85 mg/dL)を達成して維持していました。脳MRIを3ヶ月ごとに実施したところ、腫瘍の進行は見られず、周囲の血管性浮腫も減少していましたが、一部は縮小していました。しかし、診断から32か月後、再発を起こしました。ケトン食を継続しながら外科的切除を受け、2021年9月に死亡するまで(診断から43か月後)化学療法を受けました。

症例5:48歳の男性。ギター教師。混乱、興奮、失名詞失語症、左半身麻痺を主訴として2020年4月に救急外来を受診しました。症状は1か月かけて徐々に進行し、その間に頻繁な頭痛を訴えていました。脳MRIでは、造影剤で増強される右半球の大きな病変が脳梁を通って対側に拡大し、テント上で右小脳にまで広がり、境界不整、壊死および出血領域、および病変周囲の広大な血管性浮腫が認められました。これらの特徴はグリオブラストーマと一致しており、後に組織病理学的検査でグリオブラストーマであることが確認されました。ケトン食療法は、標準治療(腫瘍切除、放射線療法、化学療法)の補助治療として、診断後すぐに導入されました。MCT補給を伴う典型的なケトン食(ケトン比2.5:1)を開始し、総摂取カロリーは2000kcal/日で、1食あたり脂肪189g/日、タンパク質65g/日、炭水化物11g/日、MCT 3~4gでした。ケトン食開始後すぐにケトーシス(ケトン値3~4mmol/L)と低血糖値(70~85mg/dL)を達成し、維持していました。追跡調査中、血中ケトン値は2~3mmol/Lの間を変動し、血糖値は80~90mg/dLの範囲でした。3年近く病気の進行の兆候がなく、軽度の左片麻痺が残存していたため、より軽い日常活動を行うことができました(ECOGグレード1)。しかし、2023年5月(診断後36か月)、再発を起こし、化学療法を開始しました。現在サイバーナイフ治療を受けています。現在のECOGは3(限られたセルフケアのみ可能、起きている時間の50%以上をベッドまたは椅子で過ごす)です。

症例6:58歳の僧侶(祭司)。2020年4月に頭痛、性格の変化、攻撃性などの神経精神症状を呈して来院しました。脳MRIで左後頭頭頂部に不均一な増強を伴う占拠性病変が明らかになり、2020年5月20日に腫瘍の全摘出手術を受けました。組織学的検査でグリオブラストーマが確認されました。その後、化学療法を併用した放射線療法を受けました。診断から6か月後の2020年11月に、ケトン体比> 2.5:1の古典的なケトン食を開始し、低血糖値(75〜90 mg / dL)と十分なケトーシスを維持しました。診断から22か月後の2022年2月に、患者は焦点性てんかん発作を経験し、その後の脳MRIで再発と診断されました。このため、3回のサイバーナイフを受け、化学療法を受けました。ケトン食を継続しましたが、最終的には診断から36か月後の2023年5月に病気の合併症で亡くなりました。

18 人の患者のうち、6 人が 6 か月以上食事療法に従ったのですが、これらの患者の病気の進行に対する食事療法の効果を上の図に示します。具体的には、6 か月以上ケトン食療法に従った 6人の患者のうち、1人の患者は43か月で死亡し(したがって3年生存を達成)、1 人の患者は食事療法開始からちょうど36か月後に死亡し(したがって3年生存にわずかに届かず)、1 人の患者は食事療法開始から33か月後も生存していまが、まだ3年の目標には達していないため、最終的なパーセンテージには含まれませんでした。残りの3人もまた生存しており、それぞれ84か月、43か月、44か月経っています。したがって、3年生存率は4/6 = 66.7%です。驚異的な数字です。

上の図は6か月を超えてケトン食療法に従わなかった患者の特徴を示しています。食事療法に従わなかった12人の患者のうち、36か月生存したのは1人だけで、残りの患者は平均15.7 ± 6.7か月で死亡し、3年生存率は8.3%でした。2 つのグループの生存率を比較すると、その差は58.3% (66.7対8.3%) で統計的に有意です。

ケトン食の6人の患者全員が、ケトン食と同時に化学療法、放射線療法、コルチコステロイドも受けました。この間、血糖値が通常 80 mg/dL を超えなかったことは注目に値します。比較すると、ケトン食をちゃんと行わなかった患者では、化学療法とコルチコステロイドを併用しながら終末期ケアを行う際に血糖値が特に上昇しました。

糖質はがんのエサなので、脳腫瘍でもやはり糖質過剰摂取は予後を悪くすることは想像がつきます。(「米をたくさん食べると脳の神経膠腫のリスクが高くなるかもしれない」「高血糖は脳腫瘍の生存期間を短くする」参照)

もちろん、ケトン食や断食などの食事療法だけでは、腫瘍微小環境からブドウ糖を完全に枯渇させることはできないので、「脳腫瘍に対する糖質制限の効果と限界」で書いたように、非常に悪性のグリオブラストーマに最後まで打ち勝つことは難しいでしょう。

しかし、それでもこのようなケトン食のパワーは驚異的でしょう。圧倒的に生存期間が違います。

がんの手術後や抗がん剤治療中などに食欲が低下したとき、医師や看護師などが「何でも良いから食べられるものを食べて」という無責任なアドバイスをします。しかし、がんの治療中だからこそ、食べたいもの(その多くは糖質をたっぷり含んだもの)ではなく、糖質をできる限り排除したものを食べるべきです。

ただ、一番はがんにならないようにすることです。まずは糖質制限でがんを予防しましょう。

「Successful application of dietary ketogenic metabolic therapy in patients with glioblastoma: a clinical study」

「神経膠芽腫患者に対する食事性ケトン代謝療法の成功:臨床研究」(原文はここ

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