糖尿病薬?やせ薬?GLP-1受容体作動薬の副作用 その4 がん

これまで「その1」「その2」「その3」を書いてきました。今回はその続きです。最も副作用として恐ろしいのはがんの発症ではないでしょうか?

今回の研究では、FDAの有害事象報告システムに基づいてGLP-1受容体作動薬がすい臓がんの検出増加と関連しているかどうかを判断しました。

医薬品の副作用報告データベースの情報を、特定の有害事象とその他の有害事象、特定の医薬品とその他の医薬品に分類して要約した指標である比例報告比(PRR)と報告オッズ比(ROR)で示しています。関連性がなければ、いずれも1に近い値となり、1より明らかに大きい値となる時、シグナルとして捉えることができます。(図は原文より)

上の図は5つのGLP-1薬関連すい臓がんのシグナルの検出です。合計3,073件のすい臓がん症例がGLP-1薬に関連していました。リラグルチドで最も高いシグナルが認められ、報告オッズ比(ROR)は54.45、比例報告比(PRR)は52.52でした。エクセナチドではROR37.32、PRR36.45、リキシセナチドではROR37.07、PRR36.0、セマグルチドでROR7.43、PRR7.39、デュラグルチドでROR6.47、PRR6.45でした。

このようなファーマコビジランスの研究に基づくと、GLP-1薬はすい臓がんと大きく関連しているように見えます。

他の研究も見てみましょう。(この論文参照)

上の図は有害事象について報告されたFDAのデータベースによる、GLP-1受容体作動薬のエクセナチド、DPP-4阻害薬のシタグリプチンとコントロールとを比較したものです。その3で述べた膵炎の報告、次にすい臓がんの報告、甲状腺がんの報告、そして他の全てのがんの報告です。

膵炎の報告の可能性は、コントロール群と比較して、エクセナチド で10.68倍、シタグリプチンで6.74倍でした。

すい臓がんが発生する可能性は、コントロールと比較しても2倍以上で、他の治療法と比較してもエクセナチドで2.9倍高く、シタグリプチンでは2.7倍高くなりました。

甲状腺がんの報告された発生率は、エクセナチドでは4.73倍増加しました。

やはり、GLP-1薬はすい臓がんのリスク増加がありそうです。それに加えて甲状腺がんも高くなるかもしれません。さらにDPP-4阻害薬も膵炎およびすい臓がんの注意が必要です。

もう一つ見てみましょう。すい臓がんではなく胆管がんのリスク増加との関連を調べています。DPP-4阻害薬およびGLP-1受容体作動薬の使用が、2型糖尿病の人における胆管がんのリスク増加と関連しているかどうか?(この論文参照、表は原文より改変)

使用薬調整後のハザード比
その他の第二選択または第三選択の糖尿病薬1.00
DPP-4阻害薬1.77 (1.04 ~ 3.01)
GLP-1受容体作動薬1.97 (0.83 ~ 4.66)

数が非常に少ないので、リスク増加の評価は難しいですが、DPP-4阻害薬では1.7倍でした。GLP-1薬は有意ではありませんが一応1.97倍です。

下の表はWHOのVigiBaseを使用した胆管がんの報告オッズ比(ROR)です。

使用薬ROR (95% CI)
スルホニル尿素またはチアゾリジンジオン                 1.00
DPP-4阻害薬                 1.63 (1.00 ~ 2.66)
GLP-1受容体作動薬                 4.73 (2.95 ~ 7.58)

ファーマコビジランス分析の結果では、他の糖尿病薬のスルホニル尿素またはチアゾリジンジオンの使用と比較して、DPP-4で1.63倍、GLP-1薬で4.73倍の報告オッズ比の増加がありました。

GLP-1薬はどうやらすい臓がんだけでなく、いくつかのがんと関連がありそうです。絶対的リスクはかなり低いですが、やはりがんのリスクを上げるような薬を安易に使用するべきではないでしょう。

GLP-1受容体作動薬という新しい糖尿病薬が、長期的な有益な結果を示す証拠がないにもかかわらず、急いで市場に投入され、しかも減量効果もあるために広く宣伝されて、ダイエット目的にまで使用されています。

わずかな違いを過大に見せて、効果ばかりを宣伝します。リスクはいつも過少に示されます。集団レベルの話と個人のレベルの話を混同し、得られる利益は有害性を上回ると言われます。大きな副作用が起きた個人にとって得られる利益はありません。実際に何か起きてもいつも因果関係不明で終わり。有害性がしっかりと証明されるまでは無害であるかのような、現在の医療の風潮は憂慮すべきです。リスクの証拠は徐々に蓄積してきているにもかかわらず、危険性は積極的に無視されます。製薬会社は自ら安全性を監視するとは思えません。それを承認した厚労省も役に立つとは思えません。問題が大きくなるまで放置でしょう。

薬で、医療で何でも解決すると思わせることは間違いです。生活習慣、特に食習慣の間違いで起きた問題を薬で根本的に改善できるものではなく、原因に対処すべきです。人間は楽な道を選びがちです。好きなものを好きなだけ食べて、我慢せず、この薬を使えばあなたの悩みは解決!なんて詐欺でしょう。

「Glucagon-like peptide 1 receptor agonists and the potential risk of pancreatic carcinoma: a pharmacovigilance study using the FDA Adverse Event Reporting System and literature visualization analysis」

「グルカゴン様ペプチド 1 受容体作動薬とすい臓がんの潜在的リスク: FDA 有害事象報告システムと文献視覚化分析を使用したファーマコビジランス研究」(原文はここ

3 thoughts on “糖尿病薬?やせ薬?GLP-1受容体作動薬の副作用 その4 がん

  1. 「好きなものを好きなだけ食べて、我慢せず、この薬を使えばあなたの悩みは解決!」
    通販CMの決まり文句そのものですね。
    (極小文字で「あくまで個人の感想です」数秒表示されますが、)

  2. 新発売の注射式GIP/GLP-1受容体作動薬というものをMRがしつこつセールスしてきます。
    薬価が高いのと新薬には慎重になっているのでまだ採用していません。
    HbA1cを下げる効果は相当ありそうな宣伝なので使ってみようかと思っていたところです。
    やはり新薬には慎重になるべきだと思い直しました。

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