「その1」では、高血圧の薬での腎臓がんのリスク増加について書きました。今回は乳がんについてです。
まずは、1,736人の乳がん症例と1,895人の健康な対照群における降圧薬と乳がんの関係を分析した研究です。(ここ参照)いずれかの高血圧の薬の使用は、閉経前の女性における乳がん発症の可能性が2.15倍でした。カルシウムチャネルブロッカーの使用は閉経後における乳がん発症の可能性が1.72倍、BMIが25以上の女性では2.05倍でした。、95%信頼区間1.16~3.63)に増加することが示された。アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)は、閉経前女性における乳がん発症の可能性が4.27倍になりました。
降圧薬の使用はトリプルネガティブ乳がんの発症の可能性が2.21倍、臨床ステージIII~IVの可能性が1.62倍、非乳管がんは1.49倍、浸潤がんは1.26倍でした。
カルシウムチャネルブロッカーはより悪性度の高い腫瘍との関連がさらに強く、ステージIII~IVの腫瘍発生の可能性が2.70倍、非乳管がんは2.63倍、ERBB2(HER2)陽性がんは2.52倍、浸潤がん1.67倍でした。
アンジオテンシン変換酵素阻害剤(ACEI)は非乳管がんの可能性が1.78倍でした。
もう一つ研究を見てみましょう。(ここ参照)55~74歳の女性で、浸潤性乳管がん患者880人、浸潤性小葉性乳がん患者1,027人、がんのない対照群856人を分析しました。現在使用中の降圧薬の使用期間の影響を調べたところ、カルシウムチャネルブロッカーを10年以上使用している場合にのみリスクの上昇が認められ、浸潤性乳管がん発症の可能性は2.4倍、浸潤性小葉性乳がんの可能性は2.6倍でした。
次は、発症リスクではなく、再発や死亡率についての研究です。まずは、初回の原発性浸潤性乳がんと診断された20歳から69歳(全体の年齢中央値は52歳)の女性を対象とした研究です。(ここ参照、表はここより改変)ルミナール型乳がん患者2,383人、トリプルネガティブ乳がん患者1,559人、HER2 過剰発現型乳がん患者615人を対象としています。
ルミナール | トリプルネガティブ | HER2過剰発現 | ||||||
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再発 | 乳がん特異的死亡 | 全原因死亡 | 再発 | 乳がん特異的死亡 | 全原因死亡 | 乳がん特異的死亡 | 全原因死亡 | |
降圧薬 | HR(95%CI) | HR(95%CI) | HR(95%CI) | HR(95%CI) | HR(95%CI) | HR(95%CI) | HR(95%CI) | HR(95%CI) |
現在降圧剤を使用していない | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 | 1 |
いずれかの降圧剤 | 1.5 (0.96, 2.4) | 1.2 (0.8, 1.8) | 1.4 (1.04, 1.8) | 1.3 (0.9, 1.9) | 1.2 (0.9, 1.6) | 1.4 (1.1, 1.8) | 0.8 (0.4, 1.5) | 1.1 (0.6, 1.9) |
利尿薬 | 1.4 (0.8, 2.5) | 1.1 (0.7, 1.7) | 1.3 (0.9, 1.8) | 1.2 (0.8, 1.8) | 1.1 (0.8, 1.6) | 1.4 (1.01, 1.8) | 0.5 (0.2, 1.2) | 0.9 (0.5, 1.8) |
カルシウムチャネルブロッカー | 1.8 (0.7, 4.3) | 2.1(1.2、3.6) | 1.4 (0.7, 2.8) | 1.4 (0.7, 2.7) | 1.9 (1.2, 3.0) | 1.8 (0.6, 5.4) | 2.5 (0.96, 6.3) | |
βブロッカー | 1.3 (0.6, 2.8) | 1.3 (0.7, 2.4) | 1.7(1.2、2.5) | 1.3 (0.8, 2.2) | 1.3 (0.8, 2.0) | 1.8 (1.3, 2.5) | 0.8 (0.3, 2.1) | 1.0 (0.4, 2.2) |
ACEI | 2.5(1.5、4.3) | 1.9 (1.2, 3) | 1.6 (1.1, 2.4) | 1.5 (0.9, 2.3) | 1.4 (0.8, 2.2) | 1.5 (1.02, 2.2) | 0.9 (0.4, 2.1) | 1.3 (0.6, 2.7) |
上の表のように、いずれかの高血圧の薬の現在の使用は、ルミナールとトリプルネガティブの乳がんの全原因死亡リスクの1.4倍の増加を示しました。降圧薬の種類別では、アンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACEI)の現在使用は、ルミナール乳がん患者における再発リスクが2.5倍、乳がん特異的死亡リスクは1.9倍、全原因死亡リスクが1.6倍でした。ほとんどの降圧薬は全原因死亡リスクの増加となりました。
もう一つ見てみましょう。(ここ参照)ステージI/IIの乳がんと診断された66歳から80歳までの女性14,766人を対象としています。中央値3年の追跡期間中、791件の二次乳がんイベント(乳がん再発または二次性対側原発性乳がんのいずれか最初の発症:SBCE)、627件の乳がん再発、237件の乳がん死亡が確認されました。
乳がん診断後の利尿薬使用は、SBCE1.29倍、再発1.36倍、乳がん死亡のリスク1.51倍になりました。β遮断薬使用者は、非使用者と比較して乳がん死亡リスクが1.41倍でした。
もちろん、高血圧の薬と乳がんとの関連はない、保護的であるという結果の研究も存在します。しかし、高血圧やがんは糖質過剰症候群ですし、乳がんもインスリン抵抗性や血糖値と関係していること、乳がんにはインスリン受容体が多いことなどを考えると、根本原因が同じなので、乳がんと高血圧の薬との関連があるのかもしれません。(「閉経後女性のインスリン抵抗性と乳がん」「インスリン抵抗性と乳がんのリスクとの関連」「ケトン食は乳がんの腫瘍を小さくする」「糖質(炭水化物)の種類と乳がん」「血糖値およびインスリンは閉経後の乳がんの発症に関連する」「血糖値の上昇は乳がんの予後を悪化させる」「乳がんで糖質制限をした方が良い理由」など参照)
高血圧にもがんにも、糖質制限ですね。