冠動脈疾患の重症度とインスリン抵抗性の関係

心筋梗塞などの冠動脈疾患ではLDLコレステロール値ばかりが重要視されているように見えます。しかし、以前の記事「LDLコレステロール値は役に立たない」で書いたように、LDLコレステロールが高かろうと、低かろうと同程度に冠動脈疾患を起こしています。LDLコレステロール値には完全に共通の基準値が設定されています(通常、検査データの基準値は検査機関によってある程度異なる)が、それにもかかわらず、基準値範囲内で冠動脈疾患が起きてしまった場合、そのような人ではさらにLDLを低下させる必要がある、などと言われています。しかし、私はその考えに疑問を持っています。

冠動脈疾患の原因は他にあるので、基準値内のLDLでも冠動脈疾患が起きると考えられます。その原因は糖質過剰摂取による高血糖、高インスリン血症、インスリン抵抗性でだと考えています。

以前の記事「心臓の冠動脈における局所のインスリン抵抗性」で書いたように、冠動脈疾患を起こす人の全身または血管はインスリン抵抗性が存在しています。さらに、「高血糖は凝固を促進し、高インスリン血症は線溶を阻害する」で書いたように、糖質過剰摂取は血栓を起こしやすくします。血栓が冠動脈に詰まれば、心筋梗塞になります。

今回の研究では、糖尿病の人を除外した安定狭心症のあるメタボリックシンドロームの79人を対象として、インスリン抵抗性との関連を分析しています。耐糖能異常をOGTT2時間値で140~199mg/dLとしています。(表は原文より改変)

耐糖能異常 正常耐糖能
年齢 62±10.3 61±9.2
男性の性別 27(54%) 11(55%)
BMI 30.19±2.27 23.62±2.92
腹囲(cm) 105.09±8.02 92.89±19.92
高血圧 40(80%) 10(50%)
喫煙 10(36%) 7(35%)
空腹時血糖(mg / dl) 85±13 80±10
ブドウ糖負荷後2時間値(mg / dl) 164±30 110±20
空腹時インスリン(μIU/ ml) 9.2±1.2 5.1±4.3
HOMA-IR 3.03±0.12 1.9±0.12
中性脂肪(mg / dl) 179.9±43 110.4±53.2
HDL(mg / dl) 40.8±10.1 50.6±10.2
尿酸(mg / dl) 4.8±1.3 5.8±2.6
Gensiniスコア 22.3±9.2 15.4±6.8
hs-CRP(mg / l) 2.85±0.31 2.8±0.30

Gensiniスコアは、冠動脈内腔の狭窄の程度と狭窄部位により点数化した重症度の評価法です。大きい方がより重症です。

年齢、性別、喫煙者の割合、総コレステロール、LDLコレステロール、空腹時血糖では統計的に有意な差は2つのグループ間でありませんでした。

耐糖能異常のグループの方がBMI、腹囲、高血圧の割合、ブドウ糖負荷後の2時間値、空腹時インスリン、HOMA-IR、中性脂肪、Gensiniスコア、炎症を示すCRPが有意に高くなりました。逆に、HDLコレステロールと尿酸値は正常耐糖能のグループの方が高くなりました。

 

r P 有意差
年齢 0.16 > 0.05 NS
腹囲(cm) 0.55 <0.001 HS
BMI 0.51 <0.001 HS
空腹時インスリン(μIU/ ml) 0.51 <0.001 HS
尿酸(mg / dl) 0.4 <0.05 Sig
中性脂肪(mg / dl) 0.59 <0.001 HS
HDL(mg / dl) 0.62 <0.001 HS
LDL(mg / dl) 0.1 > 0.05 NS
hs-CRP(mg / l) 0.48 <0.05 Sig
HOMA-IR 0.63 <0.001 HS

上の表は冠動脈の重症度を示すGensiniスコアとの相関の強さを示しています。最も相関が強いのはHOAM-IRでした。次にHDL、中性脂肪、腹囲、BMI、空腹時インスリン、CRP、尿酸でした。年齢とLDLは関連を認めませんでした。

オッズ比
HOMA-IR 4.0(2.04-7.08)
高血圧 2.33(1.26-4.35)
hs-CRP(mg / l) 1.83(1.01-3.35)
HDL(mg / dl) 1.86(1.01-3.41)

Gensiniスコアが高いこと、つまり冠動脈の重症度が高いことの予測因子で最強だったのはHOAM-IRでした。HOMA-IRが高いと4倍も冠動脈の重症度が高い可能性が高くなるのです。

糖尿病と診断される前の段階で、耐糖能が低下してきている状態であれば、すでに冠動脈疾患のリスクが大きくなると考えられます。一つの大きな指標はインスリン抵抗性です。

LDLコレステロール値よりもインスリン抵抗性、空腹時高血糖、食後高血糖などの方が余程危険です。

冠動脈疾患などの心血管疾患は糖質過剰症候群です。

 

「The relationship between coronary artery severity and insulin resistance in patients with impaired glucose tolerance and metabolic syndrome」

「耐糖能障害とメタボリックシンドロームの患者における冠状動脈の重症度とインスリン抵抗性の関係」(原文はここ

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