食事が睡眠の質にかかわっているとは多くの人は思っていないでしょう。私は睡眠障害の多くは糖質過剰症候群だと考えています。特に肥満はゆっくりと内側から自分で自分の首を絞めているようなものです。睡眠の質が低下するのは当然です。
今回の研究では、超低カロリーケトン食 (VLCKD) を1か月やって睡眠の質がどうなるかを調べています。睡眠の質はピッツバーグ睡眠の質指数 (PSQI) を使用して評価されました。(質問票はここ、実際に睡眠の質を測定したい人はここで採点できます)通常5点以下を睡眠障害なし、6点以上を睡眠障害ありとし、6~8点を軽度障害、9点以上を高度障害としています。ちなみに私は2点でした。今回の研究では5点以上を睡眠障害ありとしています。
対象は18~69 歳、BMI25.0~50.9の過体重または肥満の女性324人です。食事は1日の総エネルギー摂取量を800kcal未満に制限し、炭水化物13%(1日あたり30g未満)、タンパク質43%(1.2~1.5g/kg理想体重)、脂質44%の食事です。エネルギーが少なすぎるのが気になりますが、まあ見ていきましょう。(図は原文より、表は原文より改変)
パラメーター | ベースライン | VLCKD 31 日目 | Δ% |
---|---|---|---|
人体計測パラメータ | |||
体重(kg) | 99.93±16.80 | 87.82±15.62 | − 7.3 ± 2.90 |
BMI (kg/m 2 ) | 35.64±5.51 | 32.98±5.19 | |
腹囲(cm) | 104.83±15.36 | 98.14±14.34 | − 6.22 ± 5.57 |
体組成 | |||
除脂肪体重 (kg) | 54.37±6.67 | 53.54±6.54 | − 1.45 ± 4.78 |
脂肪量 (kg) | 40.55±13.36 | 34.28±12.28 | − 15.71 ± 9.99 |
除脂肪量 (%) | 58.19±7.23 | 61.93±7.65 | 6.61±6.23 |
脂肪量 (%) | 41.81±7.23 | 38.07±7.65 | −9.06±8.93 |
炎症パラメータ | |||
hs-CRP (mg/L) | 3.45±3.69 | 1.80±2.32 | − 38.42 ± 41.88 |
上の表はベースラインとVLCKD31日目のデータです。体重は平均で約12㎏、7.3%減少しました。脂肪量も約6㎏、15.71%減少、炎症を示すCRPも大きく低下しました。
睡眠の質PSQIはVLCKDで7.74から4.97に大幅に改善しました。
上の図はベースラインのカテゴリー別のPSQIです。左から肥満度、腹囲、身体活動、CRP値です。肥満度が高いほど、腹囲が大きい群、身体活動のない群、CRPが高いほど睡眠の質は悪くなっていました。特に肥満度3(BMI40以上)ではPSQIは13以上でした。
上の図はVLCKD31日目のカテゴリー別のPSQIです。正常体重、過体重のカテゴリーの人数が増加し、肥満度2~3の人数は減少しました。腹囲がカットオフ以下の人数、CRPが1mg/dL未満の人数も大幅に増加しました。当然、肥満度が低いほどPSQIは低くなっていましたが、全体的にもPSQIは大きく改善しました。肥満度3でも9.36に低下、肥満度2でも8.62から6.71に改善しました。腹囲が高い群でも8.33から5.73まで改善し、CRP3以上でも9.57から5.59まで低下しました。
重回帰分析では、脂肪量%の減少量が VLCKD後のPSQI変化の唯一の予測因子でした。
まあ、この研究で低カロリーにする必要があったのかなあ?と思います。普通に糖質制限でも脂肪量は減少するし、CRPも低下します。31日間で結果を出そうとして、無理な低カロリーにしたのかもしれません。
オレキシンは「食べるか眠るか?」を制御する脳内の神経伝達物質です。そして糖質過剰摂取で血糖値が高くなるとこのオレキシンは低下します。だから食後に眠くなるのだと思っています。逆に血糖値の低下によるオレキシンの増加は覚醒状態となります。(「糖質制限と睡眠」参照)糖質過剰摂取では脳のインスリン抵抗性などにより、脳のブドウ糖代謝が大きく低下してしまっている可能性があります。そうすると、脳のエネルギー不足はオレキシンの増加を招きます。そうすると覚醒状態になってしまうのです。それにより睡眠障害をもたらすのではないかと思います。糖質過剰摂取では血糖値の乱高下が起き、本来のオレキシンの日内変動が狂ってしまっていると考えられます。
さらに、肥満では物理的に空気の通り道が狭くなるのは当然でしょう。肥満では喉だけでなく、舌にまで脂肪が付いてくるようです。(「肥満は首が太い」「肥満は舌まで太って呼吸を止める」参照)睡眠時無呼吸症候群、頻繁ないびきに対して「CPAP(シーパップ):持続陽圧呼吸療法」が行われています。しかし、これも対症療法であり、CPAPをしていてもその原因が改善するわけではありません。(「いびきをかいたら糖質制限」参照)
また、しっかり眠れないからと言って安易な睡眠薬の使用も大きな問題です。簡単に依存になる(「ベンゾジアゼピン(眠剤や安定剤)は1か月で半数が依存になる」参照)だけでなく、ベンゾジアゼピン系睡眠薬は呼吸に影響をおよぼし、筋肉の緊張を緩める筋弛緩作用により上気道を虚脱・閉塞させることから、睡眠時無呼吸症候群および睡眠障害を悪化させる可能性があります。
CPAPを装着して安心していてはダメです。CPAPは対症療法ですし、睡眠障害、睡眠時無呼吸症候群は糖質過剰症候群の一つの症状にすぎません。
糖質制限では体重減少だけでなく、ケトン体による抗炎症効果もあります。睡眠の質と免疫機能の間に強い関係があることが示されています。炎症誘発性サイトカインであるIL-1、IL-6、TNF-α は睡眠調節物質として分類されています。その分泌は概日リズムに従っているようです。糖質過剰摂取で炎症がどうかし、これらの分泌のリズムも狂ってしまうのでしょう。
睡眠の質を良くするには、眠るときの環境整備だけでなく、日常の食事も重要です。太らず、炎症も減少させる食事、糖質制限が重要なのです。
「Can the ketogenic diet improve our dreams? Effect of very low-calorie ketogenic diet (VLCKD) on sleep quality」
「ケトジェニックダイエットは私たちの夢を改善できるか?超低カロリーケトン食(VLCKD)が睡眠の質に及ぼす影響」(原文はここ)
病気に直結する、またはそれ自体が
病気の「肥満」。
快感をもたらす糖質を摂れば
あっという間ですが、その先には
苦痛が約束されています。
世の中よく出来てますね。
鈴木武彦さん、コメントありがとうございます。
糖質は依存性が強いので、食品業界も医療業界も儲かります。
糖質は重要なエネルギー源とずっと言い続けるわけです。