以前の記事「糖質制限5年間の残念な結果」で取り上げた学会発表の内容が論文化されました。以前の記事「糖尿病に対する1年間の食事による生理的ケトーシスのパワー」「2型糖尿病に対する糖質制限の長期的効果 2年間でも圧倒的! その1」「その2」「2型糖尿病に対する糖質制限の長期的効果 3.5年のエビデンス」で書いた研究のその後5年まで延長した研究です。
2型糖尿病患者は、リモートでの継続的ケア介入(CCI)と通常治療 (UC) を比較する 2 年間の研究後、262 人の CCI参加者のうち194人が3年間の延長を申し出て、このうち169人が同意し、最終的には122人が5年間試験に参加し続けました。主要評価項目は、糖尿病状態の変化で、5年時点での寛解および血糖降下薬なしまたはメトホルミンのみでのHbA1c 6.5%未満などです。ベースラインから5年までの体重、血糖値、および心臓代謝マーカーの変化も評価されました。
完了者のみ n = 120 | ||||
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ベースライン n (%) | 1年 n (%) | 2年 n (%) | 5年n (%) | |
寛解: HbA1c < 6.5%、3か月以上の血糖降下療法なし | 0 (0.0) | 31 (25.8) | 33 (27.5) | 24 (20.0) |
完全寛解: HbA1c < 5.7%、3か月以上の血糖降下療法なし | 0 (0.0) | 16 (13.3) | 17 (14.2) | 8 (6.7) |
HbA1c < 6.5%、血糖降下療法なし、またはメトホルミンのみ | 14 (11.7) | 76 (64.4) | 69 (58.5) | 39 (32.5) |
上の図は2年目から持続寛解していた人(青)と、寛解を維持できなかった人(黒)の血中のケトン体であるβヒドロキシ酪酸の推移です。寛解を維持できていた人の方が研究期間全体を通じて平均のβヒドロキシ酪酸値が高くなる傾向がありました。糖尿病期間が短いこと、空腹時インスリン値が低いこと、ベースラインでの糖尿病治療薬の効力が低いこと、および治療の遵守と治療で達成された体重減少の程度は、5年間の寛解に関連する要因でした 。
上の図は1年から5年までの様々なパラメータの平均変化で、AはHbA1c、Bは体重、CがLDL コレステロール、Dが中性脂肪、EはHDL コレステロール、Fがアポリポタンパク質A-1、Gがhs CRP、Hは白血球です。
5年後、糖尿病治療薬は減少したという状況においても、ベースラインからHbA1cの絶対値0.3%減少、体重は7.6%減少、空腹時インスリンは30.6%減少、HOMA-IRは23.6%減少が持続していました。5年間治療を完了した参加者のうち、61.3%と39.5%が5%と10%の体重減少を維持しました。
そして、上の図は寛解した人もしていない人も合わせた図です。どうしても、5年間の間に少しずつ数値が戻ってきてしまっているように見えます。寛解した人としていない人を分けてみると、次の表のようになります。
変数 | 寛解(n = 24) | 寛解していない(n = 96) | グループ間差(p値) | |
体重(kg) | ベースライン | 128.7 ± 4.6 | 115.3 ± 2.3 | 0.01 |
5年間 | 113.6±4.6 | 106.3 ± 2.3 | 0.16 | |
HbA1c(%) | ベースライン | 7.0 ± 0.2 | 7.6 ± 0.1 | 0.01 |
5年間 | 5.9 ± 0.2 | 7.4 ± 0.1 | <0.001 | |
空腹時血糖値 (mg/dL) | ベースライン | 139.7 ± 9.0 | 165.0 ± 4.4 | 0.01 |
5年間 | 112.6 ± 9.0 | 159.8± 4.4 | <0.001 | |
空腹時インスリン(mIU/L) | ベースライン | 23.5 ± 2.6 | 24.4 ± 1.3 | 0.74 |
5年間 | 15.5 ± 2.6 | 17.2 ± 1.3 | 0.54 | |
HOMA-IR | ベースライン | 7.9 ± 0.9 | 8.3 ± 0.4 | 0.70 |
5年間 | 4.5 ± 0.9 | 6.8 ± 0.4 | 0.01 | |
総コレステロール(mg / dL) | ベースライン | 177.4 ± 8.6 | 184.2±4.2 | 0.48 |
5年間 | 191.3 ± 8.4 | 178.8 ± 4.1 | 0.19 | |
LDLコレステロール(mg / dL) | ベースライン | 101.3 ± 7.7 | 107.1 ± 3.8 | 0.50 |
5年間 | 115.4 ± 7.6 | 99.9 ± 3.7 | 0.07 | |
HDLコレステロール(mg / dL) | ベースライン | 47.0 ± 2.7 | 41.9 ± 1.3 | 0.10 |
5年間 | 56.5 ± 2.7 | 49.0 ± 1.3 | 0.01 | |
非HDLコレステロール(mg / dL) | ベースライン | 130.4 ± 8.4 | 142.3 ± 4.1 | 0.20 |
5年間 | 134.8 ± 8.2 | 129.9 ± 4.0 | 0.59 | |
中性脂肪(mg / dL) | ベースライン | 164.4 ± 17.4 | 189.1 ± 8.5 | 0.21 |
5年間 | 107.9 ± 17.0 | 169.8 ± 8.3 | 0.001 | |
総ApoA1(mg / dL) | ベースライン | 155.2 ± 6.1 | 145.8 ± 3.0 | 0.17 |
5年間 | 160.8 ± 6.1 | 151.9 ± 3.0 | 0.20 | |
総ApoB(mg / dL) | ベースライン | 100.4 ± 5.8 | 104.4 ± 2.8 | 0.54 |
5年間 | 102.9 ± 5.8 | 101.2 ± 2.8 | 0.79 | |
ALT(U / L) | ベースライン | 30.6 ± 2.4 | 26.7 ± 1.2 | 0.15 |
5年間 | 22.4 ± 2.4 | 29.3 ± 1.2 | 0.01 | |
AST (U/L) | ベースライン | 23.0 ± 1.8 | 21.3 ± 0.8 | 0.38 |
5年間 | 20.2± 1.7 | 23.4 ± 0.8 | 0.10 | |
アルカリホスファターゼ(U / L) | ベースライン | 75.3 ± 4.1 | 72.9 ± 2.0 | 0.61 |
5年間 | 72.1 ± 4.1 | 81.3 ± 2.0 | 0.05 | |
ビリルビン(mg / dL) | ベースライン | 0.58 ± 0.05 | 0.57 ± 0.03 | 0.90 |
5年間 | 0.44 ± 0.05 | 0.47 ± 0.03 | 0.59 | |
BUN(mg / dL) | ベースライン | 14.9 ± 1.1 | 17.2 ± 0.5 | 0.05 |
5年間 | 15.6 ± 1.1 | 17.4 ± 0.5 | 0.15 | |
クレアチニン (mg/dL) | ベースライン | 0.83 ± 0.04 | 0.89±0.02 | 0.24 |
5年間 | 0.83 ± 0.04 | 0.87±0.02 | 0.32 | |
eGFR(mL/分/1.73m2) | ベースライン | 93.3 ± 3.1 | 89.1 ± 1.5 | 0.23 |
5年間 | 91.7 ± 3.1 | 86.6 ± 1.5 | 0.14 | |
hs CRP (nmol/L) | ベースライン | 7.3 ± 1.3 | 7.6 ± 0.6 | 0.87 |
5年間 | 3.3 ± 1.4 | 4.5 ± 0.6 | 0.42 | |
白血球(k/cummm) | ベースライン | 7.0 ± 0.4 | 7.1 ± 0.2 | 0.82 |
5年間 | 5.4 ± 0.4 | 6.6 ± 0.2 | 0.004 |
5年目に寛解に至らなかった人は、糖尿病薬の使用量を減らして血糖コントロールを維持し、インスリン抵抗性、炎症、心血管リスクのマーカーの改善と同時に7.8%の体重減少を維持しました。しかし、寛解した人の方が当然改善は大きく、体重は11.7%減少していました。HbA1cも1.1%減少し、空腹時血糖値やHOMA-IRも大きく低下していました。寛解した人の方がLDLコレステロールやHDLコレステロールは増加し、中性脂肪は低下していました。肝機能の改善も大きくなっていました。
上の図は糖尿病治療薬の種類別に見た薬剤投与量と使用頻度の変化です。凡例は上から新規追加、増加、不変、減量、中止です。薬の種類は左からスルホニルウレア、インスリン、SGLT-2阻害薬、チアゾリジン薬、DPP-4阻害薬、GLP-1受容体作動薬、メトホルミンです。非常に多くの薬が中止されているのがわかります。流行りのGLP-1受容体作動薬が新規で追加されたのが多いですが、それ以外では新規追加は少ないです。
全体として、糖尿病治療薬を服用している割合は、ベースラインから5年で85.2% から71.3% に大幅に減少しました。一方、メトホルミン以外の糖尿病治療薬を服用している割合も55.7% から32.8% に大幅に減少しました。これらの大きな変化は、スルホニル尿素は27.0% から4.9%になり、SGLT2阻害薬は10.7%から2.5%に、インスリンは26.2%から13.1 %になり、インスリンを使用している人でもその投与量は大幅に減量しました。
実際のところ、もう少し良い結果を期待していましたので、残念な印象です。体重が120kg前後の人が5年間で10~15kgしか体重が減っていません。もちろんそれでも10%前後の体重減少ではありますが、もう少し減量できたのではないかと思います。ケトン体は出ているので、ある程度ちゃんと糖質制限をしていたとは思いますが、測定の前だけしっかりやって、それ以外はちょっと緩めていたのかもしれません。ケトン体の数値が寛解を維持できた人の方が、維持できなかった人よりも高いことがそれを示唆しています。
それにしても、5年間で20%の人が寛解し、6.7%の人が完全寛解というのはこれまでの研究から考えると、ものすごくいい数字でしょう。そして、これだけの薬の中止や減量ができるのも素晴らしい結果でしょう。
寛解できた人とできなかった人の違いがメカニズム的にどこにあるのか、ただ単に糖質摂取量だけなのか、それとも長年の代謝障害が続いたことで、寛解できない人では不可逆的な変化が起きているのか、まだわからないことは多いです。
寛解した人でも、低下したとはいえ、まだまだ空腹時インスリン値もHOMA-IRも高いです。空腹時でインスリンが15もあれば、空腹時でもなかなか脂肪がエネルギーになりにくい状態でしょうから、体重減少量も少ないのでしょう。参加者が運動を行っていたかどうかがわかりませんが、運動によってインスリン感受性を上げると、もう少し違いが出るかもしれません。
いずれにしても、ここまでの成績は、糖尿病の標準治療ではできませんし、糖尿病の食事療法のエネルギー(カロリー)制限でも難しいでしょう。そして5年間も続けられる食事であり、エネルギー制限ではそこまで続けられないでしょう。もちろん、糖質制限は一生続けられますけど。
糖尿病は糖質過剰症候群なので、治療は糖質制限第一です。
「5-Year effects of a novel continuous remote care model with carbohydrate-restricted nutrition therapy including nutritional ketosis in type 2 diabetes: An extension study」
「2 型糖尿病患者における栄養ケトーシスを含む炭水化物制限栄養療法による新しい継続的遠隔ケア モデルの 5 年間の効果: 延長研究」(原文はここ)